鳴海が無陀野から電話を受ける数十分前…
鳴海と一ノ瀬を除いた無陀野組は、各部隊の見学を終え、ホテルへの道を帰っている途中だった。
疲労と空腹から文句を言う生徒もいる中、皇后崎は列の一番後ろを歩く。
そんな彼とすれ違う明るく元気な幼き姉妹。
歩行者の信号は青…当然2人は何の躊躇いもなく横断歩道を渡った。
そこへ居眠り運転のトラックが突っ込んできたのだ。
“間に合え…!”
そう小さく叫びながら血を解放した皇后崎は、タイヤを傷つけて姉妹からトラックを逸れさせた。
だが出血こそないものの道路に倒れてしまった姉の方を、皇后崎は蒼白な顔で見つめる。
「!」
「血を使ったな。すぐに逃げるぞ、桃が動く。」
呆然としている皇后崎にそう告げると、無陀野はスマホ片手にホテルへの道を急いだ。
呼び出しているのは、今この場にいない2人…まずは何より戦闘部隊所属の彼だった。
《もしもし、先生?》
「ハル、今どこにいる?」
《まだ練馬のアジトです。》
鳴海の変わらない声と、一番安全な場所にいることに安堵した無陀野はふーっと小さく息を吐く。
その後軽い状況説明と、これからの指示を出して電話を切った。
休む間もなく今度は一ノ瀬へ連絡を入れ、それが終わる頃、一行はホテルへと到着した。
生徒たちにすぐの出発を促す無陀野は、今度はかかってきた電話に対応する。
「街の防犯カメラは大体桃機関と連携している。血を使うと反応を掴み、桃機関へ情報を送る。すぐに場所を移すぞ。40秒で支度しろ。…はい。」
《無陀野さん、状況は把握しています。隠れ家へ案内するので、そちらへ避難してください。》
「悪いな。」
《いえ。あ、鳴海さんのことですけど…》
「さっき連絡を入れた。まだそっちにいるらしいな。」
《えぇ。身の安全は保障しますから、安心してください。僕もすぐ合流します。》
「助かる。よろしく頼む。」
《隊長、人数集め終わりました。》
「はい。ごくろーさん。そのまま監視しててね。無駄な戦闘は避けて。うちの生徒がまだ来てないから」
《わかりました。このまま練馬に残ります?》
「無人くんたち見送ったらそっち向かうから。四季ちゃん迎えてあげて」
《了解です》
練馬担当の部下に電話をしながらホワイトボードに色々と書き込んでいく。
逃走経路や部下たちの配置を事細かく伝えてそう動くように指示していく。
電話を切ると同時に無陀野達が戻ってきたと報告を受けたので迎えに行くことに。
「無人くん!みんな!」
「ん?お前、何でそんな不安そうな顔してんだよ。」
「私らに何があったか知らねーからだろ。だろ、なる?」
「事情は全部聞いてるけど不安だったよ?」
「大丈夫ですよ!ケガしたりとか、そういうんじゃないですから!」
「そっか…!」
遊摺部の言葉に笑顔を見せる鳴海だったが、ふと後ろの方に立つ皇后崎が静かなことに気づく。
普段から積極的に喋るタイプではないが、今日の彼はいつも以上に静かで、暗い影を落としていた。
並木度が生徒たちに今いる場所について簡単に説明する中、無陀野がスッと鳴海の隣に並ぶ。
「心配かけて悪かったな。」
「無事に合流出来たからいいよ。」
「そうだな。詳しいことは「四季ちゃんが来てから、だよね!」
「! ふっ…よく分かるな。」
「当然だよ。奥さんですから!」
エッヘン!と胸を張る鳴海を見て無陀野は微笑んだ。
並木度の説明を聞きながら足を進めた一行は、アジト内の少し大きめな通路に集まった。
そこでこの後の動きについて、無陀野と並木度、鳴海が会話を進める。
「ナツ君は鳴海先輩の所の隊員が迎えに行ってます。」
