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「えっ、ああっ、ううん、謝らないで。龍聖君、何も悪くないんだから」
どうしたのだろうか、こんな龍聖君は珍しい。
私に彼氏がいるかどうかを気にするなんて……
「じゃあ、とにかく話を進めよう。今は仕事も忙しいし、結婚式はしない。籍だけ入れて、俺は琴音の両親にすぐにお金を無利子で融資する。それは身内として当たり前のことだし、遠慮することじゃない。もちろん返済はいつでもいい。お前のお父さんの製品なら、間違いなく資金さえあれば工場は再建できる。俺の父さんも、琴音の親への融資なら快くOKしてくれるから」
確かに、龍聖君の会社からすれば融資額は微々たるものなのかも知れないけれど……
だからといって本当に甘えてもいいのだろうか?
「すごく有難い申し出で、それで工場がやり直せるのなら、こんな嬉しいことはないよ。だけど、やっぱり無茶だよ。結婚を偽装するなんて……。籍は入れたとしても、一緒に住まないとバレるだろうし、それに……嘘の結婚にしても龍聖君と私じゃ身分が違い過ぎる」
「身分なんて一切関係ない。そんなこと絶対に気にするな。それに……」
「……それに?」
しばらくの沈黙の後、「俺のマンションにくればいい」と、龍聖君はポツリと言った。
「い、一緒に住むの? だ、だって……」
「何がだってだ? 俺と一緒は嫌?」
「嫌なわけがない!」心の中ではそう即答した。
「……私、よくわからなくて、どうすればいいのか」
「今はお互いの両親のことだけを考えよう。とにかく、1年間は夫婦として過ごす。それでいいよな?」
龍聖君は、今日は何だかすごく強引だ。
偽物の夫婦、契約結婚……
1年間、私達は本当に夫婦のフリをして過ごすの?
ねえ、龍聖君。
あなたに気持ちはなくても私には……
それに、まだしつこく忘れてないんだよ。
2人きりで過ごしたあの夜のことを――
そんな状態でひとつ屋根の下で暮らすなんて、私の感情はどうなってしまうのだろう。
何事もなく平然としていられる自信がない。
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