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囲が岼と戦っていた頃、3階では皇后崎が次なる行動を起こしていた。
自身の戦いを終え、同じフロアにある研究室へと向かう。
そこには同期である遊摺部の姿があった。
互いの無事に安堵し、情報を共有しながら部屋を出る。
と、そのタイミングで通路の向こうからもう1人見知った顔が現れた。
「おーい!お前らぁ!」
「あ!四季君!」
「やっとみつけたぁぁ!」
「後ろぉ!」
「大変なんだよ!一大事だ!」
「今まさにな!何連れて来てんだよバカが!」
皇后崎が怒るのも無理はない。
一ノ瀬が何の考えもなしに、大量の桃太郎を引き連れてきたのだから。
だが彼は言う…そんなことよりももっと大変な状況になっているのだと。
桃太郎をサクッと倒すと、同期3人は静かになった通路で会話を続けた。
「研究所の爆破ってのはマジなのか?」
「マジだっつーの。」
「大変じゃないか!」
「そう!だから俺、皆に伝えてくっからよ!」
「走ってか?」
「たりめぇだろ!」
「放送で伝えればいいだろ。」
「え…?」
「この大きさの研究所なら放送室くらいあるだろ。」
「…あ。」
「ふっ…」
「テメェ今バカにしたろぉ…?こっち見ろや、貴様おいコラ…」
「嫌だよ。バカを見るとバカになっちまう。」
「そんなことしてる場合じゃないでしょ!」
「…何にしても鳴海の力が必要だな。」
そう呟いた皇后崎は、早速彼から言われた通信手段で連絡を入れる。
放送室の場所にしろ、研究所を探し回るにしろ、地図が頭に入っている人間が今の彼らには必要だった。
自分の知らない手段で、自分の大好きな人と会話をしている皇后崎を、一ノ瀬は何とも言えない表情で見つめていた。
「鳴海?」
『迅!どした?もしかしてケガ!?』
「ふっ、してねぇよ。大丈夫だ。」
『だよね。俺の生徒だもんね』
「それより今動けるか?お前の力が必要なんだ。」
『うん、行けるよ!何階にいる?』
「3階。途中まで迎え行くから、階段まで来たら連絡しろ。」
『いや、一人で行けるけど…』
「迎え行くのは…こっちの都合だから。」
『え?』
「…早く顔見たい。」
『! OKすぐ行くわ』
「待ってる。」
優しげな表情でそう言って、会話を終えた皇后崎。
自分の方をジト目で見てくる遊摺部に、”何だよ” と威嚇しながら応戦する。
彼はいつも通りの感じだが、一ノ瀬は少し様子が違っていた。
「俺だって…」
「ん?」
「俺だって…早く鳴海に会いてぇよ…」
俯き、呟くようにそう言った一ノ瀬。
普段の明るく元気な彼からは程遠い、沈んだ表情を見せるのには理由があった。
2人と合流する前、ここの所長である桃裏楔と画面越しに対面を果たした彼。
幼き少女を玩具のように扱い、最後はいとも簡単にその命を奪う姿に、一ノ瀬の怒りは頂点に達した。
心がどす黒いモノに蝕まれるような感覚が続く中、彼が欲したのは天使の存在だった。
「(鳴海のこと…ギュってしてぇ…)」
「お待たせ!!!」
「ぎゃーー!!?」
「(四季の様子が変だな…)なんで窓から来るんだよ」
ふとした時にボーっとする一ノ瀬を気にしつつ、皇后崎は窓から飛び込んで来た鳴海にツッコんだ。
鳴海が名前を呼びながら駆け寄れば、遊摺部は嬉しそうに返事をし、一ノ瀬は安心したように表情を緩めた。
だが再会を喜ぶのも束の間、すぐに彼女にも情報を共有する。
「…ってわけで、研究所内の地図が頭に入ってる鳴海の力を借りたい。」
「なるほど。まず第一に放送室はあるよ。ここからそんなに遠くない。」
「あの~データがありそうな場所とかって…」
「確実ではないけど、怪しそうなところは何ヵ所かあるから伝えるね!あと四季ちゃんは…」
「俺は所長ボコりに最上階に行きたい!」
「だよね!じゃあ今から簡単な地図を「いや、鳴海は四季と一緒に行ってくれ。」
皇后崎からの突然の提案に、当の本人たちはキョトンとする。
所長をボコるということは、つまり戦うということ…当然ついて行けば危険が伴う。
場所だけ教えたら、鳴海は安全な場所に避難させるのだと一ノ瀬は思っていた。
鳴海自身も、邪魔になることを恐れ同行は控えるつもりだったのだ。
「お前が鳴海の地図通りに行ける確証はない。途中でいろんなことに意識が向いて迷うのがオチだ。」
