テラーノベル
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常葉くんは私を閉じ込めたまま離そうとはしない。
「夢見てるのかな」
遂、口に出すはずの無い言葉が漏れると、くくっと真上にある喉が気持ちよさそうに鳴る。
不思議に首を傾げると、その表情は極上の笑みを浮かべていた。
「いや、考えているって言っただけで確実にそうなるとは限らないよ」
そうして彼の口は、簡単に奈落の底へ突き落とす言葉を聞かせる。
「え、嘘でしょう!?」
「またうじうじしてたら今度こそ見放す」
「うじうじって……」
「十八番だよね、勝手に部屋変えようとするの」
「うっ」
「表情もさ、上手く隠してるつもりだろうが、毎日見慣れてんのに、舐めんなよ」
「み、見放されないように……頑張ります……」
「冗談だよ。最初に言ったけど」
常葉くんは勿体ぶるように言葉を溜めると、薄い手のひらが私の顔を包み込む。
「俺、あんたを手放すつもりはありませんよ」
一瞬で、耳に張り付いては早鐘を鳴らす心臓。
いつだってそう、私は簡単に彼の掌で踊る道化。
だけど、それも悪くない。
「そんなこと、聞いた覚え、」
「あ、結局思い出してないんだっけ」
「酷いです!」
だって、ひとりだけ。
たったひとりだけで良い。
あのね、
最初は一緒にいてくれるだけで良かった。
気持ちを隠して、表情を作って
誰にも弱さを見せない私を
分かってくれるだけで良かった。
どんなに幸せだっただろう、
どれほど掬われただろう。
どんどん欲深くなる私を全部受け止めてくれた。
何度も手放そうとする私の手を繋いでくれた。
これ以上の幸せはあるだろうか、
気持ちを隠して影を踏んでいた私を、
本当は、知ってくれているだけで幸せだったのに。
甘いだけじゃなくていい、
たまには手を引いて踏み止めて欲しい。
強がって、甘える事の出来ない私を
何度だって、見つけて欲しい。
君が繋いでくれるなら、
私も何度だって握り返すから。
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#ワンナイトラブ
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