テラーノベル
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プレゼントの話をした途端、京介から芽生が身勝手な行動をとったのは佐山にプレゼントを買うための隠密行動だったと勘違いされて、芽生はすぐさまそれを否定しようとした。
「京ちゃん!?」
けれど、芽生が口を開くより先、京介が咥えていた煙草を掴むなり腹立たし気に手の中へ握り込むから……びっくりして言葉を失った。
「何してるの! 火傷しちゃう!」
だって、京介が握りつぶした煙草には、火がついたままだったはずだ。
芽生は、自分がいま京介に怒られている真っ最中で、彼からの誤解を正さなければならないというのも忘れて、京介の手を掴んでいた。
一歩踏み出した拍子に、さっき落っことしたお札を踏ん付けてしまったけれど、今はそんなのどうでもいい。
京介の腕を引いてすぐそこの洗面所へ連れ込むと、握り込まれたままの京介の手へ勢いよく冷水を浴びせ掛ける。ジャーッという流水音が、芽生の心をざわつかせた。
「ね、京ちゃん! お願いだから手、開いて!?」
握りしめられたままでは、患部に水が当たらない。何より京介の手がどのくらいの火傷を負っているのか見えないのが、芽生には不安でたまらないのだ。
なのに――。
芽生が懸命に蛇口下へやった手を、芽生の手ごとグイッと引き上げると、京介がほの暗い表情のまま芽生を見下ろしてくるから。
冷やすべき京介の手はそこにはないのに、鬱陶しいぐらいに水が流れ続けているのが、芽生の心をどんどん不安にさせた。
京介が未だ不機嫌なのはその目を見れば一目瞭然。
今まで京介からこんな冷たい視線を向けられたことのなかった芽生は、正直怯みそうになって……。でも、ここで引き下がるわけにはいかない、と思い直した。
「京ちゃん、何で手、のけるの!? 冷やさなきゃダメだよ」
半泣きになりながら京介の手を、出しっぱなしの水の方へ戻そうと頑張る芽生の腕を、京介がもう一方の手で掴んでくる。
突然のことに芽生がオロオロと京介を見上げたら、抑揚のない声で「脱げ」と命令されて、芽生は一瞬なにを言われたのか分からなかった。
「え……?」
現状も忘れてキョトンと京介を見上げたら、「聞えなかったのか? 脱げっ言ったんだよ」と繰り返される。
「京、ちゃん?」
京介の言っている言葉の意味がサッパリ理解できなくて、芽生が瞳を揺らしたら、「お前、すっげぇ臭ぇんだよ」と握られていた手ごとグイッと上へ引き上げられた。
つま先立ちになった芽生を睨みつけながら、京介が「不愉快だ」とつぶやくなり芽生の手を不意に離すから。反動で、芽生はその場へ頽れるように尻餅をついた。
そんな芽生を見下ろして、京介が続ける。
「確か……罰はお前が全部受けるんだったか」
下ろされた京介の左手から、ポタポタと水滴が滴っている。その軌跡の先に、握りつぶされ、濡れそぼってくしゃくしゃになった煙草の残骸が落ちていた。
開かれた京介の手のひらが焦げと火傷とで赤黒くなっているのをぼんやり眺めながら、芽生は(手当しなきゃ……)と思う。なのにどういうわけか、座り込んだまま動けないのだ。
そんな芽生の腕をグイッと引き上げて立たせると、京介が呆然と佇む芽生のあごをすくい上げるようにして瞳を覗き込んでくる。
「なぁ芽生。さっきまでの威勢はどうした? 言い訳はもう終わりか?」
すぐ間近。背筋が寒くなるような笑みを向けられて、芽生は京介に言わないといけないことがあったはずなのに……それが何なのか思い出せなくて混乱してしまう。
「まぁ話聞く限りじゃ、お前の方が八割がた悪ぃよな?」
あご下を支えるように添えられていた京介の人差し指が、ツツッと流れて芽生の首筋をさする。別に爪を立てられたわけではないのに、ヒリヒリとした痛みを感じるようで、芽生は思わずギュッと目をつぶった。
「芽生。お前が俺の言うことを全部いい子にして聞くことができたら、佐山にゃー厳重注意だけで済ませてやろう」
芽生は京介の言葉にハッとして彼を見つめると、「本当!? 私が京ちゃんの言うこときいたら、ブンブンには酷いことしない?」と問い掛けていた。
瞬間、京介の瞳に一瞬だけ剣呑な光が宿って見えた気がしたけれど、「ああ、約束してやるよ」と答えてくれた時にはそんな様子、微塵も感じられなかったから……。
芽生は、きっとあれは気のせいだったんだ、と思うことにした。
