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ひとまず母さんの衝撃がおさまってから、俺達は家のリビングへと入った。テーブルを挟んで母さんと向かい合うようにして、椅子へと着席する。
「連日、鈴木くんを夜帰りさせてしまって申し訳ありません」
開口一番、星咲が誤解を生むような発言をしながら頭を下げた。そもそも、帰りが遅くなったのは星咲のせいではない。
なので俺が間に入って事情を説明しようとするが、母さんが首を振りながら即座に返答してしまう。
「あらぁやだ。いいのよ星咲さん。不甲斐ない息子にこんな立派な彼女さんができたのだから、親として喜ばない人なんていないわよ」
「こちらこそ、鈴木くんのような素敵な男性と巡り合わせてくださったお母様には、とても感謝しています」
「あら、やあね」
まんざらでもない風に母さんは照れる。
なんという、なんというチョロい母親なんだ……。涙を拭きながら、神を見るように眩しそうな表情で星咲を眺める母さんを目にして、ちょっとだけゲンナリする。
普段の俺に対する態度と、星咲への反応に差がありすぎるぞ。
「それで毎日、帰りが遅くなってしまっていた理由なのですが……」
星咲がチラリと俺へと視線を向ける。
ここからは俺が話すべきだと星咲が気を利かせ、一拍置いてくれる。
「若い男女が色々と営むのは自然なことよ。そんなの私に話さなくていいわよ」
何を色々と営んでいると思ったのか想像もしたくないが、母さんの誤解を解くべく俺はゆっくりと口を開く。
「母さん、よく聞いてくれ。俺、魔法少女アイドルになろうと思うんだ」
「はい? あんた頭でもおかしくなったのかい?」
ポカンと口を空け、あきれ顔で俺を見つめる母さん。これは至極当然の反応なので、落ち着いて一から説明を始める。
俺に魔法力が発現し、『銀白昼夢』で美少女になれること。それからアイドル候補生になったこと。星咲とはアイドル関係で知り合ったこと。
最初は半信半疑だった母さんだけど、隣にいる星咲が黙って頷き続けるものだから、その表情は真剣味を帯びてゆく。
この一週間【シード機関】に通い、ダンスレッスンのせいで帰りが遅くなったことや、星咲のライヴにでるために特訓していたと伝える。
ここまでくると、母は完全に納得顔に至る。
なぜならこの場に星咲がいることが、何よりも信憑性を高める要因となっているのだ。トップアイドルが我が家にいて、俺の言葉が真実だと態度で示してくれる。
これ以上の証拠はないだろう。
「最近、吉良の帰りが遅い理由はわかったわ……星咲さんにお世話になっていることも」
ありがとうね、と星咲に頭を下げる母さん。
しかし再び、頭を上げた顔は笑ってはいなかった。星咲をジッと見つめ、何かを見極めるような態度で彼女に問い掛けた。
「星咲さんは吉良のどこが好きなのかしら?」
ちょっ、なにを言ってるんだ!?
「そうですね」
星咲も星咲で、当然のように答えようと思案し始めた。
「おまえ、そういうのはいいから。母さんも俺達はそんなんじゃなくて……」
「吉良は黙っていなさい」
俺の発言はピシャリと押しつぶされてしまう。
「鈴木くんは、冷たい素振りをしてるけど……」
そんなこんなで星咲がおずおずと語り始めてしまうではないか。
「実は私の事をよく見ていてくれて……心の中で一生懸命に理由をつけて、素直になれないところが可愛いです。しかも結局は何だかんだ優しくしてくれます」
「おい……お前……」
俺が声をかけるも、星咲は視線を母さんにしか合わせない。耳を真っ赤にしながら、母さんの方をひたむきに向き続けているのだ。
「大切なもののために、何かを捨てられる強さ。何かを貫ける強さが鈴木くんにはあります」
そんな言葉を吐いた星咲の表情にはわずかな憂いが帯びる。
きっと、これは俺が魔法少女になると決意した瞬間の事を言っているのかもしれない。妹の夢来を命の危機から救うために、普通の人間としての日常を捨てた。そして今は、生きるためにアイドルとしての活動を全力でやり抜くしかない。
どちらも後悔はしてない。しかし、まさか自分が憎悪していた魔法少女アイドルになる、という点は納得いかない部分もあるが……やるしかないんだ。
うじうじ言っていられる程、余裕はない。
「そんなところがいいなって思いました」
「……それは魔法少女として、みんな同じなんだろ? お前だって……」
「私は欲求に忠実だっただけ。でも鈴木くんはちょっと違うかな」
「……」
欲求って、お前……。
母さんの前ではしにくい話題を出されてしまい、俺はだんまりとしてしまう。
「星咲さんのお気持ちはわかったわ。こんなダメ息子を好いてくれて、本当にありがとうね」
にこにこと満面の笑みな母さんに向かい、『こちらこそよろしくお願いします』と言っちゃう星咲。
「お墨付き」
ニチャリとはにかむ星咲。うまい具合に母さんから見れない角度で、してやったりと微笑んでいる。俺は一言物申してやろうと思い、席を立って口を開こうとする。
「っえ!? どうしてうちにホッシーが!?」
しかし、それは愛する妹から発せられた美しい悲鳴によって遮られてしまった。
帰宅した夢来は星咲を見つめ、驚きの表情で固まっていた。