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────私、いじめれてるみたい
僕の親友が、そう言った。言うのに相当の勇気を使ったのだろう、その目からは涙が出ていた。
何も言えずに黙る僕。
そんな僕を見て君は少し悲しそうな顔を、でも少し不安そうな顔をした。
………瑞希? どうして…どうして瑞希が泣いてるの?
不思議に思うのは当然だろう。
秋の夕焼けが眩しくて、僕は思わす目を閉じた。
「ねえ瑞希〜!!これ見て!めっちゃ可愛くない!?」
そう僕に話しかけてくれるクラスの友達、いいや親友かな。その子は杏だ。杏だけは、僕に気軽に話しかけてくれる。だから僕も気を遣わずに話すことができる。
「へ〜!この店ここらへんの近くじゃん!行こうよ杏!!」
「うん!決定ね!!ここ、アクセサリーも売ってるんだけど、カフェもついてるんだって!」
ボク達はこうやって休み時間など話している。……が、しかし今日はやたらと周りの視線が気になった
……気がする。なんだか嫌な予感を覚えたが数分後には忘れていた。
そうしてすぐ放課後となり、僕は準備する。準備をしている間杏の席をチラッと見てみる。いつもは僕以外にも杏は友達なんて沢山いるからそういう子達と話しているのに、今日は1人で準備している。
まあ流石に毎日って訳じゃないか。そう僕は勝手に納得した。それより杏が見せてくれたヘアアクセが気になって早く行きたい。ちょうど杏も今日は誰とも喋ってないし、早く行けるな。そう思った時、話したこともないクラスの女子が僕に話しかけてきた。
「ねえ瑞希さん。ちょっとお話があるんだけどいいかな?」
──僕は知っている。こういうのはロクな話ではない。
…が、断れるはずもなく僕はその彼女達に呼ばれるがまま屋上へと向かった。
──屋上
モブ「急に呼び出しちゃって、ごめんね。瑞希さん」
「いや、いいよ全然。で、話って何?」
モブ「杏のことでさ」
「………」
………杏のことか。
モブ「あの子、いい噂無いの知ってる?瑞希さん、学校あんま来ないから知らないかもだけど…。」
「…杏が?」
モブ「うん。詳しく説明すると…杏はまず私の友達を前叩いたの。その友達は悪くないのに…。それだけじゃない。自分が気に入らない子には適当に話を済ませてどっか行っちゃうし…」
僕の大切な友達の悪口を言われて居心地がいいわけがない。第一そんなこと杏がする訳がない。
「…ねえ、杏はそんな人じゃ───」
僕が口を開いたと同時に声が聞こえる
モブ「あと杏、レズなの」
「………え、?」
モブ「だから、男には興味ないらしい。本人がそう言ってた。気持ち悪いよね。あ〜やだやだ。杏と仲良くしてたら恋愛対象にされるところだった…。瑞希さんも気をつけなね。あなたと杏仲良いし、狙われてるかもよ?」
モブ「だからね、瑞希さん。」
──杏のこと、一緒に無視しない?
そのあとなんて返事したかは覚えていない。しかしその日は杏と出かけなかった。
そしてそれを期に話をしなくなった。
モブ「ねえ瑞希ー!!この前教えてくれた店でアクセ買ったんだ!どう?」
「おぉ〜!いいじゃん似合ってる!!」
モブ2「ねえ私にも今度店教えてよ瑞希ー!!」
「はいはい〜」
僕には仲良い友達がいる。最近遊ぶようになったのだがスタイルがよくて僕も負けずと美容やらに挑戦している。一緒にいて楽しい。……のかな。
僕はチラッと杏の席を見る。今日朝見た以来見ていない。まあ気にするほどでもない。
………だって杏はもう、友達じゃないから。
昨日、杏がレズだってことだって教えてもらった。
正直、ショックを受けた。
僕には杏や弟くん(彰人など)にしか話していない秘密があった。それは僕が「男の子」っていうことだ。だが、杏や弟くんたちはそれを知った上で何もなかったかのように接してくれていた。それが嬉しくて、嬉しくて…。
…僕は杏の事を好きになっていたんだ。
でも、杏の恋愛対象は「女の子」だった。だから今まで一緒に出かけてくれていたのも、何もかも杏にとっては友達だから、という理由。僕は、杏のこともうこんなに好きになっちゃったのに。
ひどいよ…。だから関係を断ち切るために、僕は杏を無視した。
これで、いいんだ。
モブ「瑞希?どうした?」
「え?あぁ、なんでもないよ!今日の放課後このお店行かない?」
