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「……実は、その話は社長の思い違いなんだ」


「思い違い……?」


「ああ、親戚に年頃の女の子がいて、お見合いでもしたらどうだろうかと踏んだ社長が、僕を紹介しようとしていたらしいんだが、いざ話を進めようとしたら、その子には以前から好きな人がいるのがわかって。つまり社長の一人よがりのような感じだったんだ」


「……そう、だったんですか……?」


さっきまで泣きそうに落ち込んでいた分、にわかには信じられないでいた。


「うん、どうも向こうと話を通す前に、社内で話が広まってしまったらしくてな。僕もなかなか当の社長本人と話せる機会がなくて、上手く折り合いが付けられないまま噂だけが独り歩きをしていて。だから、もともとお見合いなんてなかったのと同じだから」


「そうなんですか……」


お見合いの真相はわかったけれど、頭の中は変わらずにもやもやとしたままで、ずっと連絡がなかったことも相まって、やっぱりもうこのお付き合いはなかったことにした方がいいんじゃないのかなと、帰るに帰れなくなって頼んだハイボールを淡々と口にしながら、そうぼんやりと思っていた……。

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