テラーノベル
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____一年程前、僕達は秘宝とも呼ばれる“世界の過去を写す魔導書”を探す為に『−64層』に向かったんだ。僕が行ったことあるかもしれない記憶を頼りにね。ディープダークでウォーデンに襲われて死にかけたんだけど間一髪で助かって更に下に向かったんだ。
「そこで“君”に出会ったのさ。その時君は僕に『久しぶり』と言ったね」
「『久しぶり』……?」
すまない先生は話を続けた。
____どうやら昔会ったことがあるらしい。何千年も前。僕がまだ記憶があった頃“自分の記憶をズタズタにするために”そこへ向かったんだと。
「そこで“君”は僕に教えてくれた。本を破いたのが僕自身である事も。もう二度と元に戻ることは無い事も」
「……分から……ない……覚えてない……僕は貴方に、会ったことが……あったんだね……?」
すまない先生は深く頷く。
「ああ。最低でも二回は。その内の一回はたった一年前のあの日……永遠に忘れない日だ……僕の記憶は元に戻らないと知った日……」
「……ごめん……僕が絶望させたんだね……」
風夜の沈んだ声にすまない先生はあっけらかんと答える。
「別に絶望はしてないよ?」
「え……?どうして?」
風夜は困惑の声を上げる。すまない先生は
「確かに記憶がないのはちょっと寂しいけど、今はみんなとの生活が幸せだからね。戻らないって聞いた時は……ちょっと寂しい気持ちはしたけど絶望するほどでも無かったよ」
風夜はしばらくポカンとしていたが、やがて小さく吹き出すと
「強いね、すまない先生は」
と呟いた。風夜はフルフルと首を振る。
「僕は……まだ戻る可能性があるのに、一時的に失った事に絶望しているんだ」
「君は……なんで失ったか、分かるのかい?」
「ううん、全く。でも君の言う通り僕が『−64層』に居たなら、上がってくる途中にウォーデンにでもぶん殴られたんじゃない?」
そこはサラッと言ってのける風夜にブラックは呆れてしまった。
(“本当に普通の人間なら”ウォーデンに殴られてこんなにピンピンしてるわけがないでしょう……)
風夜は傷一つ負っていないし服も破れていない。不老不死のすまない先生でも傷はすぐに治れども服は破れたままだった。傷を負ったとしても服までもが瞬時に再生するとは一体どういう事なのか。
(……やはり“人間ではなさそう”ですね……)
ブラックは風夜の手を掴む。
「少し、調べさせて頂けますか?」
その言葉に風夜は
「へ?」
と間抜けな声を出し、すまない先生は
「ブラック!?ストップストップ!君の“調べる”は洒落にならないから!」
と大慌てで止めた。
結局話し合った結果、すまない先生監視のもとで常識的な範囲で調べるに留める事で合意した。ちょっと残念そうだったが。
(……やはり、ね……)
身体的な組織は全て人間と酷似している。しかし人間とは絶対的に違う。傷の回復速度。五感の敏感さ。
(……すまない先生のように、何か外的要因があってそうなったのか……それとも“元々”なのか……)
ブラックはその結果を記憶して削除した。
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