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#オカルト
リユ
7
聖次
693
【フィルモア王城・国王執務室】
華奈が近衛騎士団の修練場で引き起こした、仕返しという名の前代未聞の「大暴れ」。
その詳細は瞬時に国王ミラードの耳に入り、その日の深夜、急遽非公式の緊急会議が開かれていた。集められたのは、騎士団長ウィラードと、王の側近数名という極めて少ない人数だった。
「――匠を華奈から遠ざけるのは無理と申すのか、ウィラード」
重苦しい沈黙を破り、玉座のミラードが不機嫌そうに声を放つ。
それに対し、ウィラードは朝方に浴びたばかりの、恐怖の余韻を背中に感じながら、慎重に言葉を選ぶ。
「はっ。間近で二人の様子を見ておりましたが完全に相思相愛。……もし無理に引き剥がし、絶望した華奈様が最悪『魔王軍』に与するような事態にでもなれば、我がフィルモア王国は確実に終わります」
ミラードが画策していた「無能な匠を排除し、勇者華奈を孤立させて取り込む」という引き離し作戦は、皮肉にも、王の意図を汲み損ねて暴走したボンクラ貴族どもの狼藉によって、最悪の形で幕を閉じることとなったのだ。
「それは中々難題だな。ッたく、使えない貴族どもめ。……それで、現状は奴をどうしているのだ?」
部屋付きの侍女やお付きの護衛騎士からの報告を聞いていた側近が、恐る恐るミラードに口添えする。どうせ王への得点稼ぎなのだろう。一瞬口角が上がっていた。
「申し上げます。お茶会の席でも目に届く範囲に必ず待機させ、湯もみ以外は離席することはないそうです」
修練場での事件の後、すぐに華奈は匠を『従者』という形にして一瞬たりとも傍から離さず、常に帯同させているという。もはや誰も、匠に無闇な手出しをできない状況に陥っていた。
「ならば……華奈の『婿』に、貴様の子息を当てがうというのはどうだ? もちろん、あのレベル1を引き剥がした後の話だがな」
何を思ったのかミラードは事も無げに、傲然と言い放った。先に大きな餌をぶら下げ、ウィラードに確実に実行させるように仕向けようとしているのだ。
この世界の貴族社会において、婚姻や婚約者を決めるのは「親」か「国王」と相場が決まっている。華奈の年齢であれば、すでに婚約者がいてもおかしくはない。ミラードはそんな自分たちの世界の『常識』を、異世界人である華奈に無自覚に押し付けようとしていた。
ウィラードの子息は、現在一五歳。
父親譲りの恐るべき剣の才能を秘めており、その若さにしてレベルはすでに『250』を軽く超えている。親父が神レベルなので周囲からは神童と騒がれ、当然のように婚約話が持ち上がっていた。
だが、彼に見合うほどの魔力やレベルを持つ高位の貴族令嬢がおらず、適性者不足で候補者選びが難航していたのだ。
「私の息子、ですか。……それは騎士の家系として、至極光栄なお話と存じます」
ウィラードは一度言葉を区切り、脳裏に「この国ごと叩き切る」と言い放った黒髪の鬼神の姿を思い浮かべた。王からの冷徹な調略に、背中を冷たい汗が伝う。
「そうかそうか、良い組み合わせだと思うぞ。今は口約束だが、暁には――追放の後には、確実に書面に残そうではないか」
「――しかし、陛下。あの二人を引き離すには、それ相応の『大義名分』がなければ動きませぬぞ」
(……というか、下手すれば息子ごと私が華奈様にミンチにされます、とは言えんな)
ミラード王としては、魔王討伐の兵器を繋ぎ止めることはもちろん、王家の未来のため、その後継者選びも見据えていた。
至高の勇者という「極上のDNA」に、国内最高峰の騎士の血筋という「良質なDNA」を混ぜ合わせれば、生まれつきレベルの高い、更に質の良い最強の戦士が生まれると考えている。支配者の思考からすれば、そう考えるのが普通だった。
理屈では理解できるが、二人の現状を鑑みると到底引き離せないことは明白だ。ウィラードは内心で、いくら国のためとはいえミラードの考えは愚策だと感じていた。
「――陛下、それでしたら、むしろ華奈様を脅しつつコントロールした方が効率的かと存じます。あのレベル1など、簡単に引き剥がせますよ」
ウィラードの懸念を鼻で笑うように、一人の側近が傲然と名乗りを上げた。
この男は王の幼少期の頃より付き従う右腕の一人だ。まぁ、権力の傘をうまい具合に利用している利権屋の一人でもある。
「ほう? どのような方法だ」
「簡単なことでございます……」
その男は悪びれる様子もなく、とある一部の貴族の間で反発が高まり、匠への暗殺計画が浮上しているという嘘のプロットを語りだした。
