愛されてるって分かって

渡辺ーお婆ちゃんに怒られた。

目黒ーなんて？

渡辺ーもっと目黒を信じろって。

目黒ー何で出来なかった？

渡辺ー夏になると弱くなっていく。

目黒ーもう大丈夫だって言った。

渡辺ー信じない。

目黒ーこの夏、乗り越えたら、信じる？

渡辺ー・・ん。

目黒ー帰るよ？

渡辺ー・・。

目黒ーお婆ちゃん、連れて帰る。

渡辺ーこの俺でいいの？

目黒ーこの坊は、寂しがりやだから、連れて帰れって。

渡辺ーばか。

車内は，静か。渡辺は窓の外を見ている。目黒の家に着いたが、渡辺は降りない。目黒が手を引き、渡辺を車から出す。

玄関でも同じ。動かない。

強く手を握り、連れて入ってきた。いつものソファの位置。

目黒ーもう村上と会うことないから。

渡辺ー何した？

目黒ー親友の渡辺を使って、俺が仕事出来なくしてた。俺は何も知らなかった。渡辺が犠牲になって俺の仕事を守ってくれてた。

上の人にそう言った。そしたら、村上を解雇してくれた。

渡辺ー俺のこと・・。

目黒ー暴力受けてたって言った。

目黒が渡辺に近づく。そっと手を差し出す。渡辺は微かな震えと共に目黒の手に自分の手を重ねる。

渡辺ーあの、消えるまで待って？

目黒ーキスマークは待てるけど、傷は待てない。

渡辺ー・・。

渡辺は、目黒から離れて窓から外を見る。夜景を見つめ、小さな声で震えながら言う。

渡辺ー呆れた・・だろ。

目黒ー・・。

渡辺ーばかだから、他の方法が分からなかった。ただ、仕事を守りたい。それしか考えなかった。

目黒ーこんな、嫌な目に遭っても？

渡辺ー俺で、何とかなるなら、それでいいかと思った。

目黒ー俺の身体だよ？大丈夫だって言ったら大丈夫。

渡辺ー嘘ばっかり。昨年も、寝てる眠れてるって言ったくせに、睡眠不足だなんて。

目黒が後ろから渡辺を包むみたいに両手を窓につき閉じ込める。

うなじにキスしようとしても、ガラスに映る目黒を避ける。

渡辺ーごめん、触れないで。

目黒ー消えるまで？

渡辺ーん。

目黒ー１週間ってとこだね。

渡辺ー1番酷い傷はもっとかかる。

目黒ー待たない。

渡辺ー目黒・・。

目黒ー練習も、来るね？

渡辺ーん。

一緒に眠れないと言う。ソファに寝ると言う。目黒はもう、何も言わなかった。相変わらずタートルを着てる。目黒に見せたくないのだ。目黒も、気にしないと言えば嘘になる。

目黒ーちゃんと、この家に帰ってきて？

渡辺ーん。

目黒ー何もしない。

渡辺ーごめん。

目黒ー１週間だから。

渡辺ー残ってたら？

目黒ー消えるまで待てる。ただ首の傷は待たない。

寝室で、目黒は小さく泣きながら、梨花に電話している。

渡辺が自分の身体を差し出して、目黒を守ったこと。触れさせてもらえない。一度は捨ててと言ったこと。悔しくて涙が出てくる。

渡辺を大事にしなさいと言われて、何度も頷く。

梨花は2度と巡り会えない素晴らしいパートナーね、と言う。

目黒は、頭が上がらないと言う。

少し笑えるようになった目黒。渡辺を愛し抜くと梨花に誓う。

電話を切ると、リビングから、小さな声が聞こえてくる。そっと寝室のドアを開ける。

渡辺ーやめて・・しないで・・。

渡辺ー出来ない・・ごめんなさい・・。

うなされている。

目黒は静かに渡辺に近づくと、ホントなら、抱きしめてキスしたい。でも、触れさせてもらえない。

そっと唇に唇を押し当てる。

すぐ離れて、渡辺の様子を見る。

泣きながら寝てる。

静かに離れ、寝室に戻る。

目黒ー翔太・・。

辛い１週間が始まる。

目黒は、窓の外を見ながら、タバコを吸ってる。

続く