テラーノベル
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交差点の信号で立ち止まったとき、春の風がふっと吹き抜けた。
咲の髪が前に流れ、視界を覆う。
「あ……」
慌てて直そうとした瞬間、悠真が横から軽く手を伸ばした。
「風、強いな」
耳にかかっていた髪をそっと払ってくれる。
ほんの一瞬の仕草。
それだけなのに、咲の呼吸は止まってしまった。
「……ありがとうございます」
消え入りそうな声で言うと、悠真は気づかないふりをして信号を指さした。
「青だ。行くぞ、妹ちゃん」
何でもない顔で先を歩く背中に、咲はただ必死に心臓を落ち着けようとするしかなかった。
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