「今日はなんにする?チキン?」
『ん〜チキンかな、てか何故英語?』
「いや何となく英語で言ってみたんだけど 」
『頭いったか幼児退行』
「お母さんに向かって酷くない?
泣いちゃうよ?」
『事実じゃないか、色々退行してる』
「いやまぁそうだけど」
私は金城千歌、40歳のシングルマザー
自慢の息子こと瑚一と二人暮しです
瑚一はこの前中学校を卒業しました
ですが、高校には通っていません
シングルマザーの私を支えたいと、そのまま就職して働いています
我ながら自慢の息子です
『何ニマニマしてんだよ』
「……」
『無視かい』
「いや?私いい息子持ったなーって」
『急に言われても反応できねー……』
蛇口をきゅっと捻ると水が出てきて
下に置いていた野菜一つ一つを包んでいった
『そういえばさ、車買わねぇの?』
「……車?」
『そう、車』
確かに車は無い
シングルマザーになった時に、余裕がなくて買わなかったのだ
確かにあったら便利だろう
だが何故だろう
今の話、無性にムカつく
「そうね、あったら便利ね
でもその話、何故か腹が立つわ
二度としないで」
『……』
返事は聞こえない
どうやら部屋に戻ってしまったようだ
少しきつく言いすぎたか
「謝らなきゃなぁ……後で」
そう言い、作った料理は
冷蔵庫に入れておくことにした
また、貯めてある料理が増えちゃった
そろそろ消費しなきゃ腐っちゃう
明日こそ、消費しなきゃ
私の名前は森 八弧
私は高野崎大学附属高等学校に通う一年生
「やこっち!次移動教室だよ!」
「え?ああ、うん。すぐ行くから待ってて」
明るい声の友達にかけられて気付いた
まだ準備をしていない、急いで準備しよう
次は理科の授業だ
教科書とノート、あと筆箱
結構暇な時間もあるから本を持っていこう
校則では許されているし、いいだろう
にしても、最近は上の空になることが多いな
前は結構集中できていたはずなんだが
やっぱり瑚一のことかな?
せっかくここの高校の推薦まで貰えたのに、働く道を選ぶなんて
国立の高校なんだから、来たら良かったのに
必死に勉強して受験した私が馬鹿みたいになるじゃないの、ふざけんな
そういえば、勉強教えてくれたのもあいつだったなぁ
優しくて、真面目で、ちょっと毒舌で、頭も良くて、かなり運動音痴な瑚一
みんなから愛されるいい人だった
今となっては普通の女子高生だけど、昔は芋っぽかった私にも分け隔てなく接した
国立を受けると言ったら、皆に笑われた
私はそれなりに頭は良かったけど、国立を合格できるほどの学力はあるかと言われればなかった
だけど彼は、私を笑わず、勉強まで教えてくれた
今は連絡出来ないけど、いつかまた感謝を言わねば
「今度行くか、あいつのところ」
「ちょっとやこっち!?遅れるよ〜!?」
「え!?嘘!?」
時計を見ると見るともうすぐチャイム時間だった
「うわやっばい!急がなきゃ!」
いつか、きっと
また会えるから
そんな言葉を、君は言っていたね
……またなんて、来ないかもしれないのに
無責任な約束、やめてよね
そういう所やっぱり嫌い
買い出しを終えると、見知った顔が目の前に現れた
「八弧ちゃん?」
「あ、千歌さん」
八弧ちゃんは瑚一が中三の時、一緒に勉強をしていた子だ。私もよく知っている。
時には毒舌で、時には面白い子だ
「久しぶりね!大人っぽくなったわ!」
「お久しぶりです、ありがとうございます」
「ところでどうしたの?高野崎は遠いから、一人暮らししてるんじゃなかった?」
「ああ、瑚一の所に行こうと思いまして」
息子の所に挨拶しに来たようだ
それなら連絡をくれれば、色々準備したのに
いや、そもそも瑚一は連絡先なんて教える子じゃないか。全く……
「そうなの?ならゆっくりしてきなさいな」
「……え?」
「ジュースダメだったわよね?麦茶でいいかしら?」
「その……」
「あ、そうだ林檎貰ってきたのよ。食べ__」
「せ、千歌さんッ!!!」
急に彼女が声を荒らげた
「ど、どうしたの?」
「私を馬鹿にしてますか……ッ?その事にどんな意味があるんですッ?」
急に声を荒らげたことにより、声が震えていた
「え?私は八弧ちゃんが瑚一に挨拶しに来たから、おもてなししようかと思ったのだけれど……」
私は思ったことをそのまま伝えた
すると八弧ちゃんは
『え、うそ…?』
と小声でいい、私に疑問の目を向けていた
私も私で訳が分からないので、疑問の目を彼女に向ける
すると彼女は、巨岩のように動かなかった口を切り開いて喋りだした
彼女の声が紡いだ事実は
残酷で
信じられたくて
目を背けてきたことだった
「千歌さん……瑚一は…」
「瑚一はもう、死んでます」
彼女が放った事
それは豪雨が如く私にうちついた
そんな訳ない、認めたくない
信じられるわけが無い
だって前さっきまで瑚一は家に居た
そんなはずない、有り得るわけない
有り得ない
ありえないことなんだ
そうやって脳を誤魔化しても、八弧ちゃんの真実の追撃は止まらなかった
「中学卒業式の日、帰り道で信号無視のトラックに撥ねられて、死にました」
いや
「私、瑚一と約束した
また、いつか会おうって」
やめて
「それを叶えられないまま死んでった」
やめてよ
「瑚一は、千歌さんを庇って撥ねられて、私が救急車の同伴で付き合いました 」
「千歌さんはそんなこと思える状態じゃなかったから」
やめてってば
「死ぬ直前、言ってた」
「『高校も、働く事も出来ず、親不孝な子でごめんなさい』って」
「もうやめてぇぇぇぇぇぇえええッ!!!!」
「……千歌さ_」
「そんな訳ないッッ!!朝だって昨日も瑚一は家に居たのッ!!!」
「なんでそんな事言うの!?理解できないッ!!八弧ちゃんがおかしいのよ!」
「千歌さん!」
「大体瑚一が私を庇うわけないじゃないッ!!!だって私はそんなことなってないもの!」
「千歌さんってば!」
「おいおいどうしたんだい?」
「近隣住民の方、ご迷惑おかけしてます!でも今は千歌さんを止めてください!」
「金城さん落ち着いてくれよ!」
「なんかあんたおかしいよ今?」
「おかしいのは八弧ちゃんの方よッ!口からでまかせ言って!勝手に瑚一を殺さないでよッ!?」
「瑚一くんはもう居ないよ金城さん!!お願いだから落ち着いてくれ!」
「黙りなさいよ!!!瑚一は死んでないッ!死んでないのよ!!」
「死んでないってばぁぁぁぁぁあああああッ!!!!」
親戚の人に家に入れられた
「瑚一、瑚一」
「瑚一、居るわよね?」
返事は、来なかった
思い出した
中学校卒業式の後、交差点で
私を押し倒して撥ねられた
運転手は捕まったけど
やっぱり私は許せない
「瑚一を」
「私の息子を返してよ…ッ……」
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え、神やん