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「ねえ、元貴。」
「なにー?」
「おれ、やっぱりあの子の事好きだわ!今日もさー…」
若井は何も分かっていない。
笑顔で嬉しそうにあの子の事を話す若井の目をぼくが見れていない事を。
ぼくが上手く笑えていない事を。
いつもぼくと一緒に居てくれるけど、若井が思っている距離とぼくが想っている距離は違うと言う事を。
若井が見せる笑顔が眩しくて切ないものだって事を。
夢を見た。
若井から出る愛の言葉は全部ぼくのもので。
ぼくも上手く笑えていて。
当然、ぼくとの心の距離は同じで。
若井が見せる笑顔は特別なもので。
友達じゃなくて恋人。
そんな夢だった。
とても幸せで切ない夢。
「え?元貴もこのバンド好きなの?!」
「うん、最近好きでハマってるんだよね。」
「まじ?!おれも最近好きでさー…」
若井がこのバンドにハマってる事は元から知ってるよ。
この前家に行った時に、このバンドのCDが増えてたから。
同じバンドが好きだと見せつけるように聴いてた事なんて、きっと若井はずっと分からないままなんだろうな。
好きな人のものは好きなんだと伝えたいって事もずっと分からないままなんだろうな。
今日も若井はあの子の話をする。
どこが可愛いとか、どこが好きとか。
そんなの少しだって聞きたくなんかないのに。
ぼくは若井から離れ、他の人のところに行く。
いつも隣に居るから、居なくなったら少しはぼくの事気にしてくれるかと思って。
“元貴の隣はおれの場所なのに”
そんな風に思ってくれないかなって。
そんな願い叶う訳ないって最初から分かっていたはずなのに…
ぼくの視線の先にはいつも通り楽しそうな若井がうつっているだけ。
ぼくの瞳はいつだって若井を見ているのに。
若井の瞳にぼくがうつる事はないんだね。
また夢を見た。
若井がぼくに嫉妬してくれて。
ずっとおれの隣に居てよって。
ぼくが願っていた言葉をたくさんくれて。
その瞳はぼくの事だけをうつしていて。
また、ぼく達は恋人だった。
夢から覚めたくない。
ずっとずっと夢を見ていたい。
夢の中でのぼく達すごくお似合いでさ。
若井にも教えてあげたい。
あの子なんかやめてぼくと付き合った方がいいよって。
いつも通り隣には若井。
「あれ?髪の毛切った?」
「うん!ちょっとだけ。よく気付いたね。」
「おれ、元貴の事ならなんでも分かるからね!」
「その服も新しいやつでしょ?」
「すご!なんで分かるの!」
「いつも一緒に居るからそんくらい分かるよー!」
若井はまたぼくの事を好きにさせる。
少しだけ切った髪のことも。
初めて着た服のことも。
いつも一緒に居てくれることも。
若井の何気ない言葉でドキドキしてばっかりのぼく。
…欲張りになる。
願えば叶うものなんだって錯覚しそうになる。
「…若井、ちょっと話があるんだけど。」
「なにー?」
「うーん…やっぱいいや!」
「なんだよそれー!」
言ってしまいたい。
若井が好きだって。
そしたら若井も言ってくれる?
ぼくの事が好きだって。
…そんな願い叶う訳ない。
だってぼく達はただの友達なんだから。
夢の中に逃げる。
ぼくが好きって言えて。
若井も好きって言ってくれる。
ぼく達、本当にお似合いなんだよ?
とても幸せで切ない夢。
お願いだから今は夢を見させて。
いつかこの夢が切ないから辛いに変わるその日まで。
-fin-
コメント
4件
待ってくれ普通に泣きそう
コメントありがとうございます⟡.· Just a Friendです…!! 気付いて下さって嬉しいです…!!