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私はグニーヴ城を出た。レトニーの町への食料ほか物資の買い出しだ。

同行するのは、青狼騎士団二番戦闘隊の隊長というクリストフ。騎士団でも幹部級なんだけど、わざわざ同行してもらえるとは……。いいのかな?


「城の守りも必要だが、昨日は皆疲れただろうからな、ゆっくり休ませてやりたいのだ」

「クリストフ隊長は、いいのですか? お休みになられなくて」

「おう、俺は平気だ。……というよりだな」


クリストフは声を落とした。


「お前が城を出て、調達に行くと言うではないか。俺は他の者が作るあの不味いメシなどもう食う気はない。だからお前に同行するのだ」

「あー、そうですか……」


アハハ……。苦笑いするしかないわ。本来は食べるのが好きな人なのだろう。だからこそ、普段の不味い食事で耐え忍んでいたところを、彼のいう美味を知ってしまった。もう戻れない、というやつだろう。


でも憎めないよね、この人は。

それはまだいい。問題はもうひとり……レグと名乗っているけど、どう見てもレクレス王子にしか見えない騎士。

城から離れて見えなくなった途端、レグはフードを取った。……やっぱりレクレス王子じゃないですかー!


「言いたいことはわかるぞ」


レグ――レクレス王子は言った。


「何故、オレが調達組についていくか、だろう?」

「はい。……聞いてもよろしいですか?」

「お前は来たばかりだから知らないかもしれんが、オレは女が苦手だ」


嫌い、ではないのか? 王都ではもっぱら、女嫌いの悪評が轟いていたが。


「女が近づくと、体が拒否反応を示す体質なのだ」

「しかも重度でな」


クリストフが補足するように言った。


「寒気や嘔吐感が酷いのだ」

「……」


レクレス王子は、遠くを見ながら口元を引き結んでいる。何かを堪えているようにも見える。


「なので、殿下の前で、あまり『女』とか単語を出すのを控えてくれ。それだけでも、具合が悪くなるらしい」

「それくらいなら、多少胸の奥がムカつく程度だ」

「それは……」


大変ですね……。女嫌いというか、体質によるものだったとは……。

私、いや王都にいる人たち全員が、レクレス王子のことを誤解していたんだわ。とても気の毒に思えてくる。これは、王子の望む望まないに関係ないところでの発作。彼は何も悪くないではないか。

でも、幼い時からそうだったとは聞いていない。


「その体質は、いつから……?」

「オレが10歳の頃からかな」


レクレス王子は歩きながら言った。


「ある日突然だ。美しかった娘の元へ向かった時に――」


言いかけ、急に押し黙るレクレス王子。クリストフが言った。


「団長、それ以上は思い出されないほうが」

「ああ……すまん」


寒いのか袖を手でこするレクレス王子。美しかった娘というのが誰のことかは知らないが、それを思い出しただけで寒気とは、本当に重症だ。思い出の中すら拒絶反応が出てしまうなんて。


「そんなわけで、殿下は以来、近くに女性がいるのが駄目になってしまったのだ……。周りでは女嫌いと言われているが、そうしたほうが、周りの女性を傷つけずに済ませようという配慮だ」

「そうだったんですか……」


確かに、女嫌いだと知っていれば、無下に扱われたとしても相手の――王子のせいにできる。自分がつらいのに、悪役を引き受けるようなことをして……。私、つらいよ。何とかできないのかしら。


「治す方法はないんですか?」

「わからん。一応、治療術士や医者にも診てもらったのだがな、原因もわからなければ、治癒の魔法でもどうにもならなかった」

「……」

「なんでお前がそんな顔をする?」

「だって……」


あまりにレクレス王子が不憫過ぎて。私、一応、婚約者なんだし、何とかしたいって思うのはおかしくないじゃない?


「それで、話を戻すとだ」


レクレス王子は渋い顔で言った。


「ここは押しつけられたとはいえ、オレの領地であるわけだ。たまには町の様子も見ておきたい」

「お忍びで視察ということですか?」

「そういうことだ」

「でも、それ……大丈夫なんですか?」


町に行けば普通に女の人いますよね? 女性を見るだけで発作が出てしまう人が、人の集落に行けばどうなるか想像がつかないはずがない。


「だから、隠れていくのだろうが」


堂々と王子様として視察に来て、発作で倒れるとか領主として頼りない姿を見せるわけにはいかない――それを聞いて、私は理解した。やっぱりこの人も王族なんだなって。

民の前で弱い姿は見せられない。不安がられないように、人前では堂々としていなければいけない。


「それに、いつまでも体質だと甘えているわけにはいかんのだ」


レクレス王子は、戦場にでも行くような顔になる。


「少しでも克服できるように、しないと……いけない」

「ああ、我慢しないで! 女のことは忘れてください!」


私は思わず声に出していた。これでも乗り越えようと努力している人なのだ。だから苦しくなる。助けたい。彼の力になってあげたい。


「婚約者……」


ボソリと、レクレス王子は言った。


「彼女を……待たせるわけにもいかない」


それって、私のこと? レクレス王子の婚約者といえば、私だ。アディン王子が、そう決めた。レクレス王子にも知らせた、と言っていたから、私アンジェラ・エルトレーモのこと以外にはないだろう。

体質を何とかしようというのは、もしかして私のため……?

この時、私は完全に、この人のことを好きになった。というか、落ちた。

婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。男装令嬢と呪われ王子

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