***
洗面化粧台にすがるように尻を預けて、京介は芽生をじっと観察する。
「あ、あの、京ちゃん。私……」
今日も芽生は京介が選んだ服に身を包んでいる。黒地に小花柄のネルシャツワンピースの上に、黒いロングカーディガン。シャツワンピの首元はスタンドカラーになっているので、上まできっちりボタンを留めればそれなりに温かいですよ、とショップ店員から勧められたのを覚えている。
そのワンピースのボタンを上から二つ外したところで、芽生が戸惑いに揺れる瞳で京介を見つめてきた。
「さ、細波さんのニオイが気になるなら……私、あっちでお風呂に入ってくる、から。お仕置きならその後で……」
そう続ける芽生に「入るのはこっちの風呂で、俺の前で裸になるのが罰だ」と、いつも自分が使っている風呂を指定した上で、バカな意地悪をしたくなったのは何故だろう。
芽生は恋仲を否定したけれど、それを差し引いてもやたらと佐山のことを庇おうとするのが気に入らない。
極道の世界は男社会だから、誰を芽生に付けても大差ないはずだった。上層部の人間を小間使いにすることはさすがに出来ないから、必然的に若い衆の中から芽生の付き人を選んだのだ。一応面識があるってことで佐山を指定したのだが、こんなことになるのなら石矢を付ければよかった、と思ってしまった京介である。
元々京介の運転手をしている石矢は、芽生ともそこそこに顔見知りだ。京介がそんな石矢を芽生に付けなかったのは、普段の芽生の様子から芽生が石矢とすぐに打ち解けそうだと睨んだからだ。
逆に佐山を選んだのは、初見で芽生の扱いがぞんざいだったことを告白してきたからに他ならない。さすがの芽生も、自分に酷くした人間へ気を許すことはないだろうと甘く見ていたのだが……芽生の順応力を侮っていたことが腹立たしくてたまらない。
(バカ娘が!)
泣きそうな顔をして京介をじっと見つめる芽生に、舌打ちしたくなる。だがそんな感情を表に出すことすら、今は忌々しく感じるくらい京介は苛立っていた。
芽生が自分に庇護者へ抱く以上の恋心を持っていることは、京介だってさすがに気が付いている。
だが、堅気じゃない自分が、芽生の想いに応えることだけは絶対にあってはならないと思って、彼女とは一線引いて接しているのだ。
芽生は京介が年の差を気にして手を出さないと思っているようだが、相手が芽生じゃなければ大人の女相手に遠慮なんてするわけがない。ましてや芽生は顔、身体ともに京介にとってかなり好みのドストライクだと言っても過言ではなかった。
(けどな、マジで芽生だけはダメなんだよ)
幼いころ普通の生活が出来なかった分、芽生にはまともな男と幸せな所帯を築いて欲しいと、京介は本気で希っている。
(いや、バカなのは俺か……)
本当なら芽生が施設を出て独り立ちした時点で、彼女に構うのは自粛するべきだった。
それを何だかんだと理由を付けてダラダラと干渉してきてしまったのは自分の弱さに他ならない。
こんな、〝まとも〟とはかけ離れた裏稼業をしている自分のことを無条件に慕ってくれる小さな女の子のことが、柄にもなく可愛くてたまらなくて……手放せなかったと言ったら組の者に笑われるだろうか。
千崎なんかはその危うさにいち早く気付いていて、ずっと警鐘を鳴らしてくれていたのだが、それを無視してぬるま湯から足を洗えなかった結果が今の不始末だ。
芽生が命を狙われている可能性に気が付いて保護してみたものの、それだって最初から自分が関わっていなければそうならなかっただろう。
芽生の身の安全が確保できたなら、今度こそ彼女とは関わりを断つべきだと覚悟している京介としては、芽生に自分と同じ世界に身を置く悪い虫が付くのだけは看過できない。
芽生と話を重ねれば重ねるほど、芽生が佐山を気に掛けているのを感じさせられて……。どうにかして極道者は理不尽で怖いと教えねばならない、と思ってしまった。
「でも、京ちゃん、私……」
「つべこべ言わずにさっさと脱げよ。――それともなにか? 俺の前じゃぁ裸になれねぇ理由でもあんのか」
考えたくないが、すでに佐山のお手付きになっている可能性だって否定できない気がして、京介は芽生が震える手で三つ目のボタンを外せずに躊躇している様を、冷ややかなまなざしで見詰める。
「どう、いう……意味?」
「何だ、今更カマトトぶるのか、芽生。男ってぇのは自分の女にゃ自分のだって印、付けたがるもんだろ。お前もその服の下へ佐山から付けられてんじゃねぇのか、印……」
