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桃源暗鬼

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桃源暗鬼

34 - 第34話

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2025年02月16日

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当初の予定通り、本日無陀野組は東京の各部隊を見学して回ることになっている。

朝も早くから行動を開始した一行はまず、”桃源書店”と書かれた古本屋の前へと到着した。


「まず最初に練馬区の偵察部隊で話を聞かせてもらう。」

「つってもここ古本屋じゃん。ここなん?」

「いいから行くぞ。誰かみたいに勝手にどこか行くなよ。」


無陀野がそう言って視線を向ける先には、気まずそうに小さくなっている鳴海と一ノ瀬がいた。


第21話 もしも


昨日ホテルへ帰ってから、1時間以上に渡り無陀野の説教を喰らった2人。

揃って頭に大きなこぶを作り、並んで正座している姿は、傍から見ればとても微笑ましいものだった。

だがその代償は大きく、翌日になっても2人はズキズキと痛む頭に悩まされていた。


「鳴海、マジでごめんな。俺のせいで…」

「…あの状況で、俺は断ることもできた。でもそうじゃなくて、四季ちゃんとお祭りに行く方を自分で選んだの。だから四季ちゃんは何も悪くないよ。(ゲンコツの頭痛よりベッドの方がやばかった…首痛い…腰痛い…(泣))」

