コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
※これは一緒に暮らして、初めて迎えたクリスマスのお話になります。
「うへぇ……お歳暮の配達のせいで、うんざりするくらいに疲れた。だけど家に帰ったら大好きな陽さんがいるんだって考えるだけで、そんな疲れが吹き飛んじゃうんだから不思議」
デコトラのハンドルを握りしめながら、自然とクリスマスソングを歌ってしまう宮本。その歌が上手なのか下手なのかは、皆様の想像におまかせします。
マンション近くの駐車場にトラックを停めて、助手席に置いてあった荷物を手に、急ぎ足で帰宅する。
甘いものが苦手な橋本を考えて、イチゴのショートケーキ1個とクリスマスプレゼントを持ってる宮本は、まんまサンタの気分だった。
「ただいま~! ってあれ?」
玄関には、橋本の靴が揃えて置いてあった。なので在宅しているのは間違いないのに、リビングにその姿がない。
宮本は手に持っていた荷物を一旦テーブルに置き、トイレやバスルームを探して歩いた。
「いない。どうしてだ?」
首を捻りながら寝室の扉を開けると、ベッドヘッドの小さなライトがつけっぱなしだった。そんな状態で普段は寝ていないので、ライトがついていること自体が謎に満ちあふれ、宮本の眉間に深い皺を作った。
「むう?」
背後から漏れるリビングの明かりと、ベッドヘッドのライトの明かりで、その存在にやっと気がつく。
ベッドの上に赤いリボンで括られている、とても大きな白い布袋があった。
何だこりゃと思いつつ近づいたら、足裏で思いっきり何かを踏みつけた。ガサリと音がしたせいで、薄い紙を踏んだのはすぐにわかったのだが、訝しく思いながら拾い上げ、リビングの明かりでそれをしっかり確認してみる。
『みやもとまさきくんへ
いつもいいこにしてるきみに、サンタさんからプレゼントをあげます。にるなりやくなり、すきにしてあげてくださいね。 サンタクロースより』
クレヨンでカラフルに書かれた、妙に達筆なひらがなの羅列に、宮本は思わずプッと吹き出した。
「陽さんってば、なにをやってるんですか!」
慌てて赤いリボンを解き、大きな袋を開けてやる。すると中から赤い三角帽子をかぶった、困り顔の橋本が出てきた。
「ぉ、おう……」
「いったいいつから、その袋の中に入って……うわっ、もしかして全裸!?」
袋から橋本を脱出させようと、思いっきり袋をズリ下ろしたら、見慣れたものがババンと目に入ってしまった。
「紙に書いてあったろ。煮るなり焼くなり好きにしろって」
宮本が下ろした袋を強引に奪取した橋本は、大事な部分を隠しながら頬を染める。
(陽さんがこんなことをするなんて、夢にも思っていなかった。俺がするならまだしも、普段は大人の陽さんが、こんなことをぉおおお!)
「あ、あのね陽さん、どうしてこんなことをしたのでしょうか?」
「……こういうことしたら、雅輝が喜ぶと思って。あと――」
橋本は恥ずかしそうに袋を両手で握りしめつつ、視線を右往左往させる。
「あと?」
「クリスマスプレゼント、すげぇ迷っちまってさ。迷った物を両方買えばいいんだろうけど、そんな優柔不断なことをしたくなくて。だから」
「はい」
「休みの日に一緒に見に行って、直接おまえに選んでもらいたい。それがもう一つのプレゼントだ」
「それなら、俺からも陽さんにプレゼントがあるです。ちょっと待っててくださいね」
宮本はリビングに置きっぱなしにしている物を持ち、急いで戻ってきた。自らの手で包装紙を破り、ぽかんとしている橋本の帽子を取ってから、それをいそいそ着せる。
「これって――」
「インプのロイヤルブルーと同じ色のセーターを、ネットで見つけたんです。やっぱり陽さんに似合ってた」
「あったかい」
「でしょう? そんな恰好でいたら、風邪を引いちゃいますって。とりあえず下も、何か履いてください。ケーキを買ってきたんです」
橋本に視線を合わせた宮本が立ち去ろうとした瞬間、細長い腕が左手を掴む。
「陽さん?」
「ケーキを食う前にら俺を食べろ。その……下の準備がしっかりできちゃってるから、さ」
着ているセーターのロイヤルブルーと反比例する、橋本の頬の色。その様子は見ているだけで、すぐに食べたくなるものだった。
「随分と準備のいいサンタさんですね。これじゃあ、我慢できるわけがないです」
勢いよくベッドにダイブした宮本は、橋本をぎゅっと抱きしめた。
「雅輝、メリークリスマス。プレゼントありがとな」
「メリークリスマス、陽さん。俺こそサプライズなプレゼントを、どうもありがとうございます」
こうしてふたり仲良く、はじめてのクリスマスを過ごすことになったのでした。
愛でたし 愛でたし