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コメント
1件
うわあ……読み終えてからしばらく、動けませんでした。この「暮らしがずるりと音を立てて滑る」感覚、すごく生々しくて怖いのに目が離せなかったです。 特に、貧しさの中で「百うん十円」という具体の数字と、缶麦酒や固いカップ麺の描写が繰り返されることで、生活の息苦しさがどんどん迫ってくるようでした。ガスメーターっていう、普段は意識しない「生活の監視者」をタイトルに持ってきたのも秀逸ですね。 それでいて、子どもの頃の記憶や「明日を愛おしがるこどもたち」が胸に去来する構成が、ただの悲劇ではなくて、人間の哀しさみたいなものを浮かび上がらせていて……。現実と幻覚の境界が曖昧になっていく終盤の緊張感、特に息をつめました。この空気感、すごく好きです。ありがとうございました。
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⚠︎ワンクッション⚠︎
・元の楽曲は『暮らしガスメーター』/電キ鯨 です。
・解釈違い起こる可能性大
・生成AI不使用
・駄文です
郊外の古く萎びた集合住宅は、昼になると壁の塗装がおしろいの粉を吹いたように白く見えた。そこを満たしているのは、いつも決まって、ぬるく、饐えたような、貧民窟特有の湿った空気であった。ああ、どうかこれ以上、私を惨めに殺さないでくれ。私のなけなしの、なけなしの、爪の先ほどの自尊心を奪わないでくれ。 私をこれ以上、この薄暗い四畳半の底で、じわじわと懸り殺しにしないでくれ。
「お姉ちゃん。おもちゃ、捨てないの?」
湿った万年床の端に腰掛け、擦り切れた衣服の襟を合わせながら、君はくすくすと、いかにも懐かしそうに、そしてどこか哀れむように児童用の玩具を指さし笑った。その視線の先にあるのは、かつて私が、まだ玩具が友人で私の世界そのものだった頃の私の、ガラクタの山。そう、私の大事だった︎︎゙おともだち︎︎゙たち、私の青春の燃え殻だ。 質屋に持っていったところで、十円の値打ちもつかない。それを「片付けないの?」などと、そんな風に、他人事のように笑わないでほしいのだ。私はその言葉に傷つき、己の無能を突きつけられ、ただ畳の目を凝視して恥じるばかりである。
爪を噛んだ。友人のように親しかった玩具がただのくたびれた玩具に成り下がってしまったことが酷く寂しい。私はそれらを片付けることすらせずに、目をつぶって深くため息を着いた。
ふと、幼い頃の、遠足の前の夜のあの異様な興奮を思い出す。いま、この困窮の極みにある私の胸の奥には、あの頃の暗闇に住んでいた、たくさんのこどもたちがひしめき合っている。彼らは、明日という、私にとっては借金の取り立てや家賃の督促に追われるだけの恐ろしい「明日」を、なおも愛おしがって笑っているのだ。明日になれば、何か良いことがあるかもしれない、などと、無邪気な幻想を抱いて嬉しくて堪らなくて泣くんだ。うるさくて仕方がない。耳をふさいで、このまま死んだように寝るがいい、と君に言い聞かせる。
君は、少し不貞腐れたように頬を膨らませてから、少ししたらすうすうと寝息を立て眠った。
正午になると、また酷いほど激しい眠気が私を襲う。単に寝不足というのもある。だが、最も大きいところで言うと腹が減っているから眠るというところだ。起きていると、どうしても飯のことを考えてしまうから、眠るのだ。この、生活の怠惰な安心が、赤ん坊をあやすように私を甘やかし、 泥のような眠りへと誘う。今日という日に、私たちの体は錆びついた。いや、今日に始まったことではない。私たちはとっくに、ついに、決定的に、貧苦の中で錆びついてしまったのだ。
だが、それがいくら憎らしく、不甲斐なく、己の境遇が呪わしくとも、私たちはこのみっともない日々を、ずるずると暮らしてしまう。「ああ、洗濯物の取り込みがまだだった」と不意に我に返り、私は立ち上がる。薄い木綿のシャツが、ベランダの煤けた風に揺れている。それを眺めているうちに、私は自分が何のために生きているのか分からなくなり、空と遊んで崩れてしまった両の手を、ただ、虚しく、天に向かって伸ばすばかりである。
生活。 生活。すべては金だ。そして金のない我が家を監視する、あの壁のガスメータの計略だ。
