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久々に文章書いたためあまり気に入ってないので相変わらず消す可能性大です🥹
お久しぶりです。なかきりなか(きりなかきり)です。スがちょこっと出る。Cp要素はほぼない。明るくもない。諸々注意。
朝、目を覚ます。薄っすらと開かれた蜂蜜色の瞳には灰色のカーテンが映る。外の白と薄暗い部屋のコントラストが眩しい。きりやんは眠気と寒さで丸まった身体を無理やり起し、優しくカーテンを開けた。
「雪……」
寝ぼけた頭でベランダの先に広がる真っ白な絨毯を見つめる。外に出るのが億劫になったところでふと、コーヒーが飲みたくなり裸足でキッチンへ向かう。ちらりと隣の部屋で眠る同居人──スマイルの様子を見るがまだ寝ているらしい。そんなことより足先が冷たい、はやくお湯を沸かそう。顔も洗って。お腹も空いている。
きりやんはいつも通りの朝を迎えた。
…
口内に広がる苦味と少しの酸味が心地良い。テレビをつけると毎朝見る顔が真剣な顔をして用意された文章を淡々と読み上げる。もう何年同じ顔を見ているだろうか、そんな疑問は玄関からの無機質な音に掻き消されてしまった。こんな朝に誰だよ。宗教勧誘か、それとも集金に来た人か。とにかくその憎たらしい顔を一目拝んでやろうとコーヒーを一口含んでから玄関へ向かった。せっかく一人を楽しんでいたのに。寒い廊下を少し早歩きで進んでいる最中、チャイムが連打されさらに苛立ちが募る。それをそのままドアノブにぶつけてドアを開けた。
「──いっ゛……!」
「……え」
鈍い音がきりやんの耳を掠めていった、ことよりも大事なことが目の前で起きている。……何してんの、こんなとこで。
「……てぇえ〜」
「は、え、なに、なかむ、……なかむじゃん」
自身の額を抑えうずくまるなかむを他所にきりやんは目を見開いて栗色の髪をを見下ろす。しばらくすりすりと額を撫でたあと、目を白黒させるきりやんの顔をパッと覗き込んだ。とても嬉しそうに。だがきりやんにはそれが分からなかった。
「……なんでここに」
嬉しさよりも疑問が勝ったきりやんの質問に、なかむは可愛らしく笑って膝の雪を払い落としながら口を開いた。今更ながらマフラーに水色のウインドブレーカーと、暖かそうな格好をしている。
「え、だって雪降ってんじゃん。そりゃ来るでしょ」
「はあ……?」
「ほら来てよ、ほら!」
「ちょ、なかむッ……!」
きりやんの腕を引くなかむの手は見た目の割に雪のように冷たい。未だ状況が掴めないきりやんになかむは「いいからいいから!」と背中を押す。
…
「俺だけスウェットなのおかしいだろ……手袋ないしサンダルだし…………」
なかむと少し距離を取ったきりやんはしゃがんでぶつぶつと足元の雪を手で掬って丸くする。おもむろに立ち上がってなかむのほうに目を向けると突然、目の前が真っ白に染まった。避けるにはもう遅い。
「わっ、ぶ……! ──ッおい、なかむ!」
「ふっ、あははっ! だってきりやんがよそ見してるから!」
「あぁーもー! 寒いんですけど!?」
やけになって作った雪玉をなかむの方へ投げる。よく狙わなかったせいか、きりやんが投げた玉はなかむに届くより先に地面に落ちた。それでも、なかむは楽しそうに笑っている。
きりやんはなかむに雪が当たらなかったのが悔しく、すぐに次の雪玉を準備する。前方を警戒しながら、雪を掬っていくとコンクリートが顔を覗かせた。どうやら、雪の下は凍っているらしい。滑らないようにしないと、思考はすぐに頭の端へ追いやり雪玉を握る。だが、顔を上げるとなかむは少し俯いて突っ立っているだけだった。
「なかむ? なにして」
「──きりやん! きて! 氷の結晶!」
「はあ? もぉー……どれだよ」
きらきらと子供のように目を輝かせきりやんの名前を呼ぶなかむ。きりやんが側に駆け寄るのを確認しながら袖に付いた小さな粒を見せる。それをじっと睨みつけるきりやんの返事をうずうずと待ち望んでいると想像通りの答えが返ってきた。
「ん? あ、あー……これ? これか、たしかに」
氷の結晶だね? と顔を上げるとなかむは満足したように笑う。そのまま数歩後ろに下がり、手に隠し持っていたらしい雪の塊をきりやんに投げつける。
「あっ、ねぇ! 反則だってそれ!」
「んふふ、…………ねえ、きりやん?」
「ん?なに」
「……んーん、やっぱなんでもない。それよりさ! ほら続きしようよ!」
「はあ? なんだよ、もう」
きりやんのわざとらしい溜め息が白く色づいて冷たい風に流されていく。先程と同じところまで少し速歩きで戻り、先程と同じように足元の雪を掬う。いくつか雪を丸めていると指先が真っ赤になって小さく震えているのに気がついた。きりやんは手袋を着用していないのだから当然なのだが。
「俺そろそろ帰らなきゃ」
手の冷たさを無視し、なかむの言う通り、続きをしようと伏せていた瞼を持ち上げなかむのいる方へ視線を戻し、そして流れるように雪玉を遠くの方へ投げ飛ばした。飛ばしたかった。
あ。
木から崩れ落ちた雪が光を反射しながら舞う。静かな冬にとても良く似合っている。
「朝からなにやってんの、きりやん」
聞き慣れた低い声が耳から脳に潜り込んで静寂を割る。きりやんが声のする方を見ると、スマイルが玄関の扉の前に寄りかかっていた。その顔はいつものように無表情。飽きるほど見た同居人の顔だ。
「スマイル」
「俺が起きた時テーブルにきりやんのコーヒーしかなかったから最初はトイレにでも行ってんのかと思ったけど、まさか外で雪遊びとはな」
「……まあ」
きりやんが曖昧な答えをするのを横目にスマイルは得意げな表情を見せた。
「しかもそんな格好で、男が、一人で。楽しかったか?」
「楽しくは……あった、けど」
「ふぅん。飯はできてる、早くこいよ。……それと」
「なに」
家に入ろうとしたスマイルが足を止め、きりやんの方を振り返る。いつのまにか無表情に戻ったスマイルはそのままきりやんを指差し静かに言った。
「そのぐちゃぐちゃな顔をどうにかしてから食えよ」
赤く冷たい手は温かくなることを知らない。
一人分の足跡を見つめるといつも通りの朝がまた、残酷に流れていく。