モブ「え、いいね!行こ行こ!」
僕にはもう違う友達が居る。ごめんね、杏。
モブ「ねね、そういえば今日杏見てないね。」
モブ2「ね!無視されてるのにショック受けてるのかもよ?」
モブ「でも東雲くん達には強がってそう…」
モブ2「あははっwwうけるww」
モブ「やっと仕返しできたって感じ!瑞希のおかげだよ!」
「あははwまあ、僕ももともと杏の事好きじゃなかったし」
嘘じゃない。いや、好きだったけどもう杏なんて知らない。
彰人「おい暁山、どういうつもりだよ」
「え…?あ、弟くn………」
彰人「お前、そんな奴だったんだな。」
「そんな、って………?」
彰人「話がある。放課後昇降口に来い」
……あーあ。
──放課後
彰人「お前、杏に何かしただろ」
「…いや、何も?」
彰人「そういうのいーから。何があったのか知らねーが無視はよくねーだろ」
知ってたんだ…。僕の気持ちなんて分からないくせに、言わないでよ。そう言いたかった。
彰人「何があったのか説明しろよ」
「ねえ弟くん…。弟くんは、好きな人に裏切られたことある?」
「僕は杏のことが好きだったんだよ。でも、裏切られた…。」
彰人「っ……?」
「そして僕は苦しい気持ちになった。この苦しさ、弟くんには分からないよね」
「どうせ杏にも分からないよ。だから同じくらいの苦しみを味わってもらってるんだ」
「これは、僕が悪いの?……ねえ教えてよ…。」
弟くんが顔をしかめた。わかってくれればそれでいいんだ。もしこの意見を否定されれば弟くんももう僕にとっては必要ない。大丈夫、これであってる、はず──。
彰人「……ふざけるな」
「ふざけてないよ…。」
彰人「お前、お前が勝手に期待したんだろ!?杏はお前を裏切る気持ちなんて絶対ねー。一回話し合ったか!?お前、杏に嫌いって直接言われたのか!?違うよな…。」
──勝手に期待して勝手に落ち込んで勝手に解釈して勝手に相手苦しめてるだけじゃねーか
そう、叫んだ。
彰人「…お前、もうしばらく話しかけてくんな。」
昇降口を通る人達がこちらにチラチラと視線を泳がせる。もう僕は何がなんだか分からなかった。弟くんは何が言いたいの…?僕が、悪い、の…?
僕は自分の胸に手を当てる。──あぁ、もう僕の心には何も残っていない…。
本当に大切な人を……また失ってしまった。
こういう時は、屋上に行って休もう。一旦頭の中を整理しよう…。
──屋上
少し夕日に差し掛かった空はオレンジ色に輝いていた。その景色は僕の心をさら汚した。
屋上の手すりに手を置いて校庭などを見渡す。みんな友達、恋人同士で楽しく過ごしていた。
なんで僕はみんなみたいに普通に過ごせないんだろう。そう思ってしまう自分が嫌いでもう家に帰ろうとドアに向かった。すると、なにやら泣き声が聞こえてきた。…この泣き声…。
僕はその泣き声の聞こえるほうへ足を運んだ。だんだん浮かび上がってくるシルエット。
それは僕の今会いたい人だった。
「──杏……」
杏 「み、瑞希……?」
「こんなところで泣いてどうしたの?」
理由は分かってるくせに。理由は僕のせいなのに。今はこの目の前の人に自分を叱ってほしくて、わざと聞いた。
杏 「……私、ね……」
──いじめられてるみたい
杏 「いじめなんて、私平気だよ…。でもね、私をいじめたのは……」
杏 「私の好きな人だったの───。」
「……え?」
杏 「…ごめんね、瑞希、ごめんね……瑞希のこと、私大好きなのに……」
夕日に照らされ杏の涙は宝石にも見えた。
杏 「私のこと嫌いなら……無視しないで……直接言ってよっ……!!」
「…杏………。」
そういうことなら…早く言ってよ…。
「杏……僕も好きだよ…。苦しいくらいに……」
杏 「…え、…?」
「無視なんてした僕がひどいよ…。ねえ、もっと叱って…。怒って…嫌いって言って…。」
杏 「……っ…。瑞希っ…!!!」
急に杏が僕に抱きついてきた。苦しいくらいだ…。そして僕の腕の中で
杏 「瑞希のバカっ……!!バカ…!!バカーー!!!」
泣きながらそう叫んだ。僕はごめんでは許されないようなことをした。それくらいの苦しみを与えた。じゃあこれからはその苦しみ以上に幸せを与えてあげるよ、杏。
杏が顔を上げて僕の顔を見る。あぁ、見られちゃったか。
僕は大粒の涙を流していた。