「うー…マジで天使過ぎんだけど…!」

「ふふっ。言ってくれるの四季ちゃんぐらいだけどね。」

「ナツ、ハル!何してる、早く来い。」

「へ~い。」

「はい!」


古本屋に入った無陀野は、迷うことなく3冊の本を選びカウンターへと持っていく。

そして合言葉のようなやり取りを終えると、店主の表情がふっと柔らかくなった。


「無陀野さんご一行ですね。練馬に入った時点で、情報は入っています。皆さん本を物色しながら聞いてください。」

「京都みてぇにすげぇ感じかと思った。」

「あそこは本部ですから。皆偵察に出ているし、これくらいの広さで十分なんですよ。それに重要な情報は地下に保管されています。」


店主に扮した偵察部隊の並木度は、それから簡潔に自部隊の仕事内容について話し始める。

全く興味を示さない者、自分の能力的にここかなと心が動かされている者…生徒たちの反応は実に様々だった。

既に前線で働く鳴海は、そんな生徒たちを穏やかに見守っていた。


「…と、こんな感じですかね。次は援護部隊でしたっけ。」

「あぁ。ハルを任せていいか?」

「もちろんです。」

「ハル。」


小さいながらもよく通る声で偽名を呼ぶと、鳴海は明るく返事をして駆け寄ってくる。

面識のある鳴海と並木度が軽く挨拶を交わすのを待ち、無陀野はこの後の彼の動きを手短に伝えた。


「オマエはここで離脱して、真澄のところに行け。」

「はぁい」

「この後ナツも採血のために途中で抜ける。オマエの方が終わったら、ナツと合流して帰って来ること。」

「わかった!」

「昨日言ったことが伝わっていないようだから、もう一度言うぞ。」

「うっ…」

「移動時は常に細心の注意を払え。絶対に1人では行動するなよ。」

「うん。」

「もしどうしても1人になりそうなら、必ず俺に連絡を入れろ。すぐ迎えに行く。」

「え、それは…迷惑でしょ」

「俺が後悔しないためだ。」

「! ありがと…!」

「ん。…またホテルでな、鳴海。いい子にしてろよ」

「うん…!」

「じゃあこいつのこと頼む。」

「はい、任せてください。」


鳴海の耳元に口を寄せ、本名で呼びかける無陀野。

それから不意の出来事にドキドキしている妻の頭にポンと手を置くと、最後に並木度へ声をかけ場を後にするのだった。


「よし、じゃあ僕たちも行きましょうか。」

「お店はいいの?」

「古本屋はカモフラージュですから。買いに来る人なんて滅多にいないんですよ。それに…」

「ん?」

「真澄隊長が待ちかねてるから急がないと。」


店のシャッターを閉めながら、並木度はそう言って笑顔を見せた。

そしてつられて笑顔になる鳴海と共に、本来のアジトへ向かって歩き出す。

久しぶりの再会で話に花が咲く2人だったが、並木度が一番気になっていたのは鳴海の旦那についてだった。


「ふ~…アジト内に入ったし、もう偽名じゃなくていいですよね。」

「そうして〜!何回やっても偽名って慣れないんだよね〜」

「ふふっ、そうですね。…そういえば無陀野さんって、普段から鳴海さんに対してあんな感じですか?」

「え?うん。多分、いつも通り…だと思うけど。何か変だった?」

「いや、変とかじゃなくてですね。ただ少し雰囲気が柔らかかったなと思ってね。」

「前に真澄くんも同じようなこと言ってたけど、そんなに違う?」

「はい。無陀野さんを昔から知ってる人が見たら驚くと思いますよ。」

「そうなんだ~」

「きっとあの感じになるのは、鳴海さんの前でだけなのかもですね」


自分の発言に目を丸くする鳴海を、楽しそうな表情で見つめる並木度。

そうこうしているうちに、ようやく隊長殿の執務室へと到着するのだった。


「隊長、並木度です。」

「入れ。」

「遅くなってすみません。お待ちかねの鳴海先輩到着しましたよ。」

「…別に待ってね「真澄くーーーん!元気してたーーーー?!」



自分の言葉を遮るように並木度の背後から飛び出してきた鳴海に、隊長殿の表情は途端に穏やかになる。

その変化にニヤニヤする部下をひと睨みすると、淀川は追い払うように手を動かした。


「お前これから任務だろ。さっさと行ってこい。」

「分かってますよ。…2人きりだからって、手出しちゃダメですよ?」

「出すわけねぇだろ。早く行け。」

「はーい。じゃあ鳴海さん、また。」

「またね〜!馨ちゃん!」


並木度を送り出すと、淀川はとても応接セットとは言えないような簡素な机とイスに鳴海を誘った。

そして机を挟んで向かい側に座ると、彼が話す近況に耳を傾けるのだった。

時折口元に笑みを浮かべながら聞いていた淀川は、話がひと段落したタイミングで、不意に鳴海が首に下げているネックレスのトップに触れる。


「…指輪、こっちにするのか?」

「オフの日は指に着けてるよ!仕事の時はネックレスにしてるの」

「無陀野が着けてんのか?」

「うん!朝会ったらしてくれてるよ!」

「相変わらずだな。お前ら」

「ラブラブなんですぅ〜!」

「はいはい。んで、どうだ?現場復帰できそうか?」

「この見学が終わったら復帰する予定だよ。俺の部下はちゃんと働いてる?」

「そりゃあもう。馬車馬のようにな」

「そっか!このまま面倒見てあげてね真澄くん」


きゃっきゃっと部下の話をする鳴海を淀川は頬杖をつきながら微笑ましく見つめる。


「…お前さ、やっぱ練馬来いよ。」

「へ?」

「練馬の桃はヤバいって自分が言ったんだろ?No.3と4じゃなくてNo.1のお前がくればいい話だろ?」


立ち上がり、少し身を乗り出して距離を縮める淀川に、鳴海の心臓は鼓動を速める。

テンパって言葉が出てこない彼を尻目に、淀川は更に近づこうとしたのだが…

このタイミングで彼のスマホが音を立てる。

軽く舌打ちをしてから中身を確認すれば、それは同期の彼からだった。


「…鳴海、無陀野から盗聴器とか付けられてねぇよな?」

「え、ないと思うけど…なんで?」

「いや、何でもねぇ。」


“鳴海を勧誘したら、二度とお前に会わせない”

彼の旦那である無陀野からのメールには、そう一言だけ書かれていた。

まるでどこかから見ているような見事なタイミングで届いたメールに、淀川は大きなため息をついた。


それから鳴海と淀川は、いろいろな話をしながら久しぶりの再会を楽しむ。

鳴海直轄の部下と話していると、時間はあっという間に過ぎていった。

と、今度は鳴海のスマホが音を立てる。

“無人くん”という文字が表示された画面をタップすれば、いつも以上に緊張感のある声が届いた。


「もしもし、先生?」

《ハル、今どこにいる?》

「まだ練馬のアジトです。」

《ということは、まだナツとは合流してないんだな。真澄は一緒か?》

「いえ、さっきまでは一緒だったんですけど、何か事件があったみたいで少し前に出かけて行きました。」

《そうか。…その事件を発生させたのはうちだ。》

「えっ。…何かあったの?」

《あぁ、詳しい話はあとでする。とりあえずお前はそこにいろ。》

「分かりました!先生たちは…?」

《大丈夫だ。すぐに合流できるようにする。》

「はい。気をつけて…!」


皇后崎が引き起こした、とあるアクシデント。

これがまさか練馬の桃を相手取る大きな戦いの序章になるとは、誰も予想だにしていなかった。

この作品はいかがでしたか?

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コメント

1

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とても良かったです続き待ってます!

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