スッと洗面台から離れて芽生のすぐ傍へ立って彼女を見下ろせば、芽生が泣きそうな顔で京介を睨みつけてきた。
「私とブン……佐、山さんは……そんなんじゃないってさっきからずっと言ってるのに! 何で信じてくれないの!?」
「あ? 口じゃ、何とでも言えるだろ。実際、佐山だって俺のモンに手ェ付けたとあっちゃぁタダじゃ済まねぇって分かってるだろうからな。お前もそんなあいつを庇い立てするぐらいの悪知恵、働くだろ」
京介がそう言った途端、芽生が「京ちゃんのバカ!」と叫んで京介から離れた。
そうしてあんなに躊躇っていたのが嘘みたいにボタンを外していくのだ。
「お、おい、芽生……!」
さすがに本気で自分の前で芽生を裸に引ん剝くつもりなんてなかった京介は、芽生がストン……とワンピースとともに、その上へ羽織っていたカーディガンを足元へ落したのを見て、慌ててしまう。
目の前にはレース素材の、薄桃色の上下を身に着けた下着姿の芽生がいて……。
彼女が身に纏うブラジャーもショーツも、自分がサイズまでバッチリ把握して芽生へ渡したものなのだが、それを着用した芽生の姿なんて微塵も想像したことがなかった京介は、目のやり場に困った。
上下とも総レースで上はノンカップ。色味も淡い。
結果的に芽生の大きな胸の先端を彩る控えめで愛らしい色付きや、小さめの乳首。恥部の薄い茂みがぼんやりと透けてしまっていて、非常によろしくない状態になっていた。
しかもまずいことに、当の本人がそれに気付いていないようで。
京介は、ほぼ無意識。自分が身に着けていた上着を脱ぐと、芽生に着せ掛けていた。
「京、ちゃん?」
視線を外したままの京介から、急に上着で覆われたのだ。芽生だって驚かずにはいられなかったんだろう。
京介の腕の中、芽生が戸惑いに声を揺らせるから。京介はギュッと芽生を腕の中へ抱き締めた。
「もう、いい。お前の覚悟は分かった。仕置きは終いだ。風邪ひく前に風呂、入ってこい」
言って、芽生をグッと脱衣所から押し出すと、京介は扉をぴしゃりと閉ざした。
足元に、先程芽生が脱ぎ捨てたままのワンピースとロングカーディガンがわだかまっているのを見て、グッと下唇を噛みしめる。
下腹部が思い切りきざしてしまっているのを自認して、(嘘だろ)と思った。
***
京介に上着を着せかけられ、いきなりお仕置きは終わりだと宣言されて脱衣所の外へ追い出された芽生は、今更のように自分の大胆な行動が恥ずかしくなった。
佐山と恋仲みたいに言われたのがただただ腹立たしくて。とにかく身の潔白を証明したかっただけだったのだけれど……。
(私のバカ、バカ! 京ちゃんの前で何の躊躇いもなく下着姿になっちゃうとか! はしたない女の子だと思われたかもしれないじゃない!)
泣きそうになりながら、自分に割り当てられた風呂場の脱衣所へ駈け込んで、鏡に映る自分の姿を見てさらに恥ずかしくなった。
(色々透けてた!)
淡い薄桃色のレース素材の下着は、嫌になるぐらい芽生の身体を透かしていた。それは、ある意味真っ裸になるよりエッチに見えて……黒い下着を身に着けていなかったことを心の底から後悔してしまう。
でも――。
(私を抱きしめてくれた時、京ちゃん、反応してくれてなかった?)
京介に抱き締められた際、なんとなくそんな気配をお腹の辺りに感じた気がしたのだけれど、もしそうだとしたら……京介の前で恥ずかしい思いをしたことは無駄じゃなかったのかも知れない。
鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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コメント
3件
あらら。 自分で命じたのにドツボにはまったね、京ちゃん🤭
京ちゃん、芽生ちゃんの事が好きだよね〜😊
読み終えたよ……🥀 もう、この話、心臓がギュッてなるシーンの連続だったね……。京介のヤキモチと飴と鞭のバランスが絶妙すぎて、萌えと切なさでおかしくなりそうだった(笑) 「脱げ」からの、実際に脱がれたら動揺して上着を羽織らせる京介、好きすぎる……。でもそれ、完全に自分で自分の首絞めてるやつじゃん! あと、最後の芽生ちゃんの「反応してた?」って気づきには「待って、そこ気づいちゃうの!?」ってなったよ。背筋がゾクゾクするのも、ニヤニヤしちゃうのも全部このお話の魅力だと思う。 次が待ちきれない……!