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#オカルト
リユ
7
聖次
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第34話、一気に読んじゃいました……! 華奈さんの戦闘シーン、本当に息を呑むようでした。あの「修羅の剣使い」っぷりと、匠さんを守るためだけに動く冷徹さのギャップがもう…たまらないです。それでいて、測定結果で匠さんの成長係数が9でレベル1.0って歪みも気になりすぎます! パパ・ヤーガも慌てふためいてて可愛かったです。次が楽しみです🌷
【漆黒の森】
「さぁ匠殿、彼女の剣捌きを見に行こう」
「そうですね、僕は役に立ちませんが応援くらいはしないと」
軽い足取りで突っ込んでいく華奈を追う匠。その後ろを、様子見を兼ねた文官や貴族の代理人たちがゾロゾロと付いてくる。正直に言って目障りでしかなかったが、邪魔だと言える立場でもない。匠は内心の鬱陶しさを隠しながら早足で追った。
「皆さま、これが私の自作自演かどうか――どうぞその脳裏に、しっかりと焼き付けてくださいね」
これ見よがしに艶然とした微笑みを浮かべ、あからさまな皮肉を言い放つ華奈。
だが、その先に待っていたのは、見物人気取りだった彼らの生温かい観察眼を木端微塵に砕く、凄惨な「修羅場」だった。
「ギャオーン、ギャギャ!」
「ギギギ、グェーッ!」
森の暗がりから、異なる特性を持つ魔物たちが、何者かに操られたように統率された動きで襲い掛かってきた。
剛腕を唸らせ、周囲の巨木ごと圧殺せんとするブラディベアー。その巨体の影から、鋭い毒牙を持ったデッドキャットが数匹同時に、死角から奇襲を仕掛けて来る。
「まるで鈍いプーさんと、気味の悪い野良ネコさんね」
冷ややかな呟きと共に、華奈が動いた。
足場の悪い腐葉土の地面を、まるで氷上を滑るかのような滑らかさで駆け抜ける。
そこからの戦いは、まさに『修羅の剣使い』そのものだった。
無造作に、まるで固定されたわら人形の首を落とすかのように、彼女の刃は的確に魔物たちの急所を断ち切っていく。圧倒的な速度と暴力。森を吹き抜ける一陣の風のごとく、彼女は瞬く間に十匹以上の魔物を物言わぬ肉塊へと変えてしまった。
「ひっ、人外だ……っ! アイツは悪魔だ!」
群れを屠る傍ら、華奈はすでに術者の居場所を見抜いていた。少し離れた木陰に潜む男の背後へ、一瞬で回り込む。
「あなたが魔物を操っていたテイマーね。悪魔が悪魔呼ばわりするなんて、ほんと滑稽ね」
生け捕りにして尋問する。誰もが当然そうするべきだと考えていた。
しかし、彼女の決断は、人間たちの常識を遥かに逸脱していた。
スン……。
まるで小物は視界にすら入っていないかのように、背後から悠然と通り過ぎようとした、その瞬間。
一瞬だけ彼女の手元がブレたと同時に、青白い顔色をした男の首に、一筋の鮮烈な赤い線が浮かび上がった。
「華奈、そいつ人間じゃないとはいえ、一応は人の形をしてるんだぞ……なぜ尋問もせずに殺す?」
匠だけは、その神速の抜刀を見切っていた。
間も無くテイマーの首と胴体が離れ、大木と共に地面に転がるであろうことを確信しながら、匠は静かに問いかけた。
言葉を喋る相手は、ただの動物でも、殺意をもつ魔物でもない。人に限りなく近い知性を持つ、人間と同じような生き物だ。それを、対話の余地すら与えず一瞬で処理した彼女の冷徹さに、周囲の文官たちは言葉を失い震えている。
だが、振り返った返り血を浴び赤黒く染まる華奈の表情には、先ほどまでの残虐さは微塵もなく、ただただ純粋な微笑みだけが浮かんでいた。
「ええ。私が守るのは匠だけ。――あなたを害する可能性があるなら、私はどんな生き物であろうとも排除するだけ」
少し前まで可憐だった少女とは思えないその残虐性も「匠を守る」という彼女なりの優しさが反転したものに過ぎなかった。
「華奈……」
あの朝、一歩先を行かれたと思った華奈は、今や手の届かないほど先へ進んでいた。
――これは、自分が招いた失態だ。
優しさが狂気へと変貌していく彼女の姿に、匠は急激な恐ろしさと、それ以上の心配を抱き始める。
その一部始終を、森の暗がりから金色の瞳がじっと捉えていた。
「あの女勇者、規格外過ぎるぞ……。これでは魔族とのバランスが崩れかねん……」
隠密と情報収集を司る七魔人の一人「プラウラー」。
角さえ無ければどこにでもいる平凡なサラリーマンのような男だ。王都に放っている手下の報告を受け、調査に赴いた彼が抱いたのは、崩れ出した均衡への焦りと、惨劇を見て湧きあがる純然たる恐怖だった。
即座に撤退すべきだ――そう判断した瞬間には、すでに遅かった。
華奈の『リミットブレイク』による索敵スキルは、隠れ潜む魔人を決して逃しはしない。
「ゴミがこちらを窺っていますね」
おもむろに太ももの投げナイフへと手を伸ばす。
――チッ、ズン!
