⚠️注意⚠️
久しぶりの一次創作です。グロ表現出てくるのでそういうの苦手な方はお控えください。
それではどうぞ
“地獄列車”
第一章
私は雛型麗做(ひながたれいな)。詐欺師だ。
私は暮らしが貧しい。そのため五人の子供に与える食事も少ない。そのことについて子供は多く不満を抱えてるようで、母親としてなんとかしてやりたいと思っていた。
その時に見つけた仕事が詐欺師だった。
詐欺師を勧めてきてくれたのはとあるガタイのいい男だった。身なりが立派で、これは一ついくらするんだろうと思いかけてしまった。
その男が私が買い物中詐欺師にならないかと提案してきたのだ。
お金も貰えるということで、私は喜んで飛び付いた。これで貧しい暮らしとはおさらばだと子供たちにも言ってやったのだが…
長男である楓が言ってきたのだ。
「お母さん…詐欺師になんかなったら、地獄送りになっちゃうよ」
その言葉に、下の四人は全員うなずいたのだ。
私は突如目の前が真っ赤になった。とにかく反対するこの五人は敵だと思った。
そして、気がつくと私の子供は全員血まみれになって倒れていた。単なる私がやったのだ。服には真っ赤で異臭をはなつ血が付いていた。
夫はいなかった。すこし前に他界したのだ。
これで邪魔物は居なくなった。
私は清々しい気持ちで詐欺師を始めた。
そこからはすべてがトントン拍子だった。お金は手に入るわ、ボスからは褒められるわ、全くいい仕事を見つけたと、私は有頂天だった。
しまいにはボスに言われたのだ。
「お前は下働きで働いているにはもったいない。是非とも私の側近になってくれ」と。
私は今度こそ飛び上がった。これでまたお金が手に入る、私は絶対にお金持ちになる。そう決めた。
ボスの側近になってからは詐欺もはかどった。男たらしに丁度いい見た目をしている私は詐欺に丁度よかったのだ。
そうして私の名はどんどんネット中に広がっていった。
「黒色の詐欺師」。
いつの日か、そう呼ばれるようになった。
みんなが私に騙される。そのことがたまらなく嬉しく、私はついにボスの座に座った。
もうネットの世界を支配することなんて手ではないと私は高笑いした。
だが、ついに事件は起こったのだ。
その日も私は詐欺をして金を騙し取っていた。今日もうまくいくと思った私だったが、異変に気がついたのだ。
ネット上で繋がった男の部屋には、血まみれの服があった。殺し屋かなんかかなと思いながらも、私は身代金を聞き出した。
『ねぇ、今度どこかで会おうよ』
彼にそう聞かれた。私はもちろん「いいですよ」と答えた。
そして、私は約束の日にとある路地裏に向かった。其処には彼が立っていて、ちょちょいと手招きしてきたのだ。
誰もいないことを確認し、私は彼の待つ路地裏に入った。薄汚く、虫もたくさんいた。
「やっと会えましたわね。それで? どこに行くのかしら?」
「あぁ。まずは君の身なりを確認しないと」
「身なり? 何も仕入れていませんわよ?」
「違う違う。君の心臓の身なりだよ」
そうして、ぐさりと私は心臓を刺された。
それからは覚えていない。いつの間にか知らない道に立っていた。だが、血が溢れだしたのは覚えていた。
紅い絨毯が敷かれ、天井には見事なシャンデリアがぶら下がっていた。そしてその先には、とてつもない大男が待ち構えていた。
「地獄行き」や「天国行き」などと言って判子を押す仕草。あれは間違いなく閻魔大王だと私は心で悟った。
閻魔大王。地獄行きか天国行きかを決める冥界の王。いつの間にか私の体はわなわなと震えていた。私は、死んだのだ。あの男に刺されて。
そしてついに、私の番がやってきた。
閻魔の前に立つと、閻魔は私をじっくりと見てきた。
