「昼間は暑いけどさ…夕方になるともう、秋って感じだね。」
夕焼けの下り坂で自転車を引きながら君が言う。此方に返答を求めるように目線を向け、どう?と眉を上げている。
どう返せば良いのか分からず、首を縦に振る事しかで出来なかった。いや、返すことは分かっているのだが、声に出す方法が分からなかった。
君の目線が気まずそうに揺れ、僕から街並みへ移った。少し沈黙が続き、また話しだす。
「もう9月終わるしと思って日焼け止めサボったらさ、めっちゃ焼けた。ちゃんと塗らなきゃだよね」
あは、と君が困り眉で笑う。
こんな田舎で日焼けを気にするような女子力を持ち合わせるのは君くらいなんだろうな。自分も笑みを浮かべようとしたが表情筋が上手く動かなくって、恥ずかしくて俯いてしまった。また少し沈黙が続き、君が話しだす。気を使わせてしまって申し訳ないけれど、正直君の隣で歩くのにいっぱいいっぱいで話しかけるどころじゃなかった。もう君と帰るようになって、2ヶ月も経つのに。
「こんな時期になるとさー…ほんともう、ちゃんと受験と向き合わなきゃって感じだよね。やんなる」
君は肩を落として首を掻き、ため息を吐いた。君はいつも笑っているから口角が下がっているのを見るのは珍しくて、ほんのちょっとだけ嬉しくなった。かといって緊張が解れるわけもなく、頷くことしか出来なかったが。
学校からもう結構歩いていたようで、あっという間に君の家の前についた。あぁ、終わってしまう。また何も、話せないままで。聞きたいことが、話したいことが、たくさんあるのに。
キィ…と音を立てながら鉄製の柵に手を掛け、君はひらりと手を振っている。表情は穏やかな微笑み顔、だけどちょっと寂しそう?退屈そうにも、悔しそうにも見える。前向きな笑顔でないことは確か。当たり前か、ずっと一人で話続けていたんだから、気分が良いわけがない。本当に、自分が嫌になる。扉の前で足を止めた君は僕の方を見て、もう一度手を振った。
「…じゃぁ、また明日。今度こそ声聞かしてね、無口クン。」
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