テラーノベル
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窓の外には鮮やかな陽光が差し込んでいる。予定よりも豪勢な朝食を前に、元が含みのある笑いを浮かべてまた聞いてる。
「露天風呂、気持ちよかった?」
昨日も聞いたそのフレーズ。確信した。こいつ、見た目に反して絶対下ネタ好きや。俺と同じ人種確定やな。
「うん、最高やったな?くうちゃん」
「……うん」
空は、はんちゃんには笑顔で返しつつも、俺と元の顔を交互に見ては、なんとも言えない難しい顔をしている。……さては、俺らの間に何かあったと勘ぐってるな?
空に急かされたとはいえ、出会った当日に手を出すわけないやろ。俺はそんな猿並みの男やない。それは空が一番よく知っているはずやのに。
「それより布団もふかふかで気持ちよかったわぁ。下も畳やから、ベッドみたいに落ちる心配もなくて安心感あったし」
「え、元。大人やのに落ちることあんの? どんな寝相してんねん!」
「えっ、身体大きく動かしたら落ちることない!? すっごい夢見た時とか!」
布団談義で盛り上がる二人をよそに、空はさっきと同じ不穏な顔で俺らを見つめ、「あー、それでか……」と小さく呟いた。
「……何が!?」
たまらず大きな声で聞き返す。一応、隣の元も確認してみたが、我関せずといった風で「はんちゃん、お魚も美味しいで。気にせんと食べ?」とニコニコしている。え、元は空がこうなっている原因、わかってるん?
「もとちゃん、気にしたら負け。食べよ?」
「え、二人、また何かあったん?」
食い下がってみたが、元は笑うだけで答えてくれへん。なんなん。俺の知らんところで何が起こってるんや。
その後、徐々に空の妙な様子にも慣れ、俺たちは名残惜しさを感じつつも旅館を後にした。
昨日同様、俺たちのお手振りに中居さんたちが数人崩れ落ちる様子を、空が悪い顔をして動画に収めていた。旅の終わりを飾るには、あまりにシュールでいい思い出や。
「明日も仕事やし、新幹線でお弁当でも食べて解散でええか?」
「そやな。結構満喫したし」
うーんと大きく伸びをしたはんちゃんを、空が後ろから愛おしそうに抱きしめている。
……ああ、この2人は結局、この後もずっと一緒にいられるんやな。ええな。素直に羨ましいわ。
「……もとちゃん。はんちゃん、帰りの新幹線は空さんと自由席に座るって」
「え?」
やった! 朝の変な空気には参ったけど、空、やるやん! ほんま、空もはんちゃんも相変わらず大好きやわ。
「……嬉しい?」
「ふふっ、嬉しい」
格好悪くないように極力笑顔を抑えたつもりやけど、上手く隠せていたやろうか。
新幹線の車内、俺と元は相変わらず友達のままで、他愛のない趣味や仕事の話をして時間を過ごした。窓の外を流れる景色を眺めながら、選んだ駅弁がたまたま同じ種類だった……そんな些細なことさえ、今の俺には泣けそうなくらい幸せに感じてしまう。
「じゃ、またカフェで」
「そやな、カフェで」
いつ切り出そうかとずっとスマホを握りしめていたら、元が気づいてくれて、無事にLINEも交換できた。あかんな。少しのことで怖気付いて、結局最後まで元からのアクションを待ってばかりやった。
元だけが他の電車に乗り継ぐ帰り道。改札の手前で「送っていこうか?」と提案したが、元はふんわりと笑って首を振った。
「俺、女の子じゃないで?」
その笑顔のまま放たれた言葉を聞くたび、優しく突き放されているようで心臓がギュッとなる。
人混みの中で、元が小さく手を振る。
俺の視界には、その背中しか映っていなかった。
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