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前回での出来事により、谷崎ハルナと中川ホタルは「柴田サラの盗撮アルバムを作ろう!」という、謎の目標を作った。以上、前回のあらすじ終わり。
とは言っても。
「盗撮とかって、どうやってするんだよ……」
中川ホタルはそうぼやく。私は自分の家で、晩御飯を食べ風呂に入り、自室でスマホをいじっていた。ベッドの上でゴロンと転がり、仰向けになって天井を見つめる。
正直、断ってもいい。柴田サラがクラスで滅されるのは、あまり興味は無い。私が興味のあるものは、「陰キャとクラスの姫の、同棲生活」というラブコメにありそうなシチュエーションだ。2人自体には、何ら興味はない。
だが、そこに自分が加わるのは、それはそれで面白い。さて、どうしようか……?
私は時計の短い針が10を指したので、寝ようと部屋の電気を消したがずっと考え込んでいて、結局寝たのは3時過ぎだった。
***
「で、返事は?」
目をキラキラと輝かせながら、犬耳としっぽをブンブン振っているのは、谷崎ハルナ。犬耳としっぽは、寝不足による幻覚だろうけど。
私は仏頂面を少し和ませて、微笑んで言った。
「まぁ、やらせてもらうよ……でも、条件がある」
そう、条件だ。やはり、考えていて思ったのだが、こちらがクラス内で死ぬかもしれない危険性があるのに、私にはなんの報酬もなし、というのはダメだ。フェアでなければ、頼み事はダメなのだよ。
「……いいよ、聞かせて」
何となく、私が言いたいことを察したのか、谷崎ハルナは了承した。
よし。
「私はあなたのやりたいことには、もちろん協力する。そして、それの危険性に応じて、あなたは私に対価を支払う」
取引内容はずばりこうだ。盗撮と言っても、確実にグレーゾーンのものは出てくる。トイレに仕込んだり、家に不法侵入したり、というようなものが。そこで、そういうグレーゾーンなどでの「危険性」がどれだけあるかで、対価のレベルを上げてもらうのだ。ハイリスクはハイリターンで、ローリスクはローリターン。
校舎裏の地面に、そこら辺に落ちていた木の棒で図を描きながら、懇切丁寧教える。その間、谷崎ハルナと私は向かい合わせで座っていた。谷崎ハルナは分かってくれたようで、話が終わると立ち上がった。
「分かった。その話、受ける」
と、左手の親指を立てて、ニヤッと微笑む谷崎ハルナ。私も微笑んで、右手の親指を立てて。立ったままの谷崎ハルナと、座ったままの中川ホタルの、グータッチならぬグッドタッチが行われた。
「ところで、対価って何?お金?」
私が棒をポイと茂みに放り投げ立ち上がると、谷崎ハルナはそう聞いてくる。
「え、えっと〜……先に聞いておくよ?大丈夫?聞いて驚かない?引いたりしない?」
モジモジと指先を動かし、顔は少し赤らんでいる私。谷崎ハルナはそれに、二カッと笑って
「大丈夫!だって、私も盗撮しようって言ってるし」
と励ましてくれた。取引相手が言う言葉として、かなりおかしいと思うが、そこは甘えることにした。
「実は……その……、言うよ!言うからね!」
私は言い出そうとして、もう一度確認する。谷崎ハルナはコクコクと頷き、先を促した。私は、なんとか喉から言葉を絞り出す。
「……、2人が……つまり、あなたと柴田サラが、イチャイチャしてる時の音が欲しい……」
深呼吸しても、やっぱり緊張で小さい声で。
谷崎ハルナはそれよりもっと小さい声で、喉から悲鳴が出ていた。
***
かなりヤバい。大分ヤバい。恐ろしくヤバい。
私の中の三大ヤバいが炸裂したのは、中川ホタルに対してだった。中川ホタルの見た目だとかではなく、中身だ。性癖だ。
彼女曰く。誰かと誰かがイチャついているのを、自分は第三者としてそれを眺めていたり、聞いていたりするシチュエーションが、1番良いらしい。しかも、やってる事がHな方が良いらしい。
オカズにしよう、ということか。
うん、正直に言おう。ドン引きした。引かないで、と言われて快く了承したが、まさかここまでだとは思っていなかった。
だが、あんなに自信満々に励ましていたのだから、ここでドン引きしたことがバレたら、確実に嘘つき呼ばわりされる。そうすると、盗撮に協力してもらえなくなるから、隠し通さねば。
私はお互いに固まっていたところを、咳払いして元に戻す。
「コホン。まぁ、中川さんの性へ……欲しいものは分かった。うん、分かった」
「本当に……?」
ガン飛ばさないで。お願いだから、超怖いから。やめて。
「うん、もちろん」
なんとか作り笑いで誤魔化す。
「…………ふぅ」
長ーく間を開けて、諦めたように息を吐く中川さん。私はガチガチになって棒立ちだ。
1歩踏み出して、中川さんが私に耳打ちする。
「ありがと、また連絡する」
そして、私の左手に小さな紙を掴ませると、肩で風を切りながら鞄を担いで帰っていった。
***
悩んでいる。すごく悩んでいる。
机に突っ伏し、頭には上着をかけて、授業中に昼寝をしている。訳では無い!
