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ユニオンヘイストに傭兵で参加した翌日の昼頃。ぺいんの朝の日課が終わったのを見計らったように電話がかかってきた。

「はい。もしもしー。ミンミンボウの伊藤ぺいんです」

出前の注文ではなかったのか、ぺいんはそのまま電話をしながら裏口から外に出て行った。ミンドリーは電話の相手を推測できたが、さぶ郎は気になったようで裏口のドアに顔を貼り付けながら盗み聞きしている。

「あぁ。その話ね」

「………」

「僕は店でもいいけど、人に聞かれたくないならどっか行く?」

「………」

「天文台ね?今から?そんじゃ行くわ」

電話が終わったぺいんが戻って来そうなので、さぶ郎とミンドリーは急いで厨房に戻った。ぺいんはそんな二人に気づかず、厨房の扉から顔だけ出して声をかけた。

「ミンドリー、さぶ郎、ちょっと出かけてくるわ」

それだけ言うとドアを閉じ、出掛けてしまったようだった。エンジン音からするといつもミンミンボウで使っているランポや出前のスクーターではなく、ぺいん個人のバイクを使ったようだ。どうやら出前ではないらしい。

その様子が不思議だったのか、さぶ郎が思わず呟く。

「お母さん、どこ行ったんだろ?」

その呟きをミンドリーが拾う。

「………さぶ郎。お母さんが家族に内緒で出かけた」

「お母さんが?」

「浮気かもしれん」

「お父さん、これは後をつけましょう」

「よし、さぶ郎行くぞ」




ぺいんは天文台にある市街を一望できるテラスで電話相手を待っていた。

やがて、街の方から一台の警察ヘリが近づいてきた。着陸し降りてきたのは電話相手の小柳である。

小柳は辺りを見渡し、ぺいんが一人だけでいることを確認するとテラスに上がってきた。

そしてぺいんと対面すると挨拶もそこそこに本題を切り出してきた。

「単刀直入にお聞きします。あなたの正義ってなんですか?」

「みんなが笑顔でいる事」

ぺいんにとっては前の街から変わらず心に掲げている「正義」だ。

そしてこれは小柳も一度聞いた言葉だった。確かプロファイル登録の時だ。

しかし小柳は馬鹿にされたように感じたのか眉をしかめた。その表情を見たぺいんが今度は小柳に問うた。

「じゃぁ、小柳君の正義って何?」

「法に基づき犯罪を取り締まることです。警察官ですから。犯罪は許しません」

なんか、ちょっと前の僕を見てるみたいだ───小柳の言葉を聞きながらぺいんはそう思う。

ぺいん自身も警察官になった頃は犯罪者は許さず、法を守る事、警察が絶対的な正義だと思っていた。

しかしあの街のさまざまな住民と関わり過ごしてきたことで、その考えは変化してきた。

「プリズンから出所して、今この時は何もしていない、指名手配でもない中華料理屋の僕でも、小柳君としては許せない?」

ぺいんは優しい口調で小柳に問う。

「正直、昨夜ユニオンの犯人として護送されてきた時、絶対許さないと思いました。それだけの力がある警官が、なぜ我々警察ではなく、犯罪者─ギャングに加担しているのかと」

小柳はぺいんを睨みつけるようにまっすぐに言葉をぶつけてくる。

「そこは僕たち家族や親友と、この街の警察とでどちらを信用するかって話じゃない?」

その言葉を聞いて、ここ数日のことを思い返した小柳は苦い顔をした。

小柳の表情の変化を伺いながら、ぺいんは続けた。

「あの街で最初にお世話になった人が警察官でね。仕事が大変そうだったその人に恩返しがしたくて警察官になった」

ぺいんは小柳から市街地へと視線を向け、前の街を思い返すように続ける。

「犯罪の取り締まりだけじゃなく、市民とギャングのもめ事の仲裁に入ったり、お世話になった先輩や同僚の闇堕ちも経験した。市民とも犯罪者ともたくさん話をして、それぞれの立場での正義が違うことが分かってきた」

あの街で新人や後輩たちにいつも話していたように続ける。

「ギャングや半グレであっても犯罪をしていなければ、市民という考えも教わったし実際に体感した。市民の生活を守るのが警察の仕事だとして、その市民は誰だと考えたら黒も白も関係ない」

