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最悪だ。
なんで俺が、なんて考えても仕方がないのは分かっている。というか、今回に関しては適任が俺しかいなかったのだからこうするしかなかったというのは自明の理だ。
だからといって、どうして、こうも悪い知らせは連れ立ってやってくるのだろうか!
…暑い。
夏は嫌いだ。寒さは着込めばどうにかなるが、暑さは脱いだってどうにもならない。花火なんてうるさいだけだし、夏祭りなんぞ耳にしたくもない。
だからこそこの時期の遠征任務や諜報任務は、職位柄早々ないとしても、同期やその部下のゴタゴタで最悪自分の部隊に回ってくる事を考慮して全てキャンセルを入れておいたはずなのに。
…まさか、警備だなんて
しかし、盲点だった。この国で三年に一度だけ開催されるサマーフェスティバルの存在を完全に忘れていた。
生憎この日は同期の部隊も全て遠征やら捜査やらに出払っており、まともに人員を割けるのはうちしかないときた。
聞いた当初は、どうせ自分が行く必要もないし、適当に一個中隊くらい生贄に捻り出してあっちで好きに配置させればいいや、とか思っていたものの、我らが上司サマに、お前は年中運動不足なんだからたまには一緒に巡回でもしてきなさい、みたいな事を言われてしまった。
上司サマのありがた〜いお言葉にそうやすやすと逆らうわけにもいかず、いつもの分厚いパーカーとマントを羽織って、灼熱の日差しの中死ぬ気で繰り出したのが今。
誰かと一緒に回るのは文字通り熱中症で倒れて一人で死ぬより嫌なので、なんとか部下の咎める視線を振り切って人の少ない場所で息を切らしているのも今。
そして、
「…お?ランランじゃ〜ん! 今仕事中??」
「ランテオ殿、お久しゅう 」
よりにもよって、運悪く、疫病神共に出くわしたのも今。
というか、なんでこいつら平然と二人で回ってんだ?カルアンはともかく、ユジはサボタージュなんてタチじゃなかったはず。
疑問が顔に出ていたのか、ユジが心底同情するといったような顔で弁明するという器用なことをしだす。
「安心してくれ、有休中だ」
「そこのカルアン殿は知らんが、貴殿は見たところ警備業務中か?心中お察しする」
今すぐにでも同情してくれるなと叫びたい。だが、親からかき氷を買い与えられて無邪気にはしゃぐガキどもの前でみっともなく喚くのも癪なので、やめた。
さぁて、ところでどうしてカルアンくんは仕事中に堂々と一夏の興事に現を抜かしているのかなぁ。
しばらくやった、やってないの押し問答を続けていると、ちょっとした騒ぎにさっきのガキどもがわらわら寄ってくる。
俺達のおはなしあいを一目見るなり、チワゲンカだなんだとほざきやがる。意味も分かってないのにめったな言葉使うんじゃねえ、マセガキ共が。
少し強く触っただけで死んでしまいそうな細い体躯。真夏のクソ忌々しい日差しに焼かれた肌が、日光をも反射して、汗で輝いている。
そのどれもが昔の自分とは乖離していて、目を背けたくなった。
そういえば、妹は俺と違って子供が大好きだった。
ガキどもは俺達のやり取りに飽きたのか、既にユジに群がっている。
照れくさそうに笑うユジと妹の姿が重なって、俺は居心地悪くなって逃げるようにその場を離れた。
クソッタレ、だから夏は嫌いなんだ。