その後授業が終わるたびに雪乃はテレポートで鬱先生の教室へ一瞬で移動し、小休憩は鬱先生を護衛し、授業が始まればまたテレポートで自分の教室へ帰る、というムーブを繰り返した。
今のところ怪しい人物は見当たらない。
そして放課後、雪乃は鬱先生の元へ現れた。
「お疲れ様です」
廊下に出てきた鬱先生に雪乃が笑いかける。
鬱先生は若干疲れた顔をしていた。
「お疲れ様…大変そうやな、護衛って」
「いえ、仕事ですから」
一切の疲れを見せず、笑いかける。
「放課後は何か予定がおありですか?」
「あー、ほんまは部活に行かなあかんねんけど、今日はまっすぐ帰れってグルちゃんに言われてん」
まぁこんな状況だし無理もないだろう。
鬱先生は疲労を浮かべながら、懐から棒付きの飴を取り出し口に咥える。
「つーわけで、帰るわ」
「お供します」
「いや、寮やから大丈夫やで」
「じゃあ寮までお供します」
「……あー、実はこの後予定があって」
「何の予定ですか?」
…何だろうこの彼女に問い詰められている時のような既視感は。
鬱先生は雪乃の純粋に仕事をこなす姿に何も言えなくなる。
しかし、この後ひっそりと彼女と会う約束をしていたのだ。
何とか護衛を振り切って彼女と街に繰り出す予定だったのだが、無理かもしれない。
そんな時、
「よぉお前ら、順調か」
春翔が現れた。
「…草凪、お前の後輩は優秀やな」
「あ?どうした鬱、何か疲れてねーか」
「いや、全然大丈夫やで…」
まぁいい、と春翔は話を変える。
「鬱お前、今日はうちに泊まれ」
時が止まる。
鬱先生は数秒後、口を開いた。
「…はい?」
「寮生だろお前。夜のうちになんかあったら困るからな。うちにいりゃまぁ安全だろ」
「い、いやいや過保護すぎやて、大丈夫やって流石に」
「何があるかわかんねーだろ。これでお前になんかあって依頼主に文句言われたらたまったもんじゃないんでな」
「だからって…ほら俺今日の夜やらなあかん課題あって…」
「うちでやればいいだろ」
「あー…あと寮の奴らとトランプとかする予定あるし…」
「俺がやってやるよ」
「…何で草凪と2人でトランプせなあかんねん」
「あ?不満かコラ」
そう言いつつ春翔は懐から一枚の紙を取り出す。
「ほら、外泊届け受理してもらってきたから」
「し、仕事はやーっ!!」
確かに鬱先生の名前で受理されている。
「おまっ、本人の意思無視してもう勝手に話進めてるやんか!」
「ったくごちゃごちゃうるせーなぁ。骨粉々にされてスライムになりたくなかったら一泊くらい我慢しろよ」
受理された届けを鬱先生に押し付けながら春翔は雪乃を見る。
「俺まだ仕事あるから、家まで護衛してやれ」
「…わかった」
「じゃ、背後には気をつけろよ」と言い残し、春翔は背を向け去っていく。
「…まじか」
飴を咥えたままため息をつく鬱先生。
そんなに嫌だったのだろうか、と思いながら顔色を窺う雪乃。
「…デートはまた今度やな」
「何か言いました?」
「いや、何でもないっす…」
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