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「ネイル禿げてきたかー。そろそろ次のサロン予約しようかな。」
所々禿げたネイルを見つめ、私は小さくため息を吐いた。
あれからぷっちーはあまり部屋から出なくなった。出てくるのは夜ご飯のみ。
出てきたぷっちーを見ると、まだ決心ができていないのか表情は暗く、普段からあまり視線の合わない目はずっと下を向いている。
「大丈夫か。」と声をかけたくなるが、今コイツは私を拒否している。だからあいつが決心するまで待つしかない。…でも、活動再開までにあいつが戻らなかったら?
きっと、ぷちひなは…。
しばらく経つと、私のため息とネイルの鳴らす音だけが残る部屋には、夕食が並べられ目の前にはあいつが座る。
「「いただきます。」」
別に、息合わせてるわけでもないんだけどね。
でも、こういうくだらない事でも、今はちょっと嬉しいんだ。
私は微笑ましく、ぷっちーを見つめる。
「ガタン」と物が落ち、私の体はビクリと反応をした。 「ぼーっ」としていたのかと思い、ぷっちーを見る。
ぷっちーはもうご飯を食べ終わり、手を合わせているところだった。
私に気がつくと、中途半端な笑顔でこう言った。
「…ごちそうさま、美味しかった。ねーちゃん。」
「…はっ、w」
私は吹き出した。また、コイツはねーちゃんと呼んだ。コイツ、遊びやがって。
ぷっちーが出て行った部屋で、私は1人デザートにプリンを頬張っていた。やっぱりスーパーのプリンが1番美味しい。あのぷるぷる食感に少し苦味のあるカラメル。それがクリーミーな卵色と混ざって絶妙な美味しさだ。
私がそんなプリンを頬張っていると、部屋のドアがガチャリと開いた。
部屋から出てきたのは決まってぷっちーだった。部屋から逃げるように出てきたぷっちーを疑問に思い、ぷっちーに話しかけた。
「ぷっちー。どうしたの?」
「…」
「ちょっとアンタ、返事してよ。」
ぷっちーは何も言わず、私の前を横切って行った。どうやらぷっちーは玄関に行こうとしているみたいだ。
「ちょ、待って!!アンタどこ行く気?」
返事をしないぷっちーに苛立ちを覚え、ぷっちーの肩を掴んで叫んだ。
「ねぇ、返事してよ!!そうやって何も言わず家出られると不安なんだけど!!」
「…ねーちゃんには、関係ないよ。 」
は?私に関係がない?今アンタが外に出るなんて、死にに行くのか心を落ち着かせに行くのかどっちかしかないでしょ。
ぷっちーは私を置いて、玄関から出ようとしている。私は急いで追いかける。私は家から出て気づき、首から下を見る。
今の私の格好はとてもだらしない。
いつもは耳下に結ぶワインレッドの髪も、ヘアバンドをつけ、服だってTシャツ一枚にハーフパンツ。慌てていたのか靴は片方がサンダル、もう片方はスニーカーだ。
周囲からはきっと変な奴って思われるだろうな。
「…いや、今はそんなこと考えてる暇はない。早くぷっちーを追わないと。」
私は羞恥心なんてものを捨て、足を動かした。
何度も何度も転び、綺麗にし続けてきた足に傷がついた。けど、そんなのも気にせずに走り続けた。
「ぷっちーっ!!」
もう一度ぷっちーの姿が視界に入り、叫ぶ。
暗くてあまり見えないが、ぷっちーの背後は海らしい。…コイツ、海に飛び込もうと?本当にありえない。まだ話してないだろ、お前。
私はぷっちーを睨み、口から低い声を発する。
「アンタ、止まれよ。」
「…無理。」
「なんで!?」
「…なんでもないんだよ。 」
「なんでもない…?何言ってんの、アンタ。こんなことがあって、何でもないわけ無いでしょ!?」
私はゆっくりと後ずさるぷっちーに怒鳴った。
ぷっちーは俯きながら、ゆっくりと口を開く。
「…俺は…。俺は、俺は!!何でもない!!何もない!わからないんだよ!!わかんない。けど、なんか、疲れて…。俺、俺っ!!」
ぷっちーは目から大きな雫を溢しながら顔を覆う。ひゅーひゅーとか音を鳴らしながら荒く呼吸している。私はそんなぷっちーにゆっくりと歩み寄る。
「…何も関係なくないじゃん。」
「…は、?」
「アンタが今そーなったのは、私達がアンタを頑張らせすぎたから。」
「…そんなこと、」
違う、と言おうとするぷっちーを遮り、私は口を開く。
「いいや、あるね。私達がアンタを頼らせなかったから。たくさんの疲れを溜め込んで、歯止めが効かなくなったんでしょ。」
「…」
「ゼウス刑務所。」
「っあ…。」
「アンタ確か、しんどうじさんとあおいちゃんコラボの編集データ、消しちゃったよね。それでゼウス刑務所もしんあおコラボも打ち切り…、」
「…ごめんなさい。」
俯き、謝罪をこぼすぷっちーを見つめ、続ける。
「その時、私何したんだっけ。…確か、『全部お前のせいだ。』とか言ったよね。」
「…うん。」
「それからぷっちー、色々気をつけるようになったね。編集データは消しても大丈夫なものか、どれはもう編集が終わったものか。しっかり確認するようになった。」
私はさっきの走行による息切れと動揺を落ち着かせるため、 一呼吸おいてまた喋り出した。
「それで私達、ぷっちーのこと信用して色々仕事任せたよね。ぷっちー、何も言わずにOKしてくれた。」
「っ…」
私はあの時の私の酷さに目線を落とす。
「…それで、きっと、ぷっちーは…。疲れたんだよね。理不尽に怒られてさ、それから手のひら返されて信用されて、色々我慢して休み方忘れちゃって。そうだよね?」
「っ…うん、ねーちゃん、疲れたよ。」
久しぶりに、コイツは私に涙を見せた。
私はそんなぷっちーを優しく抱きしめた。これでも、姉弟だ。姉らしいことくらいさせて欲しい。
「ぷっちー、あの時は本当にごめんなさい。あの時から、私ぷっちーに任せっきりだったよね。」
「おれ、苦しくて、もうどうしたら良いかわかんなくてっ…。」
「…うん、そうだよね。苦しかったよね。気づかなくてごめん。」
私たちは互いに涙を溢しあって、互いの格好を笑い合いながら帰った。