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#短編集
めんたいこ
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「まさか俺らが遠征なんて」
遠征艇内、愉快な声が響く。生駒隊は見事遠征に参加でき、初めての景色に生駒は少々興奮気味だ。水上ももちろん初めての景色に喜びを感じていた。しかし、水上にはひとつ引っかかるところがあった。 遠征選抜試験中、生駒から全隊にメールが送られた。内容は
「食パンに合う食材・おかずを支援して欲しい」とのこと。
そして、支援した者には抽選で「1名様に”生駒達人を1日召使いにできる券”、2名様に”「鹿のや」のどらやき10個入りセット”、4名様に”水上敏志の魂”を差し上げます」
と添えられていた。
送られてきた当時は「なんでやねん」としか思わなかったが、遠征が始まってから妙に引っかかる。もちろん近界にいくため、死ぬ可能性も否定できない。しかし水上が死ぬとも限らない。
しばらく黙り込んであれやこれや考えたが、もちろん結論など出ないので、ひとまず気にしないことにした。
***
遠征先に着くまでまだ時間がある。ぼーっと外を眺めて暇を潰そうと思っていた。が、生駒隊に所属している以上、そんな暇つぶしはほぼできない。
「なあなあ、トランプしようや」
「何するんすか!ババ抜き?スピード?」
無邪気な南沢を横目にトランプをぼーっと眺め、ボソッと一言。
「神経衰弱や」
生駒が目を見開いてこちらを見ていた。
「あかーん!!!!」
生駒の取れたトランプはわずか6枚。
「イコさん下手すぎでしょ」
「隠岐が取りすぎやねん」
「隠岐先輩すごいっす!」
「いやいや、そうでもないですって」
隠岐はどうやら神経衰弱が得意らしい。それなりに長いこと同じチームにいるが、まさか神経衰弱が得意とは知らなかった。意外と知らないこともあるもんだな、と少し感心する。
ところが、なんだか今日は何をするにも身が入らない。本当は水上も神経衰弱はそこそこ得意であるはずだ。それが今日は生駒ほどとは言わないがかなりの不調で、ビリから2番目である。
「もう1回や!もう1回やるで!」
生駒の強い願いにより2回戦目が始まる。さすがに次はもう少し取れるだろうと思っていた。
***
やはりおかしい。ここだと思っていた場所をめくっても違うカードが出てくる。
ここまで調子が悪いとかなり不安が生まれる。神経衰弱ごときでここまで焦っているのもかなりバカバカしいとは思ったが、遠征中ということもあり、よりそれが助長されていく。
「水上先輩、どないしました?いつになく無言で」
隠岐が異変に気づき始める。その発言をきっかけに、他のメンバーも徐々に違和感を感じ始めたようだ。
「ブロッコリー、食うか?」
「誰がブロッコリーですか」
テンションの低いツッコミに生駒が大口を開けて驚く。開いた口が塞がらないのか、水上を見つめながら口をパクパクと開け閉めさせていた。
「水上先輩、元気だしてくださいよ!帰ったら俺のどらやきあげますから!」
あぁ。海はいつでも元気やなあ。どらやきくれる言うても、生きて帰れるかわからへんのにな。……こいつはポジティブなんかな。死ぬとか考えてへんのやろか。みんな生きて帰れると当たり前に思っとる。
それに比べたら俺、なんちゅうこと考えてんねやろ。くだらん。遠征に集中せなあかんのに、調子狂うわー。
_かみ、水上、おい!
「水上!!」
ぼーっとしている間にもうすぐ遠征先に到着する、という報せが来たらしい。しかし反応が全くなく、どこか遠くを見るような目をしていたため、何度も呼びかけられていたそう。全く気づかない自分に驚きと不甲斐なさを感じた。
「大丈夫かおまえ、もうすぐ着くで」
「……大丈夫ですって、戦闘始まったら調子も戻るでしょ」
このとき水上は戦闘が始まったら元に戻る、と自分の調子を軽視していたが、現実はそう甘くなかった。
***
「だいたい雑魚兵は倒しましたよ」
「結構な数やったなー」
やっと一段落。そう思っていたが、トリオン兵がいるということは操っている人ももちろんいるというわけで、少し警戒心が残っていた。
「お、おい、あれ人間ちゃう?」
「え?イコさん目悪くなったんちゃいま_」
人だ。あれは人だ、間違いなく。人型近界民ということなのか。
にわかに信じ難いが、ここが近界である以上否定はできない。
初めて見る人型近界民。かつての大規模侵攻では人型が何人もいたと言う話を後に聞いた。事実、エネドラは角をラッドに移植されてエネドラッドになっているし、ヒュースは捕虜になり、そして今はヒュース・クローニンとして玉狛第2の主戦力 の1人となっている。
「イコさん……人型っすね……」
「せやな……」
呆然とする2人。塔の上に立っていた人型が降りてくる。よく見ると角がついている。ヤバい予感がする。
「忍田本部長、水上っす。人型を確認、交戦します。応援お願いします」
ひとまず本部長に報告を入れ、応援を要請する。対人型にB級2人ではとても手に負えない。
「玄界のトリガー使いか」
人型が生駒に話しかけている。気を取られているうちにその場を離れ、隙を狙った攻撃を図る。
手始めにメテオラを打ち込む。建物が少し崩れ、土煙が立つ。生駒が土煙の中攻撃をしたのかが気になるところであるが、今は追撃はせず煙が収まるのを待つことにした。
数十秒経ち、煙もだいぶ落ち着いた。しかし、煙があったはずの場所に人型も生駒もいない。この数十秒の間でどこかへ消えてしまった。
そのとき、少し遠くの家が真っ二つに切れた。生駒の旋空弧月だ。生駒と人型が1対1で戦っている。すぐに向かわなければ生駒の命さえ危ない状況も考えられる。
3歩ほど歩いたところで生駒の声が聞こえた。
“こいつ全然切れへん、どうなってんねや “
「ちょっと待っててください、俺もすぐ行きますんで」
「いや、あかん。お前死んでまうわ」
「……イコさんが死んでもアカンでしょ」
世話の焼ける隊長だ。でも頼りになる。常に笑いを取りながらもやるときはやる、そんなような人だ。こんなこと言うのは照れくさいし本人になんか絶対言わないけど、イコさんのことは誰よりも信頼してるし大好きだ。だからこそ死んでほしくない。
「イコさん!!」
「おい、バカ!今近づいたら_」
……は?