匠の安全を確保するため、警備が容易な辺境伯の家に飛ばすという案だ。壮大な嘘を吹き込めば、お優しい華奈は必ず受け入れると言い放ち、最後にフッと醜い笑みを深くする。
「だが、もし失敗すれば、この俺を警戒して魔王討伐を拒むやもしれんぞ?」
「その場合は本当に『毒殺』してしまえばいいだけの事。目の前から消えれば、いずれ諦めもつくでしょう」
あまりの暴挙。あまりの狂気。
だが、玉座に座るミラード王は眉一つ動かさず、むしろ満足げに口角を上げた。
「王命に逆らう者は不要だ。……あるいは事故を装えば完璧だな。――よかろう、その作戦は折を見て決行する」
「陛下、お待ちください。私は今朝、華奈様と直接やり合いましたが、彼女は恐ろしく勘が鋭い。このような安易な調略など、一瞬で見破られますぞ」
救いようのない暗君たちの会話に、ウィラードは内心で激しい怒りと、この国への失望を感じていた。だが、国を守る盾として、引き攣る顔を隠しながらできる限りの助言を吐き出す。
しかし、ミラードも完全に愚かではなかった。修練場の大騒動が起きた直後に、立て続けに匠の身に問題が起きれば、いくらなんでも華奈に疑われる。
「折を見てと言った。大きく状況が動いたときに決行すればいい。混乱に乗じれば疑われない」
こうして、陰湿な暗殺・隔離計画は何か大きな事案が動いた時まで先送りされると決められ、重苦しい緊急会議は終わりを告げたのだった。
※※※※※
【数週間後・漆黒の森】
華奈の徹底的な保護――もとい「ガチギレの抑止力」のおかげで、匠への目立った暴力は完全に鳴りを潜めていた。
彼女の献身的な介抱によって匠も生気を取り戻し、何とか体裁を保てるまでに回復している。
そんな平穏が戻りつつある中。
薄暗い『漆黒の森』の奥深くを歩きながら、華奈は小さくため息をついた。
「貴族って何でこうも野心家ばかりなのかしら。ほんと頭に来ちゃう」
「実力で黙らせればいいさ。ハマスタで襲ってきた連中と同じだろ?」
「……うん……あれ思い出すと…少し恥ずかしいよ……」
恥ずかしそうに身を縮める華奈が、なぜ今こうしてメルド村とは真逆の方向に位置する漆黒の森の奥深くを歩いているのかというと――。
事の始まりは、一部の貴族たちが流した悪質な噂だった。
「近衛騎士団の修練場での大騒ぎは自作自演だ。数字だけで信じるに値しない」
そんな悪質な噂を払拭するため、国王自ら華奈へ魔物討伐を命じたのだ。
ケチを付けられたから、「実力で見返す」と華奈が啖呵を切った事で、普段参加しない文官や貴族の代理人など、場違いな連中が、じっと勇者の行動を監視するため、片時も目を離さず観察していた。
「華奈殿、この剣は体に馴染みますか。それとも迷っていたレイピアに変えますか」
「ありがとうございますウィラード騎士団長。この直剣を使わせて頂きます」
漆黒の森を背に立つ華奈は、一頭の黒豹を思わせた。
引き締まった肢体に無駄はなく、静かに立っているだけで周囲を圧倒する気迫を放っている。
引き締まったレギンス姿の上から革の胸当てを纏い、『鎖竜』の鱗で作られた肩当てと脚甲がその身体を守る。
その手には、女性向けに細身へ鍛え直されたアダマンタイト製の直剣が握られている。
魔物の中には強酸を操る個体も多く、愛刀を傷めないよう予備として用意された一振りだった。
「やはり細身を選びましたね」
「速さを得意としていると、大剣はどうも苦手でして……」
高速剣を得意とする匠と華奈にとって、技の命はスピードだ。それに対応するためには、レイピアよりは刃厚があるものの、やはり細身の剣しか選択肢はなかった。
美しく装飾された剣を眺める二人は、「まあ、これなら使えるかな」と、口にこそ出さないものの、内心で同時にそんな不遜な太鼓判を押していた。
「ウィラード団長、魔物が現れました」
「さて、私の出番ですね、それでは行ってきます」
斥候が魔物群の接近を知らせてきたとき、華奈の表情には緊張感など微塵もなかった。
華奈は軽くアダマンタイトの直剣を肩に担ぐと、「案内して貰えますか?」と涼しい顔で微笑んだ。
そして匠にだけ悪戯っぽくウインクを送り、そのまま颯爽と駆け出していく。
コメント
1件
第33話、読み終わったわ! ミラード王の「DNA」発言にはちょっと引いたけど、異世界の王様の思考としてリアルで逆に笑ったわ。ウィラードが内心で「息子ごとミンチ」ってツッコんでるのがめっちゃ好き。 華奈のガチギレ抑止力で平穏を取り戻しつつあるところに、また陰湿な計画がチラついててハラハラする展開ね。最後の漆黒の森での華奈、余裕の風格があってカッコよかった!匠とのウインクのやり取りが可愛すぎる🔥