過去に遡って出逢い編。M視点。
本当ににさ、どうしていいかわかんないくらい…君だけを見ていたんだ。
俺がこの世に存在していることを赦すために
必死にしがみついた音楽という手段。
歌を綴り音を産み出す
その瞬間だけは幸せだったから。
生きていても良いのかも知れない、とそう思えたから。
がむしゃらに、ただひたすらに音を綴り
俺のように歪な「誰か」にちゃんと届くよう、俺はもっともっと俺の音を響かせなきゃいけないんだ。
この道でやって行くと決めた俺は高校も通信制を選び、
俺と一緒に本気でやっていくメンバーを探していた。
俺は俺の生み出す表現に誰よりも自信があって
早くそれを届けなきゃってどうしようもない焦燥感を抱いていたけれど
日々産み出さざるを得ない言葉たちと音を抱えながら、俺は絶対的に独りだった。
でもそれを「誰か」と分かち合えるなら…いつか報われたと思える日が来るのかな….
一目惚れとか運命の出会いとか
そんなものある訳ないって思ってた。
彼に出逢うまでは。
彼を一目見た瞬間。
オーラが見えるとかスピリチュアルなことを言うつもりは毛頭ないけれど
なんてきれいな魂なんだろう、と思った。
「あ、あの!」
ちょっと恥ずかしいほど上擦った声で思わず声を掛けた君に
「俺とさ、バンドやろうよ!俺と組んだら99%デビューしてみせるから!」
思わず畳み込むようにそう言ってた。
こんな声かけ怪しいだろ。めちゃくちゃ。
だけど、俺の本能が言ってたんだ。
この人を捕まえなきゃって。
この人が傍に居てくれさえしたら絶対に絶対に現実にしてみせる!って。
ひと呼吸でそう言い切った俺の目を見て、
君は「いいよ」と微笑んでくれたんだ。
蓋を開けてみたら
涼ちゃんはピアノは弾けるものの、なんとキーボードは触ったこともなかった。
「元貴、マジ?」と若井には呆れられ
どうして涼ちゃんだったのか、の説明なんて俺自身つけられるはずもなく、
「ビジョンに合ってる人だから」で無理矢理押し通すしかなかった。
でもさ
「へぇ、こんな音が出るんだぁ〜」なんて嬉しそうにキーボードを触る涼ちゃんを見ていたら、そんな周りの反応なんてどうでも良くなって
泣けてくるほど胸の内側が暖かくなるの、なんなんだ…
その感情に名前をつけるのが怖くて
「早くキーボード慣れてよね!音楽畑でやって来たから楽勝でしょ?!」なんて悪態をついてしまう。
そんな俺にも涼ちゃんはいつも柔らかく微笑んで
「うん!元貴の音を表現できるようもっと頑張るよ!」なんて殊勝なことを言ってくれるから、俺はまた涼ちゃんに甘えてしまう。
長野から上京したばかりで東京に友達らしい友達の居ない涼ちゃんは
ほぼ毎日俺の家に入り浸るようになっていた。
家といっても実家だから、変なことできるような環境でももちろんないし、無垢な笑顔でふわふわ笑ってる涼ちゃんには、悶々とすることはあっても、無体なことをする気にはなれなかった。
夜通し音楽のことを語り合って
産まれたばかりの音たちをセッションしてみたり。
気づいたら同じベッドで寝こけてたことなんて数知れない。
あまりにもくっついてるから、バンド内でも「寝コンビ」なんてあだ名で呼ばれたりもして。
そんな雰囲気に甘んじて
たまに寝ぼけたフリで抱きついてみたりしても
「もときぃ〜重いよぉ」なんて言いながらも俺を抱きしめ返してくれる涼ちゃん。
俺の中の醜い欲望をぶつけることは出来ないけれど、
触れている身体の一部から伝わってくる涼ちゃんの体温が心地よくて…
あぁ、繋がり合いたくなるのは何故なんだろう?
ずっとずっと涼ちゃんの側にいたい。
そのためなら、この気持ちに蓋をすることだって仕方がないじゃないか。
コメント
2件
最高です。表現上手いですね!憧れます