見た目はただの醜男だ。青白い大きな顔。一つにまとめあげられた灰色の髪の毛。それこそ本物の閻魔だ。
閻魔は置いてあった紙を見ると、私の名前、職業を述べた。
「雛型麗做。三十六歳。詐欺師…か」
私の体は震えっぱなしだった。閻魔大王を前にして震えない者などいるのだろうか。
閻魔は横に置いてあった判子を手に持つと、私が最後の裁判だったからだろうか。耳をつんざくような大きな声で言い放った。
「地獄送り!」
どんっと音を立てて判子を押した。「地獄」と彫られている判子を離すと、横にいた二人のうちの一人が閻魔に文句を言った。
素晴らしく美しい少女だった。滝のごとく靡いている淡く輝く白い髪。かわいらしいのにぞっとするほど美しい飴色の目。何個も何個もレースを重ねたワンピース。頭には黄色い輪のようなものが浮いていた。
そして、その少女には素晴らしい翼が生えていた。ほのかに輝くその白い翼は、圧倒されるほどの清々しさを纏っていた。
この子が詐欺師をやったら、名高い名声を手に入れるだろうなと思いながら私は少女の声を聞いた。
「いくらなんでも、多すぎではありませんの、閻魔様? 獄瞳ちゃんが可哀想ですわ」
恐ろしいほど美しい声だった。痺れるようなその声に、私は意識を失いかけた。
少女はその飴色の目で閻魔を見る。閻魔はため息をつき、少女に言い返した。
「仕方なかろう、天蜜。この世にはたくさんの罪人がおることを、お前も知っているだろう」
ゆっくりと喋るその声には、重みがあった。少女の清々しさ、閻魔の重みを一斉に感じるので、私は本当に意識を失ったかと思った。
「というわけで、獄瞳、天蜜。これで以上の裁判はない。霊魂をそれぞれ天国か地獄に連れていけ」
「承知」
二人一斉に答える。天蜜が閻魔の右側に居るので、左側にはもう一人居たのだ。
天蜜より少し幼い青年だった。色白の顔には美しい笑みが浮かんでおり、だがそれは少しおぞましい。男の割に長い黒髪を後ろに流し、頭には車掌のような帽子がある。帽子だけではなく、服も車掌だった。黒色のマントを肩から被せていた。目鼻立ちはいいが、どこかまがまがしい青年だった。
その青年は私の手を引っ張ると、にこにこと黒色の目で私を見て、語りかけた。
「私は獄瞳(ごくめ)。貴方を今から地獄に送る、地獄列車車掌です」
礼儀正しく挨拶を済ませる青年は、私を連れて行こうとすると天蜜に止められた。
「獄瞳ちゃん。後でわたくしと遊びましょうね」
「勿論。天蜜殿と遊ぶのは私の楽しみでもあるので」
そう返せば、青年は私の腕を引っ張る手を離し、霊魂の一番前を歩いた。
歩くごとに、その場の空気は禍々しいものとなっていった。ずしずしと足音を立てる私たちだが、獄瞳という青年はいつものようにすらすらと歩いていく。
「あいつ、すげぇよな。あの年でここ歩けるんだぜ?」
「そうだな。俺たち大人でもここは疲れるっていうのにな」
文句を流す霊魂たちに、獄瞳はぴしゃりと言い放った。
「喋らないでください。喋ることすら出来ない霊魂もいるのですよ」
その一声で、喋っていた霊魂は黙り込んだ。
そしてついに列車の前、駅のホームに来たのだ。
「地獄駅」という看板を抱えている”幽霊”がこちらを出迎えてくれた。白くて、透けている幽霊…。
そうだ、こいつは幽霊だ。私たちのような霊魂ではないのだ。
誰かが悲鳴をあげた。その悲鳴に釣られて周りの奴らも悲鳴を上げだした。
そうだ、私たちは今から地獄に行くのだ。
そう気づいた途端、ぶわぁっと憎悪が体に走った。
私も悲鳴を上げた。地獄になんか行きたくない。折角詐欺師のボスになれたのに、折角彼と会えたのに。殺し屋だと思い込んでいたが、あいつは紛れもない殺し屋だったのだ。