額を狙った神速の一撃は、落ち葉に触れてわずかに軌道を変え、プラウラーの肩へと吸い込まれた。
すぐさま俊足を活かして追尾する華奈。しかし、彼女が辿り着いた木陰には、微量な血痕だけが取り残されていた。
※※※※※
【王立魔法物理学研究所】
貴族らの懸念を排した華奈と匠は、森から帰還したその日の午後、王立魔法物理学研究所の総括責任者であるパパ・ヤーガからの呼び出しを受け、そこへと向かっている最中だった。
貴族の愚息が巻き起こした事件のせいで、魔力測定と魔術適性の検査が遅れに遅れていたため、この機会にまとめて測定してしまいたいらしい。
「ここにメアリーが2年近く閉じ込められていたんだな」
「メアリーの過去は壮絶だよね。まぁ、だからあんなに強かなんだよね」
正門に向かう途中、高い外壁を見上げながら、2人はメアリーから聞いていたここでの生活を思い出していた。
彼女にとってこの場所は忌まわしいことこの上ないはずだが、華奈には気を許しているのか、自らの暗い過去を打ち明けてくれたのだ。
受付を済ませて中に入ると、案内されたのは地下ではなく「魔力測定室」だった。そのまま促されるままに奥へと進んでいく。
「この前は地下だったけど、ここは教室って感じね」
「なんでレベル測定と同時に行わなかったのだろう。よく分からないな」
前回訪れたのは、魔道具が所狭しと並ぶ薄気味悪い地下室だった。だが今回は、机の上に何かわからないが、ポツンと一つだけ木製の箱が置いてある教室のように広い空間だ。前回同様、大勢の魔法士に囲まれている状況こそ変わらないものの、二人の胸には純然たる疑問が湧いていた。
「ほほほ、あそこは王の手下が管理する別部門なんじゃよ。私がここ、王立魔法研究所の総括責任者――パパ・ヤーガじゃ」
まさに絵に描いたような、白銀色の長い髪を持つ初老の魔法使いが現れ、2人の疑問に即座に答える。
彼こそが、この研究所のトップであり、フィルモア最強と謳われる魔法士だ。
「さて、早速じゃが華奈様の測定から始めよう。色々と説明もあるのでな」
ヤーガの声掛けと同時に、部下たちが手際よく『魔力測定器』なるものを準備し始める。手足や頭部に電極を取り付け、程なくするとモノクロの数値が画面に浮かび上がった。
「825」
この数値がどれほど高いか低いかは、匠たちには分からない。
だが、少し前かがみ気味だったヤーガの背筋がピシッと真っ直ぐに伸びたのを見て、これが前代未聞の異常なレベルであることは、わざわざ言葉にされずとも理解できた。
「次は魔法適性の試験じゃ。輝くのが適性属性、真ん中の数値が成長係数じゃよ」
今度は王冠のような器具を頭に被せられる。
すると、そこに取り付けられていた色とりどりの6つの魔石が、一斉に眩い光を放ち始めた。さらに、真ん中に嵌め込まれた黒い石に『6』という数値が浮かび上がる。
全属性の力を秘めていること、そしてその数値が異常値であることは、ヤーガや周囲の魔法士たちの顔を見れば容易に察しがついた。
「……っ」
あり得ない数値に度肝を抜かれているのか、ヤーガを含めた数名の魔法士の手が小刻みに震えている。
ひとまず検査を先に済ませて説明は後回しにする方針なのか、ヤーガは引きつった笑みのまま匠を手招きし、同じように測定を開始した。
まずは魔力値。画面に表示されたのは――
「1.0」
まあ、これに関しては至って普通、というか自分のポンコツぶりを知っているので驚きもしない。しかし、続く適性試験に移った瞬間だった。
「おお……っ! これは、何じゃ、これは……!?」
初めてヤーガが驚愕の声を漏らす。