なんとか逃れようとしているのだ。あの、「デカい人間」に。走って逃げれるわけはなく、話そうとも思えず、無視か寝てるフリをするしかない。
という訳で、社会の授業中に頭に上着をかけて昼寝しているフリをしている。実際に寝ている訳ではない。まぁ、社会のアイツは寝ていると思っているようだが。
チラリと、上着を少しだけめくって「デカい人間」を見る。
まぁ、分かっているだろうが、中川ホタルである。サラの中では「デカい人間」に分類される、今はサラをじっと見ている。
目が合った。
「っ……」
そそくさと、上着を元に戻す。
どうしてだ?ほんの数センチしかめくってないし、先生のいない窓の方から覗いていたのに……。
この時間は視線を感じ続け、次の時間からはもう隠れるのもやめて、ノートに落書きを始めた。
昼休み。満腹な生徒は席でくつろぎ、動ける者は校庭へ、駄べりたい者は教室のドア前へ集合。
僕はその中でも満腹な生徒に分類されるので、文庫本を読んでいた。左手でページをめくり、右手は頬杖をついている。
ハルナは席におらず、教室にもいない。最近、昼休みになるとすぐ何処かに行ってしまうので、近衛兵団(谷崎ファンクラブの名前)も見つけられていないらしい。
後ろのあいつも、いつの間にか何処かに行ってしまったので、視線を感じることは無い。
少し寂しくも感じるが、まぁ、僕は静かに読書ができるので、別にいい。
僕は文庫本の一行一行を丁寧に読んでいく。
***
『そっちはどう?』
ピーガガガ、という音が鳴ってから私の左手で女の子の声がする。握られているのは、トランシーバー。イラストで出てくるような、アンテナのついた長方形の通信機だ。
『ポジションについた』
私はボタンを押して「送信モード」にしながら、会話する程度の声で言った。
今いるのは、校門近くにある巨木(別名、見守りさん)の中。校舎が4階建てで、見守りさんは3階と同じくらいの高さだ。中、と言っても。木に登って、直径10センチはあるであろう枝の上に乗っているだけだが。
『いつでもいける?』
「受信モード」にして聞こえてくるのは、女の子、もとい谷崎ハルナの声。モードを切りかえて、うん、とだけ返事すると、私は構えた。
今持っているのは、単眼カメラ。スコープが長く、まるでスナイパーライフルのよう。構え方も、片足をのばし、もう片足は曲げてその上にスコープを置く。
ちなみに、このカメラは谷崎ハルナの私物で、かな〜り高いらしい。買った理由は……、聞かない方がいい。
これじゃ、盗撮っていうより狙撃だよな……。
狙っている私自身、そう考えてしまった。
***
よし、上手く撮れてるな。
放課後、校舎裏で撮った写真を確認する。
昼休み、昼寝中の寝顔。授業中、窓の外を見ている顔。多目的トイレの中、×××している時の身体。
カメラも単眼だけでなく、スマホやサイコロほどのサイズのカメラなどなど、多種多様なカメラがあった。使い分けるのはかなり難しかった。
「おっ、いたいた〜!」
写真を確認していると、谷崎ハルナがやってきた。待ち合わせ時間ピッタリ。四方八方を見るが、近衛兵団の姿はなし。
「撒くの、上手くなってない?」
タッタッタッと、スタッカートの効いた足音を立てながら走ってくる谷崎ハルナに言う。
「うん、10分かかってたのが、僅か1分になったよ。慣れってのは、恐ろしいね」
思ってたより凄かった。
「で、谷崎さんはどう?」
私が問いかけると、谷崎ハルナは、ムフフっと笑うと。
「ほれ」
スマホのフォルダいっぱいの写真を見せてきた。しかも、1枚1枚にとてつもない熱意が込められていて、コンテストに出せば優勝しそうだ。柴田サラってあまり目立たない人だと思ってたけど、こんなに可愛く見えるっけ?
「可愛く見える、でしょう?」
「う、うん」
心を読んだかのように話しかけてくる谷崎ハルナ。
初日はこんなものか。
私はスマホとカメラを、同じく谷崎ハルナに渡された大きめのスポーツバッグに入れ、ジッパーを閉める。
「じゃ、報酬は頼んだよ」
私は地面に落書きを始めた谷崎ハルナにそう言う。
「はーい、任せな!」
グッと親指を立てる谷崎ハルナ。
私は何故か面白くて、
グッと同じように親指を立てて、帰路に着いた。