地獄になんか行きたくない。そう叫ぶ私たちに、獄瞳は言った。
「貴方たちはもう助かりませんよ。まぁ、地獄送りの列車から脱獄できたらまた生き返るかも知れませんが」
「やだやだやだ! 列車から脱獄する? そんなこと、出来るわけない!」
側にいた幼い子が獄瞳に叫ぶ。そうだ、地獄送りの列車から脱獄するなんて、誰が考えるだろう。
「脱獄する勇気が現れるといいですねぇ。ほら、列車が止まりました。皆様お乗りください。当列車は多層立てです。お乗り間違いがないようにご注意ください」
霊魂たちはそのまま諦めたかのように列車に乗り始めた。そばで泣いていた少女は隣に乗った。
しくしくと廊下側で泣いている少女。その姿を見ると、なんだか哀れみが溢れてきた。
「ね、ねぇ。大丈夫?」
少女に問いかける。少女は顔を上げ、こくりと頷いた。
「よかった。貴方の名前は何て言うの?」
少女の涙を拭い、私は名前を聞いた。
「あ、あたしは神奈(しんな)。お、お兄ちゃんやお母さんをコろしちゃった、ダメな子なの…」
自分で自分を責める少女に私はゆっくりと慰めた。
「大丈夫、大丈夫。お姉さんもね、たくさん悪いことをしでかしちゃったから。貴方の仲間だから。大丈夫よ。此処のみんなはみんな仲間。みんな悪い子なの、だから、安心して?」
そう言えば、神奈と名乗った少女は泣くのを辞めた。するといきなりアナウンスが流れてきた。車内アナウンスだ。それはさっきの青年、獄瞳だった。
「みなさん、この度はご乗車頂き誠にありがとうございます。これより地獄列車は出発いたします。席の譲り合いにご協力ください」
右確認、左確認。出発してください。そう青年が言うと、列車はガタンガタンと走り出した。
ひぇっと悲鳴をあげる神奈を慰め、私は考えた。
脱獄すれば生き返ることができる。その言葉を私は思い出した。だが、私はふと思ったのだ。
獄瞳が言っていたのは「脱出」ではなく「脱獄」。つまり、此処を抜け出してから閻魔の部屋をも抜け出さないといけないのだ。そのことを考えると、脱獄は難しいかもしれないが…この子を、神奈を助けるために、私はこの子と一緒に脱獄すると決めた。だから隣の神奈に言ったのだ。
「…神奈ちゃん。此処、脱獄するよ。大丈夫、私がついてる。どう? 貴方は、お母さんたちに謝りたいのでしょう?」
「だ、脱獄、するの? こ、ここ、を? あたし、怖い…」
「大丈夫。その内仲間も見つけるかも。だから、脱獄しよう? ね?」
そう言うと、神奈は覚悟を決めたように頷いた。よしっと心でグッドポーズを決めると、私は急いで頭を巡らした。
とりあえず、仲間は絶対にほしい。私と神奈二人だと、どうしても人手や知識が足りない。だが、そう簡単に見つかるか? 仲間がほしいと言っただけでは達成できない。
そうすれば、此処の席から外れるしかないと思い、私は自分の席のシートベルトを外し始めた。その姿に神奈は混乱したようだ、止めてきた。
「麗做お姉ちゃん、何やってるの…?」
「何って、シートベルトを外しているの。ほら、神奈ちゃんもはずして。脱獄するには此処を外れるしかないの」
その言葉に反応し、神奈もシートベルトを外し始めた。
外し終わると、私は廊下側の神奈に問いかけた。
「神奈ちゃん、仲間になりそうな人はいる? そうね、目に光が入ってる人がいいわ」
「わ、分かった。探してみる」
神奈は顔を出し、車両内を見渡した。
「い、いた。あの人、光入ってる」
神奈が指差す方を見ると、気怠そうに手を組んでる男が居た。
「えぇ。あの人がいいわ。…神奈ちゃん、席を出るわよ」
そうして、私と神奈は席を出た。男の席に向かうため。
一章、終点。
コメント
5件
凄いです! 心にグッときました