《恋愛なんて、何も言われなくなったら終わりですよ〜!》
『……はぁー……』
俺は今、スマフォの前で頭を抱えている。
事の発端は数週間前。
いや、正確に言えば俺とうみにゃが付き合ってからかも。
まぁそんなことどうでも良くて。
いつも元気でよく笑ううみにゃだけど、俺の前でもずっと同じ感じ。
笑顔のうみにゃしかみたことない。
強いて言うなら、俺がわがままを言う度に困った顔で笑うくらい。
つまり何が言いたいかって言うと
俺に少しくらい別の感情をくれたっていいじゃないかって話!
わがままとか、嫉妬とか。そういう恋人ならではの繋がりが欲しい。
そりゃあうみにゃは成人してて、 社会経験も一応?積んでるから、俺より大人だってことは分かってる。
だけど。
少しくらい、弱いところ見せてくれたっていいじゃん。
《〜〜だから、わざと嫉妬させるために定期的に飲み会行ってるんですよね〜》
『……それだっ!』
きっとあの時の俺は、何かに取り憑かれていたんだろう。
そうじゃなきゃ、こんな愚かな選択は取らなかったはずだ。そう思いたい。
衝動に駆られた俺は、綿密に予定を組み、うみにゃだけに悟られるように女性と出かける予定を立てた。
もちろんそこに男女の繋がりなどない。嫉妬の対象になってくれるなら誰でもよかった。
それなのにどこから漏れたのか。
ニート部のみんなにはバレバレ、動画にもされる始末。
こんなんじゃ、嫉妬どころか嫌われてもおかしくない。
俺を見世物にしたテレビ番組は、掲示板で物議を醸し、俺の手元で再放送のように流れている。
誤解を解こうにも、やってしまったことは事実だ。
いや、未遂ではあった。
でももし俺がうみにゃの立場なら、相当キツイ。
何とかしなくてはと思うほどこんがらがる思考に嫌気がさし、ため息を着いた瞬間。
《ピロンッ》
「……え」
《このあと、空いてる?》
たった一文のLINE。
込められた感情が分からずぞくりと身体を震わせたが、反射で既読を付けてしまった手前、返信しない訳にもいかず了承の返信と身支度を始めた。
『……ほんとにここに入るの?』
合流したはいいものの、何も言わないうみにゃの後ろをついて行くと、そこには夢の国もビックリな煌びやかなお城があった。
「DDはもう成人なんだから。問題ないっしょ」
そう言ってうみにゃは、俺の方を振り向くことなくお城、もといホテルへと足を進めた。
こんな形で来るとは夢にも思わなかった。
何度か揺さぶりを試みた事はあるが、毎回サラッと流されていたから。
このドキドキは、この場ですることに対する高揚か。
はたまた、振られてしまうのではないかという緊張か。
「とりあえず風呂はいっといでよ」
抑揚のない声に肩を震わせたが、幸い彼はこちらを見ておらず、動揺がバレていないことにほっとする。
「俺も入ってくるから、先にベッド行ってて」
うみにゃの背中を見送ったあと、言われた通りにベッドにダイブする。
思ったよりふかふかで大きくて、俺とうみにゃが一緒に寝ても余裕で寝られるな〜なんて。
さっきまで緊張で目が冴えていたのに、瞼が一気に重さを増す。
『……そういえば、最近あんまりねてなかったかも』
思ったより大事になってしまったことで、無意識のうちに身体や心が強ばっていたのかもしれない。
重くなる身体に耐えられず、俺は意識を手放した。
……カチャッ
「……ん、」
金属の擦れる音で目が覚める。
暗闇に慣れるため目を擦ろうと手を引こうとするも、 ガチャン!という派手な音と手首に走る鈍い痛みによりそれは叶わなかった。
「なに、これ」
暗くてよく分からないが、ベッドの感覚から、先程俺が寝ていたベッドにいることは間違いない。
そして、俺の手首に付けられたこれがおそらく手錠であるということも、何故か冷静な思考から判別できた。
なぜ?どうして?考えれば考えるほど頭が混乱して底なし沼にはまっていく。
……こわい。
視覚と身動きを封じられ、得体の知れない恐怖に晒される。
頬になにか伝う。おれ、泣いてる?
