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#溺愛
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【フィルモア城・大聖堂】
ルシファーとの死闘を終え、大聖堂の重い扉を抜けた途端――。
「タクちゃん、もう無理――」
「――華奈……」
極限まで張り詰めていた糸が切れたように、匠と華奈はその場に崩れ落ちた。
※※※※※※
【数日後フィルモア城・客間】
そこから二人は、まるで泥のように眠り続けた。
「……華奈」
どれほどの時間が過ぎただろうか。
先に目を覚ました匠は、疲弊しきった華奈の寝顔を見守りながら、彼女が覚醒するまで静かにその傍らに寄り添っていた。
「――ッ」
やがて、華奈の長いまつ毛がピクリと揺れ、ゆっくりとまぶたが開く。
「……たく……ちゃん?」
「おはよう華奈」
匠は愛おしさを込めて優しく彼女を抱きしめると、その額に軽くキスを落とした。
互いの無事を確かめ合うような甘い余韻が満ちかける――その瞬間。
――ぐぅぅぅぅぅ。
華奈の腹虫が、盛大に静寂を破る――。
気恥ずかしさに思わず顔を伏せた華奈は、匠に優しく抱きしめられる。
「俺も腹が減ったから、今頼むよ」
「……うん」
客間に控えていた侍女にパン粥を頼み、それを胃に流し込んで、ようやく一息ついた。
「ふぅ……生きた心地がしたわね」
吐息をついた華奈が、ふと自分の手元に目をやった。そして、驚いたように目を見開く。
「うふふ、見て……! 契約魔法の呪いが消えているよ」
爪に刻まれていた契約魔法の呪印が、綺麗さっぱり消滅していた。
一度命を落としたことで、効力が無くなったということだ。
それを見た匠の表情が明るくなった。
「なぁ華奈。一度、魔人族領に来てみないか?」
「えっ……! いいの?」
「ああ。君に見せたい景色がたくさんあるんだ」
「行く! ……あ、でもその前に、メアリーにも会いに行きたいな」
笑い合う二人のもとへ、突如としてバタバタと激しい足音が近づいてきた。
「匠殿! 華奈殿!!ちょとご相談がぁぁぁぁぁ」
勢いよく扉を叩き割らんばかりに飛び込んできたのは、血相を変えたウィラードだった。
普段の冷静沈着な面影はどこにもない。
「どうしたんですか、ウィラード団長。そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたもない! 王都中で、次の国王は俺しかいないと噂が立っているんだ!ああ、どうしたら良いのだ! 」
落ち着かせて話を聞くと、近衛騎士には当然と言われ、釈放された剣聖クローソー、村からわざわざ出向いた元剣聖カイルまでが、「まあそうなるよ」と言われていた。
「一番頭が痛いのは、パパ・ヤーガ様が一番喜んでいることなのだ」
ミラードには子息がおらず、そうなれば王家由来から候補を上げるのが、定石だ。
パパ・ヤーガと現役剣聖には指名権があり、唯一の反対票は華奈だけで、慌ててきたらしい。
「あら、多数決で既に決まっているし」
「……断ることは……できないよね」
必死の形相で訴えるウィラードに対し、匠と華奈は示し合わせたかのように同時にジト目を向けた。
「「……そりゃそうでしょ」」
ハモった声とともに、二人はウィラードの肩をポンポンと優しく叩く。
王の器としても、民からの信頼としても、彼以上の適任などいるはずがないのだ。
ウィラードが頭を抱えて落胆していると、今度は別の足音が響く
バン!
そして再び扉が勢いよく開いた――。
「ちょっと二人とも!! わ、わ、私が女王候補って何なのよ!? 意味がわからないわ!!」
飛び込んできたメアリーは、開口一番、ウィラードと全く同じく、頭を抱えた様子で叫んだ――。
「あははー」
その混乱ぶりに、匠と華奈はついに耐えきれず、腹を抱えて笑い転げてしまう。
「二人とも、観念して諦めなさいって」
「無茶言わないでよ! ……あ、そうだ! それなら匠様が王で、華奈が女王になった方が絶対似合ってるわよ! 二人でこの国を納めなさいよ!」
投げやり気味に提案するメアリーに、匠と華奈は顔を見合わせ、晴れやかな苦笑いを浮かべて首を振った。
「貴族の責務でしょ、頑張りなさい――」
長き戦いは終わり、客間には、ようやく戦いのない笑い声が響いた。
新たな時代が静かに幕を開けようとしていた――。
コメント
1件
いやあ、第92話、めっちゃ良かったわ……! ルシファー戦のあとの、泥みたいに眠る二人から始まって、もうね、ほっとした空気がじんわり伝わってきた。匠が華奈の寝顔を待つシーン、甘すぎるでしょ(笑)。腹ペコで決まった朝のキスも、逆に人間くさくて愛おしい。 そしてウィラード団長とメアリーの「国王・女王候補」騒動!あの慌て方が普段のギャップあってめっちゃ笑った。ラストの笑い声で、本当に戦いが終わったんだなって思えたよ。お疲れ様でした、匠と華奈!