りうらの彼氏はヤニカスだ。気づいたらタバコを片手にエゴサしている。
「まぁたタバコ吸ってるの〜?」
「吸いすぎないでね」
「んー、」
りうらがどんなに注意してもいむがタバコを辞めることはなかった。
西日がタバコを吸ういむを照らす様子は世界中誰にも負けないくらいかっこよくて、それだけで絵になるような額縁にいれて飾りたいくらい美しさがある。
本人には、口が裂けても言えないけどね。
「そんなにタバコ飲んだら死んじゃうよ…?」
つい心配になって放った言葉は、
「ふふっ…りうちゃんは優しいねチュッ」
「んっ…」
ほんのりタバコの風味がするキスで消されてしまった。
「タバコくさいー」
「はははっごめんごめん」
りうらがちょっとした文句を言ってもいむはにこにこと笑うだけだった。「嫌いになった?」と困り眉で聞くいむに「んーどうかな〜?」と意地悪してみる。タバコ臭いいむとのキスも嫌いじゃないよ、と口には出さず心の中でそっと呟く。
タバコ依存気味のいむも、三度の飯よりエゴサを優先するいむも、全部、紛れもないりうらが愛したいむだから。
「愛してるよ、いむ」
「……ありがと」
「いむh……」
「あっ、タバコのストック買わなきゃ」
「……」
りうらが愛したいむ…だから、、
「ね、ねぇ、いむっ!」
「ん〜?」
「久々にえっちしない…?」
珍しく次の日にファンミもダンスレッスンもない今日。だいぶご無沙汰していた夜の営みに誘ってみる。
「あ〜…今日?」
「えっ…」
いつもりうらから誘うと飛び跳ねるように喜ぶいむが微妙な反応をする。
「あ、嫌じゃないよ!?いいよ!」
いむは焦ったように「びっくりしただけ!」と見え見えの嘘を吐く。
「…やっぱいいや。いむ忙しそうだし」
「え!?遠慮しなくていいよ!?ヤろうよ!」
自分が変な反応したくせに、とは言えず、「りうら収録あったから」とこれまた見え見えの嘘を吐く。
配信じゃりうらが拒否してるのにいざこういう対応されると傷つくなんて自分勝手だな。
きっとたまたまそういう気分じゃなかっただけ。りうらが1人で突っ走っちゃっただけ。
いむだってゆっくり過ごしたい夜だってある。
自分の中で必死にポジティブに考えるのも馬鹿らしくなって、この日は独りで先に寝た。いつも2人でぎゅうぎゅうになって寝てるベッドがやけに広く感じた。
それから、りうらといむはえっちはおろか一緒に寝ることさえ数が減ってきた。
そんなとき、いむが亡くなったという知らせを受けた。死因は自殺。自宅のベランダで首を吊って死んでいたらしい。遊ぶ約束をしていた初兎ちゃんが第1発見者だった。
りうらといるのがそんなに嫌だったのかな。優しいいむだから、はっきりりうらを断れなくて思い詰めてたのかもしれない。
「なんでなの…いむ……っ」
返ってくることのない疑問で頭がいっぱいになって。ただ、不思議と涙は出なかった。
ほとけが死んで数日。
諸々の捜査が終わり、まだ少しタバコの匂いが残るいむの部屋で俺たち5人は集まった。
「りうちゃん、これ…」
初兎ちゃんから赤色の封筒を渡される。そこには、お世辞にも綺麗とは言えないいむの字が書いてあった。
「机の上に綺麗に置いてあったんや…」
恐る恐る、開くとアネモネとワスレナグサが描かれた便箋にびっしりと文字が書かれていた。
「いむくん、りうちゃんのことがほんまに大好きやってんな…っ」
「…あいつ、いつも“僕ちゃんと彼氏できてるかな?!”って不安がってて。俺らが大丈夫や言うてんのに…」
「なに、それ……」
りうら、そんないむ、知らない…
「いむ、りうらの前では頑張ってお兄ちゃんしようとしてたもんね〜」
「りうらの為にって、“料理教えてー!”って泣きついてきたこともあったよな…w」
恋人の自分だけが見えなかったいむの姿に驚く。最近、あんなに冷たかったいむが、自分のためにそんなことをしてくれてたなんて。
「手紙、読んでみぃや」
