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「リーゼロッテ嬢、その髪色には何か意味があるのですか?」
「えっ、変でしょうか?」
入学式前日。
久しぶりに再会したパトリスとジョアンヌに誘われ、寄宿舎からも近い、公爵家御用達のティールームでゆったりとお茶を楽しんでいた。
パトリスの質問にリーゼロッテは首を傾げる。
明日からの学院生活に向け、折角なので地味スタイルをふたりにお披露目し、意見を聞いていたのだ。
クスクスと、ジョアンヌは笑って言う。
「よく似合ってますけど、学院には一緒に社交界デビューした方々が沢山いるのよ。リーゼロッテを見た方もいるでしょうし、髪色まで変えてしまったら、却って不自然で目立ってしまうのではないかしら?」
「あ! 確かにそうですね……。でも、私の髪など覚えてる方なんて居るかしら?」
拝謁の儀では、皆似たり寄ったりでヴェールもあり、そこまで覚えている者はいないだろう。強いて言えば、舞踏会だ。
本気で不思議がるリーゼロッテに、パトリスとジョアンヌは顔を見合わせ、呆れたような視線を交わす。
「何を言っているのかしら? あんなにも派手な登場をしておいて……」
「二人で会場に入ってきた時、それはもう美しくて息を呑む程だったよ。あのエアハルト辺境伯の瞳と同じ色の魔石のアクセサリーは、目を引いたしね。それに、ジェラール殿下とのダンスも目立っていたよ」
「そうでした……。お父様と、ジェラール殿下のそばにいたから、確かに目立っていたかもしれませんね」
(忘れてた……。あの超絶イケメンふたりは、令嬢達の注目の的だった)
パトリスはリーゼロッテの反応に苦笑する。
「いや、リーゼロッテ嬢だけでもとても美しくて、目が離せなかったよ」
「まあ、パトリス様はお優しいですね!」
優しくフォローしてもらい、リーゼロッテはニコッとパトリスに微笑む。
パトリスの耳が赤くなったことに気づいたジョアンヌは、報われない片想いの兄に少し同情した。
相手はあの、美貌の騎士と謳われたエアハルト辺境伯なのだから。
パトリスは将来、公爵を継げば辺境伯より地位は上になるが――。
あれ程までの魔石をプレゼントし、それをリーゼロッテは受け取っているのだ。ジョアンヌは、リーゼロッテたちはもう、婚約までいっているのではないかと感じた。
もし、違うのであれば王太子が側室へと望むだろう。残念ながら兄パトリスにはチャンスは来ない――ジョアンヌの勘はそう言っていた。
「髪色だけ戻して、他はそのままで良いのではないかしら? その分、私が派手めに振舞うわ」
「ジョアンヌ……」
(なんて良い人!)
思わず、ジョアンヌの手を握りしめる。
パトリスの羨ましそうな視線をジョアンヌは無視すると、話を変えた。
「ところで。お兄様の学年には確か、アントワーヌ侯爵家の……」
「レナルドかい?」
「はい。レナルド様も、リーゼロッテのことを話していたと言っていませんでしたか?」
「ああ、そうだった。どこかの舞踏会でリーゼロッテ嬢を見かけ、美しく品があって驚いたと言っていたよ。ただ、彼は人を見る目はあるが、少し女性に手が早いんだ。……リーゼロッテ嬢、彼には気をつけた方が良いかもしれないよ」
「ええ、気をつけますね」
(レナルド・アントワーヌ侯爵令息か……)
以前、リーゼロッテがループしているかもしれないと、ジェラールに気づかせる切っ掛けを作った人物だ。
父親のアントワーヌ侯爵は、リーゼロッテとして辺境伯領で一度、リリーとして離宮で一度会っている。だが、息子のレナルドとは会った記憶が全く無い。
(ジェラール殿下に、どんな人物なのか訊いておいた方が良さそうだわ)
ふと、ジョアンヌがモジモジしていることに気付く。
「ジョアンヌ、どうかした?」
「リーゼロッテ……あのお花を、また頂くことは出来ないかしら? クリストフ殿下が……」
「殿下が?」
「クリストフ殿下が、とても喜んでくださったの!」
頬を染め嬉しそうにジョアンヌは言った。
(うっ、可愛い! パトリス様はジョアンヌを内気と言ったけど、これは恋する乙女の恥じらいだわ)
「わかりました! 今度、領地に戻ったら摘んで来ますね」
それから、ジョアンヌは魔術師コースを選んだと言った。少しでも、クリストフを手伝えるような存在になりたいそうだ。
ちなみに、パトリスはいずれ公爵家を継ぐ為に文官コース。レナルドは、武官コースを選択しているらしい。
◇◇◇◇◇
お茶会を終えると、リーゼロッテは寄宿舎の自分の部屋へ戻った。
この国の貴族学院の寄宿舎は、寮というには随分と立派な建物だった。
備え付けの立派な家具の他、必要と思われる物があれば持ち込みも可能だ。
リーゼロッテには、家具や装飾品にこだわりは無いので全く問題なかった。寧ろ転生前は、寝れさえすればワンルームでも満足していたので、十分過ぎるくらいだ。
まだ慣れていない、綺麗なベッドにゴロンと横になると、首に掛けていたネックレスを引っ張り出した。
『指に嵌めていたら目立ってしまうだろう?』と、ルイスがくれた物だ。
細く綺麗なチェーンに、魔石の指輪が通してある。
しばらく眺めた指輪を、胸元でそっと握りしめた。
(明日から、新しい生活が始まる……)
リーゼロッテは、少しだけ緊張していた。