橋本の顔の横に両腕を突き立てながら前屈みになりつつ、すっかり形が変わってしまった大きくなったモノを、容赦なくぐりぐり擦りつけた。
「くぅっ……」
ほんの数時間前にイチャイチャしたばかりなのに、擦りつけた部分は宮本だけじゃなく橋本も熱く熱を孕んでいた。
「陽さん、感じ足りなかった?」
宮本は刺激を与えるようにゆっくりと腰を上下に動かして、橋本の顔色を窺った。
「雅輝だって、ンンっ、あんなにシたのにっ、俺を求めるなんておかしいだろ」
背もたれにかけた片足が時折ビクッと跳ねることで、橋本が感じているのがわかった。
「触れるだけで、簡単にスイッチが入っちゃうんです。さっき触った陽さんの胸の高鳴りが、てのひらに伝わったせいかな」
(俺のとった行動で、あんなふうにドキドキする陽さんを見せられたら、歯止めが効かないに決まってる――)
突き立てた両腕を折りたたみ、橋本に顔を近づけて噛みつくようなキスをした。
「やぁっ、あっ…んあっ…ぁっ…」
舌をじゅぷじゅぷ出し入れさせながら、下半身の動きも連動させる。橋本がこのまま流されてくれますようにと、時折焦らしつつ感じさせた。
「雅輝ぃっ…刺激強すぎ、勘弁してく、れ」
「陽さんがここでしてもいいって言ってくれたら、刺激を与えるのをやめますよ」
「ひでぇ交渉するんじゃねぇよ。クソガキ……」
口ではそんなことを言ってるのに、まったく抵抗を見せない橋本を不思議に思い、宮本は目を瞬かせながら首を傾げた。
「なんて顔してるんだ。俺はおかしなことを言ってねぇだろ」
「そうですけど……」
「まったく! 察しろよ、空気を読め!!」
「むぅ。空気を読む?」
言いながら橋本の首筋に顔を近づけて、鼻をすんすん鳴らした。その瞬間に、こめかみ辺りに橋本のパンチが炸裂する。容赦のないその攻撃のせいで、両目から星が飛び出た。
殴られた部分を両手で押さえながら、呻き声をあげる宮本を目の当たりにして、橋本は大きなため息をついた。
「陽さんひどいよ。今ので俺のヤル気が、全部吹き飛んだ!」
「軽くグーパンしただけだろ。それに空気を読めない、雅輝が悪い」
「陽さんのパンチは表面が痛いんじゃなくて、殴られたあとに中側に衝撃波がくるんだってば。軽いものでも、俺の目玉が飛び出ると思ったんだから」
「今の言葉で、俺のヤル気が1.5倍増えた」
ぼやく宮本の背中を、橋本は苦笑いしながら宥めるように擦った。
「何でヤル気が漲るんですか。俺は克明に文句を言ったというのに」
相当痛かったのか、こめかみを擦る宮本は面白くないことを示すべく、つんと唇を尖らせた。
「褒め言葉にしか聞こえなかったぞ」
そんな宮本の態度もなんのその。橋本は苦笑いを止めて、思いっきり微笑み倒した。
「さっきのどこが、褒め言葉に聞こえるのやら。俺にはさっぱりわからない」
「だよな、さっきからすれ違ってばかりいるよな」
「これって陽さんの意図を悟れない、俺が悪いんでしょうか……」
尖らせた唇をもとに戻して、恐るおそる訊ねる宮本に、橋本は気難しい顔を決めこんだ。
「すぐに悟られたら、それはそれで面白くない」
「え~っ、それってどっちに転んでも、俺が陽さんに攻撃されちゃうじゃないですか」
「常に緊張感があっていいだろ。それに――」
言いかけたセリフを意味深に止めた橋本を不思議に思い、宮本は真剣な表情で顔を寄せる。
「それに?」
「他愛ないやり取りだろうが、好きなヤツとするのは、なにをやっても楽しいってことさ」
「陽さん……」
「結局は強請られたことのほとんどを、文句を言いながらも許してやってるだろ。心の広い俺に感謝しろよ」
宥めるために撫でていた宮本の背中を、思いっきりバシンと叩いた。
「……いいの?」
「今更それを聞くのか。まったく」
狼狽える宮本の額に目がけて、橋本は笑いながらちゅっとキスを落とした。
「陽さん、無理してない?」
「くどいぞおまえ。俺がいいって言ってるんだから、思いっきりヤりやがれ!」
顔のすぐ傍で喚いたせいか、橋本の怒鳴り声が鼓膜まで響いた。
「ひ~っ、これから手を出させていただきます!」
しなくてもいい宣言をしつつ、橋本が着ているシャツのボタンを外していった。
「雅輝はやっぱりドМだよな」
かけられた声に、ボタンを外している手が止まった。これからソファでおこなわれる行為を考えただけで、嬉しさのあまりに手が震えるせいで、ボタンを外すだけでも一苦労していたところだった。
「そのことについては否定しませんけど、俺ってば何か醸してます?」
「俺に怒られてビビった声を出したくせに、顔は思いっきり笑ってるっていう、おかしなことになってるぞ」
「それはだって、ねえ。これから普段しないようなコトをいたすんですし、陽さんがどれだけ感じてくれるかを考えたら、ニヤニヤが止まりません」
何とかボタンを外し終えて、橋本の素肌に触れる。
「おいおい。張り切りすぎるあまりに、痛いコトだけはすんなよ。インプと違って、俺はヤワなんだからな」
橋本の呆れた声に宮本は首を何度も縦に振りながら、顔を寄せた。
「大好きな陽さんに、傷つけることはしません。誓います」
「そろそろ大好きって言葉よりも、愛してるって言って欲しいんだけどさ」
唇を塞ぎかけた宮本の動きを止める、橋本のセリフ。寄せていた顔を遠のかせて、目の前にある恋人の顔をじっと見つめた。
「そういえば俺、大好きばっかり言ってた」
「雅輝らしくていいんだけど、やっぱり愛してるって言われたい」
宮本の首に両腕をかけながら強請られた言葉は、いつも口走っている『大好き』と違って、宮本を緊張させるものだった。
自分の想う気持ちの重たさを示す言葉になるんじゃないかと、安易に口にできなくて、ごくたまに告げるだけにしていたものなれど――。
「愛してます、陽さん」
橋本に想いを伝えるために、これからは積極的に使おうと考えた。
「俺も雅輝を愛してる」
首に絡んだ腕が宮本を引き寄せて、橋本から唇を重ねた。
限られた時間を、濃密に過ごすことができたふたり。たまに遠回りしながらも、笑い合いながら楽しい休日を過ごしたのだった。
愛でたし 愛でたし
ポッ(。-_-。 )人( 。-_-。)ポッ