テラーノベル
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その日、花斗はいつになく早く夕飯を食べ終わる。
「ごちそうさま!」
そう言うが早いか立ち上がり、お皿を片すことも忘れて、まだおかずを食べている壱月の手を引っ張る。
「いつき、ひこうき、しよ?」
「俺、まだごちそうさましてないんだよなあ」
壱月はそう言いながらも、どこか嬉しそうだ。
「ママでよければ、先に遊んでようか?」
「ヤダ! いつきがいい!」
私の提案を一蹴りし、花斗は壱月の手を引き続ける。
「ごめんね、落ち着きがなくて」
「いいよ。花斗が喜んでくれるのは、俺も嬉しいし」
壱月はそう言うと、残りのご飯を急いで掻き込んだ。
それからすぐに、壱月と花斗のおもちゃの箱の開封式が始まった。
「おお~」
箱から飛び出した本格的なディテールの飛行機のおもちゃを、花斗はそうっと手で握る。
こういうところは、やたらと慎重だ。
「ぶーんって、していい?」
「どうぞ。それは、もう花斗のだから」
「やった!」
花斗は嬉しそうに飛行機のおもちゃをかかげて、「ぶーん」リビングからダイニング、キッチンへと走り回る。
壱月はその様子を、目を細めて見守っている。
微笑ましい光景だが、私の胸の奥はもやもやし始めた。
あの笑顔をここまで育ててきたのは、私なのに。
そうやって、簡単に自分の手柄みたいに……。
やがて私の前でふと立ち止まった花斗は、それをこちらに見せつける。
「いいでしょ~」
「うん、ママにも見せて?」
「ヤダ!」
花斗は宝物を隠すように、飛行機のおもちゃをぎゅっと胸に抱きしめた。
そしてそのまま、壱月の元へ駆けていき、地べたにあぐらをかいていた彼の膝の上にちょこんと座る。
「これ、はね?」
「これは〝翼〟っていうんだ。こっちが右翼、こっちが左翼」
「へえ~」
まるで仲のよい兄弟のように話し始めたふたりに、私も入ろうと足を向ける。だが、花斗はこちらに手のひらをパーにして向けた。
「ママはダメ!」
――え?
花斗から、拒絶されたのは初めてだっただ。
私がなにをしたというのか。ショックに呆然と立ち尽くしていると、花斗はふいっと顔を背けた。
「ママは、なんでもダメっていう。なにもかってくれない。だから、ダメ。これは、ぼくといつきの」
壱月の膝の上で、飛行機のおもちゃを見つめながら花斗はそう言った。
「花斗……」
追い打ちをかけるように言われ、様々な感情と想いとが、山ほど頭から溢れてくる。
けれど、こんな小さな我が子にそれは伝わる気はしない。私はただそこに立ったまま、顔をしかめることしかできない。
「そっか、ママは厳しいんだね。でもそれは……」
言いかけた壱月のシャツを、花斗はきゅっと握る。
それで、壱月も黙ってしまった。
「ぼく、いつきが、パパがいい」
小さい声で、でも確かに花斗はそう言った。
パパって……。
なんでよ、私が今まで、花斗のために、どれだけ……。
――なんて、そんなこと、言えない。
子どもにとっては、目の前にあるそれが真理だから。子どもの素直さは、時に残酷だ。
目の前で壱月のシャツを握り続ける花斗と、こちらに向けた視線をさまよわせる壱月。
ふたりを見ていると、悲しみと怒りがないまぜになってあふれてくる。
私の目頭が、じわんと熱くなった。泣きたいわけじゃないのに。
「……ごめん。ママ疲れちゃったから、先に部屋にいくね」
なんとか涙をごまかし笑顔を張り付けると、私はそのまま部屋に逃げ込んだ。
コメント
1件
うわあ、この話、胸がぎゅっとなる…。 花斗くんが「ママはダメ」「パパがいい」って言ったシーン、すごくリアルで刺さったよ。ママが今まで頑張ってきたのに、子どもにはそれが見えてないっていう切なさ…。壱月さんが悪いわけじゃないけど、でも読んでるこっちももやもやする。この感情の描き方がほんとに丁寧だと思う。続き、すごく気になるよ。