「何から何まで悪いな。」
「この後の予定は?」
「仕方ない、学園に戻る。鳴海、船の手配頼む。」
「了解。一番早い時間で聞いてみる。」
「(良かった…帰るんだ…)」
「はぁ!?また何もせず終わりかよ!?こっちは京都から不満溜まってんだぞ!」
「碇ちゃん、落ち着いて。どうどう」
また何も得られなかったと不満爆発の矢颪をなだめる鳴海。
そんな2人の耳に、偵察部隊の隊員たちの声が聞こえてくる。
“危険な状況にした奴らが何言ってんだ”
“街中で堂々と血使うとか素人が…”
どれもこれも否定的で、イライラした雰囲気を含んだ内容だった。
それにまた怒りを露わにする矢颪とは対照的に、皇后崎はここでも終始暗く沈んでいた。
と、そこへようやく遅れていた一ノ瀬が到着する。
自分の顔を見るなり、嬉しそうに手を振ってくる彼と共に、鳴海は無陀野から事の次第を聞いた。
「え?子供助けたの!?おま…マジで!?超かっこいいな!」
「そういうことね…(だから迅ちゃん、あんなに落ちてるのか…)」
「なーんだ!アクシデントっていうから何事かと思ったわ!あれ!?でもなんでこんな殺伐としてんの?」
「お前…空気読めねーな。」
「え?褒め称える空気だろ?」
「くく…本来ナツ君の反応が正しいよね。この空気で言えるのも凄いけど。」
「? サンキュー?…鳴海、俺そんなに変なこと言ったの?」
「人としては大正解だよ!ずっと今のままの四季ちゃんでいてね?」
「おう!」
鳴海に笑いかけられると、一ノ瀬は嬉しそうに言葉を返す。
まだ鬼として覚醒してから日が浅い一ノ瀬の純粋で素直な反応に、鳴海の心も温かくなる。
彼から元気をもらった鳴海は、無陀野から軽く注意を受けている皇后崎の方へ近づいた。
「お前がやったことは間違いじゃない。が、正解でもない。体術のスキルを磨け。次から血を使わず対処できるようにな。」
「でもお前が子供助けるって意外だな!蹴って飛ばして歩いてるイメージだわ!」
「すごい偏見。」
「救えていない…俺はまた救えなかった。」
「また?」
「迅ちゃん…そうだ!あとで病院に電話かけてみるよ!」
「!」
「様子分かったら伝えに行くね。」
「……あぁ。」
鳴海の提案に一瞬パっと顔を上げた皇后崎だったが、またすぐに下を向いてしまう。
その様子に不安を募らせる鳴海の思考を遮るように、並木度が部屋の準備が整ったことを伝えに来た。
「鳴海、船の方はどうだ?」
「朝一の便を押さえた。大丈夫。」
「ありがとう。ということで、日の出前に出発する。それまで寝て、体力回復に努めろ。鳴海。」
「ん?」
「さっきの電話の件、分かってると思うが…」
「こっそり、怪しまれない程度にするよ。」
「ならいい。お前も疲れてるだろうから、ちゃんと休めよ。」
「はーい!」
そうして各自が部屋に入り、朝までの時間を過ごした。
部屋に入るなり、鳴海は早速病院へと電話をかける。
現場で事故を目撃したが、もしかしたら親戚かもしれない。少しでいいから様子を…と不安そうな声で尋ねる鳴海。
電話口の相手も、こちらの不安を受け取ったせいなのか警戒心が薄れ、大事には至っていないと一言だけ返事をくれた。
「(迅ちゃんもこれで少し安心するかな…!)」
すぐに返事を伝えようと、鳴海は皇后崎の部屋へと向かった。
だがいくらドアをノックしても反応がなく、試しにドアノブを握ってみる。
抵抗なく開いたドアの向こうに、皇后崎の姿は見当たらなかった。
コメント
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今回のもとても良かったです!