「んだと!?俺をバカみたいに言ってんじゃねぇぞ、コラ!!」
「…他に何か意図がある?」
「…四季がちょっとおかしい。」
ギャーギャーと騒いでいる一ノ瀬を遊摺部に任せ、鳴海と皇后崎は小声で会話を続けた。
“鳴海に早く会いたい” と呟いていたこと、目を離すと度々ボーっとしていることなどを、皇后崎は簡単に伝える。
本来であれば、鳴海と再会した時の彼は抱きつかんばかりに喜びを表すはず。
“それがなかっただろ?” と問いかけて、皇后崎は話を締めくくった。
「確かに…どのぐらい力になれるか分かんないけど、離れないようにする。」
「頼む。危ないとこに行かせて悪ぃ。何かあったらすぐ連絡しろよ?」
「うん、ありがと!あちこちケガしてるけど、迅は平気?治すよ?」
「いや、かすり傷ばっかだから問題ない。体は疲れてっけど…お前の顔見たら軽くなった。ありがとな。」
「ん。素直でよろしい。これ手描きだけど館内の地図。従児ちゃんにも見せてあげてね」
照れ臭そうに言葉を発する鳴海を、皇后崎は穏やかに見つめる。
その後、遊摺部が持っていた乙原の血を男2人に飲ませ、4人は一旦解散するのだった。
放送室へ向かう皇后崎と情報収集担当の遊摺部を見送ると、場は鳴海と一ノ瀬だけになった。
何事においても時間がないため、早速動き出そうとする鳴海を、一ノ瀬は “待って” と引き留める。
「ちょっとだけ時間欲しい。」
「あ、うん。どうした?」
「……鳴海のこと、ギュッてしていい?」
「! …いいよ。おいで」
皇后崎から頼まれていたのもあり、不安定な状態にある一ノ瀬の言動は全面的に受け止めるつもりだった。
一ノ瀬は小さくお礼を言いながら優しく天使の腕の中に収まった。
そして何かを吐き出すように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…皇后崎たちと合流する前、ここの所長とかいう奴と画面越しに会ったんだ。」
「そう、だったの…(あのマッドサイエンティストに会ったのか…)」
「うん…そいつマジで狂ってて、鬼の子供に酷いことしてさ…最後はおもちゃ壊すみたいに簡単に殺したんだよ。俺、それ見た瞬間に頭真っ白になって…体中が何か黒いもんで覆われてく感じがしたんだ。」
「四季ちゃん…」
「それが怖くて、早く鳴海に会って確かめて欲しかった。」
「確かめる?」
「…今の俺が、ちゃんといつもの俺かどうか。」
言いながら体を離した一ノ瀬は、不安そうな表情で目の前の大人を見つめる。
血の暴走を経験したことがあるからこそ、彼は人一倍心の在り方に敏感だ。
闇に取り込まれて、また仲間を傷つけてしまったら…
彼の抱えてる不安を感じ取った鳴海は、優しい笑顔で一ノ瀬の頬を両手で包み込む。
「大丈夫。今俺の前にいる四季は、いつも俺に元気をくれる、優しくて明るい四季だよ。」
「本当…?」
「は?世界一自己肯定感が高くて強くて可愛い俺が言うんだから当たり前でしょ」
鳴海の自信に満ち溢れたな明るい笑顔を向けられ、一ノ瀬の表情は見る間に穏やかになっていく。
緩む涙腺を隠すように、彼はもう一度鳴海を抱き締めた。
「鳴海も…」
「ん?」
「…俺のこと、もっとギュッてして?」
「言われなくても」
甘えモード全開の一ノ瀬に、さっきまでの自信満々な雰囲気はどこへやら…
所長に対する怒り自覚しながら、一ノ瀬の背中に手を回し力を込めれば、彼の口からポロっと言葉が漏れた。
「好き…」
「!」
「ありがと!やっぱ鳴海は天使だな!」
「……いつも通りだネ(所長の情報抜き取るように菊華に言わなきゃな…)」
お礼を伝える一ノ瀬の顔は、邪気が取れたような晴れ晴れとした良き笑顔。
「なぁ、鳴海~」
「ん?なに?」
「せめて…上からなんか着てくんねぇか?」
「これインナーだけど…?」
「知ってっけどさぁ…その…目のやり場に困るというか…」※ベルトで締め付けられた胸にしか目がいかない
「上着か…元々着てたやつがあるからそれでいい?」
「着てくれればなんでもいい!!!」
「元気だねぇ」
「おう!」
顔を赤くする一ノ瀬とそれを見て笑う鳴海、いよいよ動き出す2人。
と、走り出してすぐ聞き馴染みのある声がスピーカーから聞こえてくる。
『死にたくなけりゃ全員避難しろ!この研究所はまもなく爆発する!繰り返す!この研究所は爆発…』
だが皇后崎が言い終わる前に、研究所のどこかから爆発音が聞こえてきた。