ぺいんは外に向けていた視線を小柳に戻し、正面からまっすぐに向き合い続ける。

「一概にこれが正しいという正義はないよ。もちろん、市民と警官と犯罪者とでは立場が違う。けど、人それぞれ自分の正義を持っている」

小柳はぺいんの言葉を受け止め考えているようだった。やがて考えがまとまったのか、改めてぺいんと目を合わせて問いかけてきた。

「それだけの考えがありながら、なぜ招聘を断ったんですか」

小柳はぺいんの考え方に理解はしたようだが、それでも警察側ではないことに納得していないようだ。これにはぺいんもはっきりと答えた。

「今は家族との時間を大切にしたいから」

そのために休暇をとってこの街に来た。ぺいんが譲れないラインだ。

ぺいんは姿勢を正して話を続けた。

「今の僕と小柳君の立場は相容れないかもしれない。もちろんどちらが正しいということではないけれど」

小柳もぺいんを真っ直ぐ見て伝える。

「では、犯罪現場で見かけたら遠慮無く叩き潰します」

見返してやる───そんな目だった。ぺいんもそれに応える。

「そこは覚悟の上だよ。かかってきな」




聞きたいことが聞けたのか、小柳は辞去の挨拶をして立ち去った。

最後の言葉から察するに、小柳と理解し合えてはいないだろう。お互いに譲れないラインや立場がある。ただ何か聞きたいことがあればまた連絡してくるだろう。

ぺいんは飛んでいく警察ヘリを見ながら、そう思った。




「で、そこのさぶ郎さんとミンドリーさんは何をしているのかね」

ぺいんは近くの茂みに声をかけた。小柳との話し合いの最中、視界の端で茂みに埋もれるピンクと緑の髪がちらちら見えていた。

バレたか、という感じで茂みからさぶ郎とミンドリーが出てきた。

「お母さんの浮気調査」

「家族に黙って男と密会なんて、言い逃れできませんが?」

二人は盗み聞きしていたことについて一切悪びれた様子はなく、そんなことを言ってきた。これにはぺいんも反論する。

「はぁ!?ミンドリーには昨日話しておいたよね?」

「連絡が来たら会うかもとは聞いていましたが、こんな場所で二人きりとは聞いていませんっ」

「お母さん、お父さんとさぶ郎置いてっちゃうの?」

「話が飛びすぎ。どうしてそうなる?」

ぺいんはがっくりと肩を落とすが、関係なしにミンドリーも容赦なく畳み掛ける。

「やっぱり浮気ですか」

「いっつも思うんだけど、マジで浮気って何?」

「出た!浮気した人がよく言うヤツ」

「招聘断った時に、空いてる時間に相談に乗るって話をしたじゃん。人生相談みたいなもんだって」

「言い訳ですか?」

「あぁ〜、もう。仕事の一環でしょうに………」

「さぶ郎、お母さんが浮気を認めない。実家に帰ろう」

「お母さんとお父さん、もう仲直りできないの?」

「喧嘩しているつもりもないんですけどっ!?」

言い合いをしながらも、だんだんと3人に笑い声が混じる。

「禊だね」

「もう。何回そのネタ擦るの」

いつもぺいんはミンドリーに勝てない。さぶ郎がミンドリーの味方についたらなおさらだ。三人ともそれは分かっていて、茶番を繰り広げる。

「あぁ〜、じゃぁ、今後出前も含めて一人でどこかに行く時は、行き先と相手を必ず言ってからにする。これでいい?」

「お父さん、お母さんはああ言ってるけど仲直りできる?」

「さぶ郎が悲しむのは本意では無いからね。仕方ないね。許しましょう」

何で僕が許される側なん?───ぺいんはまだブツブツ言っている。

その様子をさぶ郎とミンドリーは見てにやにやしている。

端から見たらぺいんが母と呼ばれることも、浮気を詰めるミンドリーが父親ではなく母親のような口調になることも、娘であるさぶ郎が分かっているのにミンドリーの味方しかしないことも、全てがおかしいかもしれない。

ただ、これがこの家族の「日常」だ。

「さぶ郎たち、ここまで何で来たの?」

「俺のバイク」

「僕もバイクで来たから並走して帰ろ」

ぺいんがそう言って自分のバイクにまたがると、さぶ郎が無言で後ろに乗った。これもいつものことだ。

今日はこの後何をしようか?───そんなことを相談しながら、仲良く店に帰った。

とある街の中華屋さん

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