生きているだけで、金がかかる。呼吸をしているだけで、私たちは世間に借金をしている。最低限、人間に見られるための「安心」の代金は、銀行で口座を作ることでさえ億劫になってしまった私は郵便局の窓口で、手の震えを隠しながら支払う。その他一切の、 安直な、その場しのぎの安心は、コンビニエンスストアでポケットの底の小銭をかき集め、百うん十円を払えば事足りる。百うん十円の缶麦酒、百うん十円の固いカップ麺。それが私の、一日の全財産であり、全存在なのだ。
夜になれば、部屋の隅の暗がりで幽霊がケタケタと笑う。お前はいつまでそんな暮らしを続ける気だ、と私をあざ笑う。私はまた、己の小心さと、明日の米代もない我が身の行末に困惑し、ただ布団を頭から被って震える。みだりな安心は、コンビニエンスで百うん十円。その百うん十円がなくて、私は何度、泥棒になる妄想をしたことか。
ある晩、 「ねえ、ダンスでも踊ろうよ。こんなに月が綺麗なんだから。」君が不意に、らしくない明るさで言う。「できない。できない、そんなこと…」私はボソボソと同じ言葉を反芻し、気がつけば眼球は涙で潤んでいた。君があまりに何度も繰り返して言うものだったから、「できない!」不意に私は激しく叫んでしまった。
脂汗でびちょびちょに濡れた私には、ステップを踏む資格などないのだと思った。この破れた靴下で、この冷え切った畳の上で、どうして優雅に踊ることなどできようか。踊るくらいなら、いっそ首でも括った方が、よっぽどお似合いだ。お気楽能天気な君には、私の気持ちは分からないだろうな。とふと思った。
これは、昔むかし、私がまだ学生だった頃に、自らの傲慢さゆえに恥じた日々と、寸分違わず重なってしまった物語だ。あの頃のツケが、今になってこの貧窮となって私を襲っているのだ。耳の奥で、こどもたちの笑う声が、醜く、肥大して膨らんでいく。君を騙してしまうような、私たちは本当は仕合せなのだと思わせるような、そんな美しい嘘でもいいから欲しかった。ガスメータが不意に止まってしまえばいい。 ガスを止められ、暗闇の中で凍えてしまえばいい。私はまた、ただ顔を曇らせ、己の不運を呪うだけだ。 ここは孤独の詰め合わせ。団地A棟の、狭い、狭い、四角く切り取られた空の下。私たちはそこに閉じ込められた、哀れな二匹の虫けらだった。
暮らしが、ずるりと、音を立てて滑った。
私は家計簿をつけていたつもりがまたうとうとも眠っていた。気がつくと、部屋の中はしんと静まり返っていた。ひんやりとした部屋、「ああ、そういえば三日前からガスは弱かったな」なんて考えて、私はようやく隣で君が寝ていることに気がついた。起こすのも可哀想だから寝かせてやろうとまた家計簿に目を戻したが、ヒヤリと嫌な予感がして、視線を君に戻した。午睡のふりをして、君が机に伏せている。いや、ふりではない。君の顔色には生気がなく、まるで事切れているかのように白い。私はそれを抱くこともできず撫でることもできず、触ることさえあまりに恐ろしかった。これは現実なのか。それとも、飢えと絶望のあまりに私の脳が見せている、おぞましい幻想なのか。もう、どちらでもよかった。現実であれ幻想であれ、私たちの破滅はとうに決まっていたのだから。ふっと吸い上げた呼気には伝う涙による過呼吸が混じっていた。
救急車を呼ぶか。どうやって呼ぶものなんだと必死に携帯電話を触る。カチャカチャという音がなる度焦燥は募る。手汗と、脳内で過剰分泌されているのであろうコルチゾールのせいでまともな判断ができなくなった。喉が詰まって、心臓がバクバクと音を立ててるようで、どこか現実離れしたような、嘘のような、ドッキリでもされてるような気分だった。
私は、狂ったような焦燥に駆られ、手元にあった古い写真を掴んだ。まだ、私たちが辛うじて人間らしい服を着て、笑っていた頃の、忌わしい過去の遺物だ。写真を、写真を、私は引きむしるようA棟のベランダから、狭い空へと撒いた。ひらひらと、まるで借金の督促状のように舞い散る写真の破片を眺めながら、私は、ようやくわっと声をあげて泣いた。
最後まで熟読ありがとうございました!
次回(予定)→『のろい』/黒うさぎ
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