初兎ちゃんにそう言われて、手紙に目を通す。さっきの話で涙腺は半分崩壊してる。
「あれ、wいむ字汚くて読めないやw…ッ」
「ないくん読んで」と、手紙を渡す。ないくんは最初躊躇ったけど、りうらの気持ちをわかってくれたのか受け取ってくれた。
「“りうちゃんへ”」
「“突然いなくなっちゃってごめんね”」
「“勝手に置いていっちゃったこと、怒ってるかな?”」
怒ってるよ、ばか。
「“僕ね、本当はすっごく弱いんだ。弱いから、すぐ傷ついちゃうから、タバコで誤魔化して一瞬の高揚感に溺れたの”」
「………“本当は、りうちゃんにちゃんと気持ちを伝えてから”……“逝きたかったんだけど、僕、臆病だから直接言えなかった。最期までダメな彼氏でほんとごめん。”」
さっきから謝ってばかりのいむの手紙。謝るくらいなら、最初から死なないで欲しかったよ、なんて、後悔を含んだ想いに馳せる。
「“今、ここで伝えさせてください。”」
「今日まで僕の隣に居てくれてありがとう。
ずっと支えてきてくれてありがとう。
りうちゃんは間違いなく、僕の1番の恋人です。
ずっとずっと、愛してる」
ないくんが最後まで読み終わるころには、りうらの顔は涙と鼻水でボロボロだった。数日溜めてきた涙がどんどん溢れてきて、いつの間にか立てなくなって、思わずその場にへたりと座り込む。
「“ほとけより”」
「あっ……ぁ、、ッ……」
止まれ、止まれ、止まれっ!
ここで泣いたら、いむの死を受け入れてるみたいじゃん。身体が言うことを聞かない。
ダムが壊れたように無限に出てくる涙に困惑する。りうら、こんなに泣くキャラじゃないのに。
「泣いていいんだよ」
「こういうときは思い切っり泣くもんや…」
ギュッと両端からないくんとあにきに抱きしめられる。その温もりが、固く凍った氷を溶かして
「ぁぁ、りうら…っ、りうら、……」
「愛されて、たんだ……っ!」
うわあああっと子供のように声を上げて泣く。
「いむくんがりうら嫌いになるわけないやん…グスッ」
「ほとけは不器用やからりうらに変な気ぃ、遣ってたかもしれへんなぁ…w」
ポンポンとまろに優しく頭を撫でられる。その仕草がどうしてもいむと重なって、いふまろに縋るように気持ちをぶちまけてしまった。
「いむっ、なんで死んでんの……ばかっあほとけっ…」
「“りうっこ”って言ってるくれたじゃんッ、!」
「りうらを置いていかないで……」
メンバーの顔はよく見えなかったけど、りうらの声に混じって鼻をすする音が聞こえたからきっとみんなも泣いてたと思う。
ෆ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ෆ
それから3年。
「ないくーんここの荷物運ぶの手伝って〜」
ほとけの死とも完全に向き合え、新しいりうらとして前に進むことができ、りうらは事務所に近いマンションに引越すことになった。
いむとの思い出が詰まった家を手放すのはキツかったけど、いつまでも依がってちゃダメだから。
「あれ、」
綺麗な空き缶に入った赤色の封筒。
「うわ、それめっちゃ懐かしい…」
ふいに後ろで声がして振り向くと、掃除をしてくれてたのかすこし煤汚れたないくんがいた。
「ね…」
何気なく読んでみる。
相変わらず汚くて読みづらいな…
そういえば、あの日読んでくれたのないくんだったっけな…
「…!」
チラッとないくんの方を見る。ないくんはキョトンとりうらを見つめる。
「ないくんって優しいんだね」
「え???」
「ふっ…wなんでもなーい。ちょっと吸ってくるね」
ベランダに出て、カチッとライターで火をつける。いむのお気に入りのタバコ。
それはほんのりキスの味がする。
𝓕𝓲𝓷𝓲𝓼𝓱
プr小説にあげたものです
割と上手くいけたので再喝します
コメント
2件
やばい主さん天才すぎますね 死ネタ?怖くて見れなかったけど今初めて見て泣きそうになりました。 フォロー失礼します