匠の頭上では、6個の魔法石と数値を示す石が激しく輝き始めたのだ。そして中央の石に浮かび上がった数値は――。
『9』
それを見た全ての魔法士たちが、あまりの衝撃にのけ反った。
そして室内を支配する異様な静寂の中、ヤーガが書類を差し出す。
「……まずは華奈殿。はっきり言って、私は自分の目を疑いました。あなたの存在的魔力値は――驚異の『800』超え。成長係数も通常の3倍ほどです」
「はちひゃく……ですか?」
首を傾げる華奈の横で、ヤーガは額の汗を拭いながら熱弁を振るう。
これまでの歴史上の最高値は、彼自身が叩き出した『350』が限界だったという。
華奈の数値は既に「神の領域」だと断言され、成長係数も異常のひと言に尽きると告げられた。
ひとしきり熱弁したヤーガは、今度は首を傾げ、匠の測定結果をじっと見つめたまま押し黙る。
(華奈の数値であれだけ驚くとなると、俺の数値は相当出鱈目なんだろうな……)
匠がそんな諦め混じりの予想を立てていると、ヤーガが深い絶望すら滲ませる声で呟いた。
「匠様……レベルと成長係数の釣り合いが、全く取れとらん。この儂の頭では到底理解不能じゃ」
レベルは最低の『1.0』。それを成長させるための係数が、上限値いっぱいの『9』……!
これには、普段は冷静な匠も驚きに目を丸くした。
この世界では、一般的な人間の成長係数は『2』か『3』程度。どれほど恵まれた天才でも『5』を超えることは滅多にない。
「これほど歪でちぐはぐな結果を、私は長い研究生活の中で一度だって見たことがありませんぞ!」
ヤーガは頭を抱え、完全に困惑しきった様子でうめき声を上げる。そして、未知の怪異でも見るかのような目で、匠をジロリと睨みつけた。
「パパ・ヤーガ様。メアリーのように、ここに匠を軟禁するような真似をしたら……私が黙っていませんので、どうぞご注意くださいね?」
声音こそ丁寧だが、華奈の瞳の奥は一切笑っていなかった。
本当なら『威圧』のスキルでも発動してきっちり懲らしめてやりたいところだったが、これ以上無双をして国からの監視が厳しくなるのは面倒だ。
そう判断した華奈は、ひとまず冷徹な流し目だけで老魔法士を脅すに留めておいた。
「わ、わかっておる! たまに私の研究のために、自発的に来てくれたら嬉しいというだけじゃ!」
少女の放つただならぬ気配に冷や汗を流しながら、ヤーガはコホンとわざとらしい咳払いをして話を強引に切り替える。
「……そうじゃのう、魔法発動の練習方法を教えるとするかの」
「それは助かります。自己流だとどうしても発動に時間を必要としますので、どうかご教示願います」
こうして、最高峰の魔法士による二人の特別レッスンが幕を開けた。
それからというもの、匠と華奈は暇を見つけては研究所へ足しげく通うようになる。
※※※※※
「へぇ~、魔法剣なんて面白い武器があるのですね」
「まぁ、殆どの騎士が魔法を使えんので、無用の長物じゃがの」
練習の合間にパパ・ヤーガは面白い剣を見せてくれる。柄だけの剣だった。魔力を流し込むと光の刃が形成される。
メアリーが魔法だけで生み出していた、魔力を大量消費するソウルランスとは違い、少ない魔力で扱え、光属性なら驚異的な切れ味を誇り、ほぼあらゆる物を切り裂けるという。二人は内心でチートやチートやと復唱するのだった。
「これ、面白いよね。けど切先が光るので扱いづらいですね」
「近衛の標準品として作ったんじゃが、誰も使わんからお蔵入りじゃ。欲しいならくれてやるぞ、あはは」
パパ・ヤーガの熱心な指導により、二人は暇を見つけては研究所へ通った。
――だが数ヶ月後、ほとんどの魔法を習得したのは華奈だけだった。