『お寝坊さ〜ん』
ふわりと香る、知らないシャンプーと慣れ親しんだ男の香り。
「……うみにゃ?」
俺の上に被さっているようだが、暗くてその表情はよく見えない。
そういえば今日一日、一度もうみにゃの顔を見てない気がする。
顔が見たい反面、今顔を見てしまえば相手も俺の顔を見てしまうわけで。
怖くて泣いてましたなんて知られたくない。
ただでさえ嫌われたかもしれないのに!
グッと喉を閉めて嗚咽が出ないよう耐えようとする俺に対し、無慈悲にも冷たい手が服に侵入する。
「……ッひ!」
自分の声とは思えない嬌声に、驚きと羞恥がないまぜになる。
せき止めていた何かが決壊し、ぼろぼろと液体が頬を伝うのがわかる。
「……DD?泣いてんの?」
戸惑うような声とともに、手がピタリと止まる。
『……っぃて、ない、』
あまりにも酷い。
誰が聞いたって嘘だとわかるだろう。
それでも必死に顔を隠そうとする。
がちゃがちゃと手錠が音を立てるたび、それは叶わないのだと思い知らされる。
『……っ、こわ、こわい……!うみにゃ、やだ、これはずして!』
なかば錯乱状態になった俺を見て
流石にまずいと思ったのか、ぱちりと電気がつけられ、手錠が乱雑に外される。
眩しさに目を細め、段々と落ち着いてきた俺が見たのは、あまりにも余裕なく俺を見つめるうみにゃ。
「DD、落ち着いて、深呼吸しよ」
さっきと雰囲気が違いすぎて、思わず吹き出してしまい 、なんなんだよー!と文句が飛んだ。
「まじでびっくりしたんだからね!?ほんと勘弁してよ……」
両手で顔を覆い恨み言を吐く姿に、場違いではあるが少し嬉しくなってしまう。
それはそうだ、俺が求めてた彼の弱い一面を見ることができたんだから!
『……へへ、まだ好きでいてくれた。うみにゃのこと、また一個詳しくなっちゃった』
ここで俺は二つ、重要なことが頭から抜けていた。
一つ、ここはベッドの上で。
二つ、うみにゃは、ちゃんと〝男〟であること。
「あ゛ーーーっ!!!もういい!我慢の限界!!」
俺の視界いっぱいに、うみにゃの顔が映る。
キスされていると理解するのに、そう時間はかからなかった。
「成人するまで待ったんだから。よく頑張りました、俺!」
ぺろりと舌なめずりする姿が、あまりにも欲をそそる。
あ、くわれる。
据え膳食わぬはなんとやら。
抵抗する間もなく。
いや、抵抗する気もないんだが。
『……隅から隅までお好きにどーぞ』
スイーツのような彼もいいけれど。
猛獣のような彼もクセになる。
ぜーんぶ知ってるのは、他でもない俺だけ!
おまえらには見せねーから!
俺以外に、見せんじゃねぇぞ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『……たてない。こしいたい』
「ごめん!ほんとごめんて!」
『……やだ』
「ッ〜!!!もぉ〜!かわいいことしないで〜!!」
『しょーがないじゃん。うごけないんだもん』
「わかったから!ココア持ってくるから許して!今の俺には刺激が強すぎる!!」
『ン、あったかいのね』
「了解しましたぁ〜!」
嫉妬なんて甘ったるい
絡めとって逃げ道を塞ぐから
「ちゃーんと俺だけ見ててね、DD?」
コメント
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好き好き大好き最高だ
わぁ神ぃすきぃ
さいっこう