水色の斬撃が水上の肩をかすめる。シールドを出す暇もなかった。こいつは只者ではない。弱点もわからなければ攻撃情報もよくわかっていないのに。
肩をかすめる斬撃。風刃のような感じか。
両者怯まずに攻撃を続ける。
「アステロイド」
と、見せかけて実はハウンド。この騙し討ちが1発でも効くかどうかが運命の別れ目だ。
「その程度の騙しが聞くとでも思ったか?」
効いていない。それどころか、見透かされている。空閑のサイドエフェクトのような感じなのか、あるいは場数を踏んでいるが故の予知なのか。どちらにせよ厄介なことに違いはない。
「俺が隙作る。その間に打ち込むんや」
「了解」
既にかなりの攻撃をくらっている生駒。そろそろ応援が来ないと戦況が厳しい。
しかし、いくら弾を打っても傷1つつかない。俺ごときの攻撃は無意味ってか?
ムカつく野郎だ。
無我夢中に弾を打ち続ける。人型を倒すのもあるが生駒を助けたいのがいちばんの目的だった。
「さっきからちまちまと!鬱陶しい!」
生駒を剣型のトリガーで退け、拳銃のようなトリガーを水上に向けてくる。水上を先に排除しようという意志を感じた。
バンッという銃声が聞こえる。
咄嗟にシールドを出すが、同時に命の危機を感じた。思わず目をつぶる。覚悟はできていた。
しかし、どれだけ待っても弾は来ない。ダミーだ。しかしそれに 気づいた頃にはもう遅かった。生駒から潰す作戦だ。
ダメだ。それだけは防がなければ。
気づけば、体が勝手に動いていた。生駒にフルガードでシールドを張り、自分はその前に出ていた。俺のシールドだけでは防ぎきれない。なら俺で防いでしまえばいい。イコさんが生きていれば俺はそれでいい。
“トリオン供給機関破損”
換装が解けない。トリガーの異常か。しかし、何にせよ水上に悔いはなかった。
横で何か生駒が叫んでいるが、俺にはもう何も聞こえなかった。
生駒の前に座り込むような形で水上はそっと人型を見つめた。
「もう俺は殺したって構わへんよ
イコさん、俺のことは置いて、一旦距離とってください。あんたには死んでほしくないんですわ」
「は、え、でも」
「ええから」
銃口が向けられる。
***
思い返せばいろんなことがあった。
ボーダーにスカウトされ、この三門市に引っ越した日
イコさんがメシを奢ってくれた日
生駒隊みんなでお泊まり会をしたが、生駒のいびきがうるさくて寝れなかった日
隠岐がモテすぎてイライラした日
スカウト組ではない海がこの関西弁部隊に普通に馴染めていて驚いた日
全部が特別だった。俺にとって生駒隊は第2の実家と言えるほど大切な場所だった。俺はこの部隊_生駒隊に居れて幸せだったんや。イコさんには感謝せんとな。どうやって感謝しよか。イコさんが来るまで待つしかないよな。
もし俺が黒トリガーになったら、イコさん使えるんかな。俺みたいなひん曲がったようなトリガーなんやろな。
幼少期の記憶からついさっきの記憶が次々に脳裏に映り出す。
これが走馬灯?
なんやかんや、人生あっという間やったな。俺まだ18年しか生きてへんけど。最後はイコさんが隣におってほしかったなあ。
_か、ずかみ
イコさんの声?ついに耳までおかしくなったんかな。……あ、目ちょっと開く
目を僅かに開けた先にいたのは珍しくゴーグルをおでこにつけ、大泣きしている生駒だった。普段は常に装着している。最後に珍しい姿の生駒を目に焼き付けて、水上は再び目を閉じた。
身体が欠けていく。やがて全身が欠け落ちたとき、ひとつの黒い物体がカツン、と音を立てて地面に落ちた。
名前は「暁星」
適合者は生駒・出水・犬飼・弓場の4人だった。