テラーノベル
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「最近の流行りは~……」「まあ、すごいですわね!」
花々が咲き誇る学園の庭園で開かれている、華やかなお茶会。
けれど、漂う上質な紅茶の香りも、色鮮やかな甘い菓子も、令嬢たちの絶え間ないおしゃべりも――今のリリーの心には何一つ響いてこなかった。
今日は、いつも一緒にいてくれるアンもミーシャもいない。
交わされる話題は、いつだって同じ。新作のドレスのブランド、舞踏会でのパートナー、誰それの社交界の噂話。
「リリー様は、どう思われますの?」
「……ええ、とても素敵だと思いますわ」
――正直、聞き飽きてしまっていた。
いつも通りの、毒にも薬にもならない会話。けれど、これが貴族の令嬢として求められる“正しい日常”なのだ。
けれど、今の私には――
(音楽が、したい……)
もしこの本音を口にすれば、嘲笑われるだろうか。
淑女としての完璧な礼儀作法を身につけることよりも、胸が震えるような“音”に触れていたいなんて。
そんなことを考えてしまう自分は、やはり貴族として失格なのかもしれない。そして頭から離れない婚約の申し込み。今すぐにでも逃げ出したいほど心ここに在らずだった。
「そういえばこの間、魔法の実技で…………あら、リリー様。大変失礼いたしましたわ。別の話題にいたしましょう――」
落ちこぼれのリリーに配慮したフリをして、わざとらしく話題を遮る令嬢。一瞬、アマネが言っていた『アッパー』をお見舞いしようかとも迷ったが、この令嬢を殴った所でなんの利点もないため、我慢することにした。
「ええ、その方がありがたいわ」
「えっ……」
リリーが淑女の微笑みを崩さずにあっけらかんと答えると、彼女たちは驚いたように目を丸くした。もっと惨めに恥じ入ったり、悔しがったりすると思っていたのか、拍子抜けした様子だ。
けれど、今のリリーは不思議と傷ついてなどいなかった。
私には、大好きな音楽がある。
心が心でいられる大切な場所が、ちゃんとあるのだから。
そう思える今の自分は、以前よりもほんの少しだけ強くなれた気がした。
「そういえば――」
一人の令嬢が、ポロッと新しい話題を投げかけた。
「最近、人間とエルフ、ウルフ族の三人で組んでいるという、妙な冒険者パーティの噂を聞きましたの。確かパーティー名は……リナリア」
「まあ、ずいぶんと珍しい組み合わせですわね」
「種族同士の争いは過去のものになったとはいえ、まだ根強い偏見は残っておりますものね。ここまで異なる種族同士でパーティを組むなんて……恐らく史上初ではありませんこと?」
「ええ。全員まだお若いそうで、私たちと歳もそれほど変わらないそうですわ。それなのに、とってもお強いんですって」
「私もその噂を聞きましたわ! そういえば今度のアリーシャ様のお誕生日パーティーに、その三人が招待されているとか」
「パーティーに? 一介の冒険者をですか?」
「ええ。先日、街の近くに現れたゴブリンの大群を、たった三人で討伐したそうですの。その功績を称えるために、と……」
――功績を称える、という名目。
けれど本当の狙いはきっと、その若く強力な異種族パーティを、早いうちに王家の影響下に繋ぎ止めておきたいのだろう。
王家はそういう政治的な“先手”を決して怠らない。
「そうなの……」
リリーは静かに、手元にあるティーカップの表面を見つめた。
水面に映り込んだ空は澄み渡っているのに、胸の奥がなぜか落ち着かない。
――なぜだろう。
ただの噂話に過ぎないはずなのに。
どうしてこんなにも、胸の奥がざわつくのだろう。
「……リリー様?」
隣の令嬢が、不思議そうにリリーの顔を覗き込んできた。
「……ううん、なんでもないわ」
リリーは完璧な微笑みを貼り付けた。
けれど、なぜかその“異種族の三人組”の存在が、頭から離れてくれなかった。
「そういえばリリー様。近々、ご婚約のお申し込みがあったと伺いましたが……」
もうそんな噂が広まっているなんて、社交界の情報網は恐ろしい。
「ええ。今度のアリーシャ様のお誕生パーティーで、初めてお顔合わせをする予定ですの」
「まあ! リリー様を選ばれるだなんて、きっとかなり奇特で……個性的な趣味をお持ちの方なんですのね」
令嬢たちが口元を扇子で隠しながら、くすくすと忍び笑いを漏らす。
「魔法も使えない落ちこぼれをもらう物好き」と言いたいのだろう。
家のため、公爵家の娘として仕方のない義務だと分かってはいながらも、リリーの心は激しい拒絶に悲鳴をあげていた。
──────────
一方、その頃。
放課後の“楽園”では、三人による静かな演奏の余韻が部屋に漂っていた。
ふと、アマネが演奏の手を止め、真剣な表情で口を開く。
「……そろそろ話したほうがいいんじゃない? 私たちがこの世界の人間じゃなくて……『異世界人』だってこと」
「それは……」
ギターを抱えた颯太が、曖昧な表情を浮かべてうつむく。
「……別に、言わなくてもいいんじゃないかな。特に今は」
