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⚠本作は絶望系ファンタジーに耐性がある方向けに執筆されています。読後の精神的ショックについて、作者は一切の責任を負いかねます。
魔女。それは、己が一生を使い果たし、他者の幸福を運び続けるだけの**「生贄」**に他ならない。
ひとたびその契約に魂を染めれば、待っているのは千年という、あまりにも永すぎ、あまりにも残酷な長寿だ。その永劫に近い時間の中で、愛する者や家族と同じ歩幅で歩むことなど、決して許されはしない。
もし、この絶望から逃れようと自ら命を絶とうとしても、若き日の魔力はそれを拒絶する。溢れ出す魔力生成能力が、無慈悲にも肉体を繋ぎ止め、幾度でもこの地獄へと引き戻すのだ。
そして、どれほど憎く、どれほど浅ましい相手であろうと、魔女はその手を差し伸べ、救わねばならない。皮肉なことに、人々から感謝を向けられればされるほど、魔女の命は強固に延び、愛する者たちが待つ「死」という安らぎから遠ざけられていく。
もしも、この不条理に抗い、人を亡き者にしようと殺意を向けたなら――。
その瞬間、魔女の理は崩壊し、その身は跡形もなく粉砕するだろう。
そこにあるのは、救いも、慈悲も、意志すらも介在しない。
ただ淡々と執行される、あまりに無機質で、残酷な結末だけである。
私は、炎の魔女カレン。
これは、私がまだ「人間」だった頃のお話。
風車がゆっくり回る大田舎で、私は生まれ育った。田んぼを耕し、近所のエルダーおばあちゃんが持ってきてくれる野菜を食べて。そんな、平和でのどかな日々がずっと続くと思っていた。
けれど、死は突然やってきた。
エルダーおばあちゃんが流行病で倒れ、私はその手を握ることしかできずに看取った。
葬式の日、現実を受け入れられずにいた私に、追い打ちをかけるような叫び声が聞こえた。
「大変だ! ブロアじいさんが倒れたぞ!」
まただ。また、私の大切な人がいなくなる。
「なんで、なんでこんなにも……!」
私は絶望し、嵐の夜に山へ駆け込んだ。土砂降りの中、村人の制止を振り切り、一寸の光も見えない闇の中を走った。魔女になれば、人を救えると思ったから。
「お願い、私を魔女にして! 理屈なんてどうでもいい、人を救いたいの!」
「その祈り、引き受けた。その身を持って、人に幸せを運びなさい」
私は魔女になった。けれど、例え魔女であっても、寿命という運命までは救えなかった。
大好きだった家族も友人も、みんな私の前からいなくなった。
孤独と寂しさ。人を救いたくても救えない無力感。
真っ暗な闇の中にいた私に声をかけてくれたのが、シオンだった。
私たちは共に笑い、私はいつしか彼に惹かれていった。
けれど、そんな時に水の魔女セレンが街に来た。
笑い合う二人を見て、私は悟った。シオンが愛しているのは、私じゃない。
「シオンが幸せなら、それでいい」
胸に刺さった小さな棘を無視して、私は町を発展させることに没頭した。
けれど、再び流行病が街を襲った。セレンが街を離れていた、あの最悪の日。
街の人々は「シオンが病を運んできた」と手のひらを返し、彼を火あぶりにしようとした。
私が目を覚ますと、体中に重い鉄の鎖が巻き付けられていた。
村人たちは、私とシオンを閉じ込めたまま、家に火を放った。
「……ごほっ、ごほっ」
炎の中、シオンが咳き込みながら私に言った。
「シオン! 待って、今すぐ鎖を……!」
「いいんだ。俺はもう、不治の病だ。それよりカレン、頼みがある。……セレンを守ってくれ。彼女が絶望した時、前が見えなくなるのを防いでやってくれ」
それが、彼の最期の言葉だった。
「……バカだよ、あんた」
火の魔女になるって決めた私が、火に焼かれて死ぬなんて皮肉だよね。
光の粒となって数百年。魔力が溜まり、ようやく形を取り戻した私の目に映ったのは、一人で泣いているセレンの背中だった。
正直、シオンが私よりセレンを選んだのは、ずっと気に食わなかった。
でも、シオンとの約束だから。
……何より、笑っているお前の顔が、大好きになっちゃったから。
だから、お前が笑うまで私は絶対に消えないって決めたんだ。
嫉妬も、過去も、全部「親友」っていう笑顔の下に隠してさ。
私の体がいよいよ消え始めた時。
セレンへの憤りなんて、もう微塵も残ってなかった。
あるのは、純粋な「大好き」っていう気持ちだけ。
「私はずっとお前の近くにいる。毎日の日々が楽しかった。ありがとうセレン!」