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妄想、捏造
ご本人様とは関係ありません
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絶対的正義、強制的救出をモットーとした傲慢ともいえるヒーロー像を抱える佐伯イッテツはその名に相応しいほどの自己犠牲をする。彼には「残機」という死んでも生き返る、そういう性質を持っているがそれにしても躊躇がない。宇佐美は一度佐伯に「死ぬのが怖くないのか」と尋ねたことがあるが彼はいつもの、忙しないともいえる豊かな表情を見せながら「えっ、なに?そんなの怖いに決まってるだろ!俺は痛いのと死ぬのが一番嫌いだからね!」と言ってのけた。
嗚呼、これは重傷だ、と宇佐美は思った。
死が怖い、それは当たり前の感情だ。宇佐美は特にその傾向が強く配信でもよく未知のものが怖いと話すくらいだ。佐伯にもその性質がある。だというのに彼は民間人を守るためなら自己犠牲を惜しまない。素早く次の命で走り出すために彼のチョーカーには自爆用の爆破スイッチが仕込まれているくらいだ。その矛盾に宇佐美は言いようのない恐怖を感じた。歪だと思った。
ヒーローは全てを救えるわけじゃない。それはヒーロー研修の時に耳タコになるくらい言われた言葉だ。『亡くなった命に引っ張られるな、立ち止まるな、次の命が喪われる前に前を向け。』実際、宇佐美にだって目の前で救えなかった命を沢山見てきた。でも、後悔する暇はなく敵はやってくる。時には冷酷になることも大事だと宇佐美は思う。
「……なあ、テツ。俺はさ、嫌だよ。テツが知らないところで死んで、ふらっと何にもなかったような顔して俺たちの前に現れるのが」
雨の中、野晒しにされた佐伯の遺体を見つけた宇佐美はそれが生き返るまで語りかけていた。敵は無事倒したし、死者数もゼロ。ヒーローとしては大成功ともいえる戦いだった。
「…………こわいよ、テツ。生き返るってわかってても、こわい。」
誰に聞かせるでもなく雨の音で掻き消された独白は、その物言わぬ遺体だけが聴いていた。
「…ごめんねリトくん。それは聞けない願いだな」
「…っテツ!」
「あはは、驚かせちゃったね。ほら、死人は最後、耳は機能するって言うだろ?それかな、君の言葉が聞こえてきたんだ。」
ぱちりと目を開けた佐伯は宇佐美を視認すると申し訳なさそうな顔をした。彼は猫のように人知れず死ぬから遺体を見られたことを後悔しているのだろう。佐伯は雨を吸った重たいヒーロー服に顔を顰めながら起き上がった。ブルブルと震える姿はまるで野良猫だ。…そんな可愛らしいものではないが。佐伯は宇佐美をまっすぐ見つめて話し出す。彼のパッシブスキルは一番長く一緒にいた宇佐美にはもう発揮されない。
「俺はヒーローだから。」
それは俺もだ、とは言わなかった。佐伯の言葉を静かに待つ。雨が体温を奪うのに生を実感する。
「こんな残機はヒーローになるためにあるんだと思った。俺の命1つで価値ある命が救われるなら…それはとても、素敵なことだと思ったんだよ」
「……」
まるで荒廃した世界に二人だけの感覚だった。ねずみ色の空、アスファルトに跳ねる雨、避難誘導をしたためここには俺ら以外居ない。もしそんな世界だったならば佐伯はもう無意味に死なないのだろうか、などと考えてしまう。
「もう勝手にしろ」
「……リトくんは優しいね」
「……」
聞く人が聞けば酷い言葉を佐伯は宇佐美の優しさだと認識した。佐伯が死ぬことを肯定しているわけではない。宇佐美はこうなった佐伯はテコでも動かないと知っていたし、彼の信条を否定するのは彼の全てを否定しているように思えたからだ。
「ごめん。」
「は、っ?えっ、な、なにが!?いや、寧ろ俺のほうが酷いやつだろ!リトくんが謝ることなんてなにも…」
佐伯は頭を下げる宇佐美にぎょっとした。わ、彼の旋毛見たの初めてかもしれない、などとどうでもいいことを考えてしまうレベルで驚いていた。
無茶苦茶な事を言ってる自覚はある。酷いことを彼らに強いている事も。『俺が死ぬことを肯定して欲しい』など、優しい彼らが何も思わないわけないと知っている。
「俺のわがままだった。テツはその戦い方に納得してんのに、他人の俺がとやかく言うのは間違ってた。…ごめん」
佐伯はやっぱり宇佐美は優しいと思った。優しすぎる、ともいう。彼は敵にも温情を与える。悲しい理由があって悪に落ちたモノに同情し、手を差し伸べる心がある。それは彼の美点であり、愚かな部分だと佐伯は思っている。優しさは破滅を生む。それが自分に降りかかるのか、はたまた別の誰かになのかは分からないが佐伯は悪に落ちたモノにまで手を差し伸べる理由はないと常々思う。悪は、悪だ。どんな理由があろうと、お涙頂戴の展開でも、大切な人が悪に落ちても佐伯のスタンスは変わらない。
宇佐美は勘違いしているが俺は全てを救いたいわけじゃない。宇佐美のように敵まで救おうなどとは思わない。ただ、数ある残機をただ1つの命しか持たない尊い人間のために捧げたいだけだ。
佐伯は知っている。救えなかった命に宇佐美が1人で泣いていることを。バレないように静かに啜り泣く声を無駄に良い俺の耳は拾い上げてしまう。彼は結局、冷酷になんてなれないのだ。そういう風に見せるのが人一倍得意なだけで。そんな暖かい、ヒーローとして相応しい男を悲しませたくなくて佐伯は只管その命で走り続ける。
「顔、上げてよリトくん。」
「テツ…」
「困ったような顔しないでよ。俺、リトくんにそんな顔されたらどうしていいかわかんないし。リトくんが思うほど素敵な人間でもないから…君みたいな人に頭を下げられる理由なんて無いんだ」
佐伯は悲しそうに眉を下げてみせる。2人の間に沈黙が続く。そして動き出したのは宇佐美の方だった。思い出したかのように「…風邪、引くから」とポツリと言って佐伯の手を掴んで歩き出す。けして無理強いをしない、弱々しいその手は俺がいつ振りほどいてもいいように逃げ道を与えてくれる。嫌なら嫌と言ってくれと言うように。佐伯はその手を強く握り返すと宇佐美は佐伯の顔を見て少しだけ安堵した。雨の冷たさでつないだ掌だけが暖かかった。
とずり阿
来世は二酸化炭素がいい