ここなは高校に入ってひと月。
華道部では副リーダーのように頼られていた。
先輩のゆあもやさしく、穏やかで、ここなが唯一安心できる場所。
ただ、校舎のどこかで、
“ゆりな”という名を聞くと胸が締めつけられた。
まだ気づいていなかった。
ゆりなが、ここなの“存在そのもの”を飲み込んでいくことを――。
五月の午後、華道部の部室には花の香りが満ちていた。
「ここな、その枝の角度いいね。流れが綺麗。」
ゆあが微笑む。
その笑顔は、弱った心に触れるとじんわり温かい。
だけどその空気を破るように、
部室のドアが強く開いた。
「……なに、この静かな部活。」
村上侑里奈が立っていた。
理事長の娘。強気で、誰も逆らえない存在。
ゆあがすぐゆりなの前に立つ。
「侑里奈。ここ華道部。うちの可愛い部員に何か用?」
「別に? ただ陰キャの集まりってどんなとこかなって。」
ここなの肩がビクッと跳ねた。
ゆあの目が鋭くなる。
「侑里奈、あんた何しに来たの?」
「青澄のことで聞きたいんだけど?」
ゆあの眉がわずかに動く。
呼吸が浅くなるここな。
ゆりなの視線に刺されているだけで、胸が苦しい。
(やだ…こわい…)
ゆあは一歩前に出てここなをかばう。
その瞬間、ゆりなの口角がにやりと上がった。
「……ふーん。やっぱり“弱い子”か。」
その言葉がここなの胸に深く刺さった。
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神ってます!!!