「でも、なんか……何も言わないでいるのは、リリーに嘘をついてるみたいで嫌なんだよ」
アマネが、ぽつりと寂しげに呟く。
「天音ちゃん……」
「二人だって薄々感づいてるでしょ? リリーは多分……」
「うん。……そうだと思う」
「わ、私も……あの演奏と雰囲気を知ったら、そうとしか思えないよ」
「でも……」
颯太は静かに二人を見つめ返した。
「ギターやドラムを初めて見るような目だった。僕たちが話しかけても、“違和感”は覚えても“向こうの記憶”を持っているようには見えなかった。……なら、わざわざ打ち明けて混乱させる必要は、今はまだないよ」
「……わかった。リリーが自分で自分のことに気づいたら、その時に全部言おう」
アマネは息を吐き出すと、ぽつりと続けた。
「そういえば、あいつらから全然連絡ないね。……みんな、元気にしてるかな」
リコが、悲しげに窓の外の空を見上げた。
──────────
――半年前。
彼らはどこにでもいる、ごく普通の日本の高校生だった。
放課後の帰り道。
軽音部の仲間六人で、迫る文化祭に向けて最後のスタジオ練習を終えたばかりの夕暮れ時。
『文化祭、絶対に成功させようね!』
『私たちにできるかな……』
『大丈夫、最高のライブにしようぜ!』
伝説のバンド――【Re:note】に憧れて結成した、六人のバンド仲間。
けれどその日、運命は凄絶に歪んだ。
突如として足元に現れた眩い魔法陣と、歪む空間。
意識を失い、次に目を覚ました時、そこは見知らぬ異世界の王宮だった。
『ここは……?』
そこで待っていたのは、アバンティ王国の“聖女”を名乗る人物だった。
『異世界の勇者たちよ、ようこそ。この世界を救うために、あなた方を召喚いたしました』
聖女の説明によれば、急増する魔物による被害を食い止めるため、伝承にある「異界の勇者」を喚び出したのだという。そして何より絶望的だったのは――この召喚は一方通行であり、元の世界に戻る手段は存在しないという事実だった。
当然、一同は混乱し、泣き崩れた。
『そんなの嘘でしょ!? 文化祭も近かったのに……!』
だが、聖女は冷酷だった。
彼女は測定水晶で六人の「魔力量」と「ステータス」を測り、勇者としての役割を選別したのだ。
広野、日比野、岩田――の三人。
彼らは高い魔力を秘めており、「勇者」として王家に手厚く保護された。
そして、残された天音、莉子、颯太の三人に対し、聖女は冷たく言い放ったのだ。
『あなた方は……魔力量も戦闘能力も著しく低い。勇者の役に就くには不適格です』
『そ、そんなっ! 私たち、元の世界に帰ることもできないのに……みんなと一緒にいられないんですか!?』
『ええ。能力のない者が勇者一行の足引っ張りになるわけにはまいりません。……ですが、無下に追い出すのも忍びないでしょう。代わりに、隣国サムジール王国の魔法学園へ“留学生”として受け入れてもらえるよう手配してあげます。あそこなら、落ちこぼれでも生きていくための教育くらいは受けられるでしょう。王家の慈悲に感謝しなさい』
そうして彼らは身勝手な都合で選別され、大切な仲間と引き裂かれたのだった。
『……本当に行くのか?』
出立の日、勇者として残されることになった広野たちが、申し訳なさそうに見送りに来てくれた。
『うん……ここに居ても居場所はなさそうだからね。流れに身を任せてみるよ』
『そうか……すまない。……また絶対に会おうな!』
『うん。絶対にまた会おう!』
こうしてサムジール王国へ送られた三人は、幸いにも学園側から同情され、一定の自由を与えられた。
実家が楽器屋だった颯太の知識と、学園の設備を借りて手作りで楽器を組み上げ、演奏するための場所も与えられた。
それが――今の“楽園”。
三人の故郷への想いと絆が詰まった場所この場所で、また好きな音楽をすることができている。それが何よりも嬉しかった。
「……みんな、元気にしてるかな」
リコがそっと夕暮れの空を見上げる。
「大丈夫。きっと、また会えるよ」
アマネが力強く、優しく微笑んだ。
「うん。だから……今は、自分たちにできることをやろう。リリーと一緒にね」
#魔法
しろのね
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U
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ちょん
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コメント
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しろのねさん、第10話読ませていただきました! お茶会のシーン、リリーが「音楽がしたい」と心の中で叫んでいて、でも周りは噂話と社交辞令ばかり…その温度差に胸がぎゅっとなりました。「大好きな音楽がある」って思えるあの強さ、すごく素敵です。そして後半、三人の過去が明かされて、リリーとどう繋がっていくんだろうってワクワクしました!今後の展開が楽しみです🌷