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意識が覚醒した俺は急いで『太刀 鑢』を構え、氷使いの手を取って引き寄せる。『深層・黒影領域』を使用し、氷使いのみを影の中へ収納した。
それと同時に、氷使いの魔導書を斬る為に俺は刀を大きく振り上げる。
「………やっぱりな」
偽物との戦いの中、一つだけ気付いた事がある。それは偽物が氷使いに対して、異様なまでに執着している事だ。
一度目の遡行の時、俺が魔導書を斬ろうとして、偽物は『疾風迅雷』の下位互換術を使用して俺を殺した。
二度目の遡行の時、俺が氷使いと共に影の中へ入った際に偽物は術を使って、俺達を影の中から追い出した。
―――そして、今。『魔導書を斬る』と『影に氷使いを入れる』の工程を別々に行った時、偽物は背中から大太刀を取り出して地面へと突き刺した。
何らかの詠唱を終えた後に、大太刀を更に深く差し込み、 足元から半径10m程の魔法陣が現れてその輪っかは次第に広がり始める。
その輪っかに触れ、影から弾き出された氷使いは慌てて着地に必要な氷を生成する。
「うぉぉぉぉぉぉらァァァァっ!!」
ソレを合図に、俺は全員に宿る渾身の一刀を振り下ろし、魔導書を完全に真っ二つに斬った。
魔導書の断面から魔力が大量に溢れ出し、その魔力の渦は氷使いの体内へと物凄い勢いで吸収されて行く。
―――偽・魔術師から純粋な魔術師への進化が始まる。
それを見ていた偽物は氷使いの方向へと体を向け、大太刀を構えて攻撃の準備段階へと移行する。
偽物は大太刀を大きく振りかぶり、魔力を吸収することに集中している無防備な氷使いを狙って、ゆっくりと息を吐く。
偽物の顔面に口は無く、その他の器官は見当たらないが、肩の動きや手の構えからして『疾風迅雷』と同等の大技を使用する為の深呼吸をしているのだろう。
魔導書から溢れ出し魔力の終わりが見え、最後の魔力が氷使いの中へ入り込んだのを見届けた偽物は、顔を正面に向けて力強く一歩を踏み出す。
大太刀は一本の線を引くかの如く繊細で正確な一閃を描き、座り込んでいた氷使いの体へと近付いた。
「『空間転移』」
だがその刃が氷使いの命を奪う事無く、ただ何も存在しない空間を斬り裂いただけだった。
俺はギリギリまで氷使いに偽物を近付け、寸前の所で『空間転移』を使って氷使いを回収し、全ての準備工程を終了させる。
「ちょっとした試練は乗り越えた……が、キツイのには変わりねぇな」
………本当は『空間転移』を使う予定ではなかった。『疑似創造』の連発用と何かあった時に『狂刀神ノ加護』に、と思っていたが、他に手段がなかった。
ここからはノープランでの戦闘になる。極力負傷を避けて『治癒の術』を使用せずに妖力を節約したいのだが。
「………っうお!?」
考える為に意識を偽物から逸らした一瞬、偽物の大太刀が俺の顔面スレスレで通過する。大太刀の刀身が眩しく輝き、俺の顔を綺麗に反射していた。
もし、ほんの少し動きがズレていれば、刀が首を貫通してそのまま脳天まで真っ二つになっていた。
「っぶねぇなァ!!」
回避した状態から一歩右に強く踏み出し、偽物の何も無い顔面を狙って『太刀 鑢』を真横に振る。
やはり大太刀を振り下ろした後は少し動きに硬直があるようで、俺の攻撃を避けることは出来ない。
そうして『太刀鑢』の刃が額から後頭部まで突き進み、偽物の頭を完全に切断した。
流石にどの生物であれ、思考を巡らせる箇所を潰せばその後の活動は不可能。偽物は大太刀を手放してその場で倒れ込んだ。
「………でもまァ、この程度で死ぬ訳ねぇよな」
偽物は斬られて地面に落ちた頭を広い、帽子を被るかの様に元あった頭の部位に戻した。触れた瞬間に回復したのか、歩き始めても真っ二つになった頭が外れる感じはしなかった。
「………『治癒の術』か。今の俺が持つ術とは比べ物にならない程の治癒速度だな」
俺の言葉に反応したのか、偽物はその場で立ち止まり、もう一度頭の位置があっているかどうかを確認した。
顔の大半を覆っている手がゆっくりと外され、その手は再び大太刀の元へと戻る。
来る、次の攻撃が来る。俺の知っている術を使うか、それとも未来の俺が使う技を見せるのか。
互いに武器を同じ格好で構え、同じタイミングで大きく深呼吸をする。
「………はッ!!」
「………ッッ!!」
同時に動き出した俺と偽物、速度も 同一。術を使った形跡は無い。
俺の『太刀 鑢』と偽物の大太刀がぶつかり合い、火花が散った際も、術を使った様子は無い。
「まさか俺と、単純な剣技で戦おうってのか!?………………おもしれェ!!」
俺は刀を水平にし、レイピアを扱うかのように 突き攻撃を繰り出す。しかし、偽物は五度の攻撃全てを避け、大太刀を力強く振り下ろす。
振り下ろされた大太刀を、両手で握った『太刀 鑢』で受け止めた。
大太刀を真横へと流して、がら空きになった偽物の胴体を狙う。
「貰ったァ!!」
隙が生じた偽物を逃さないように、油断した俺を偽物は見逃さない。
勝ちを確信して移動する『太刀 鑢』より早く、俺の右足の隣に流した大太刀が角度を変えて再び加速する。
俺は本能的に『太刀 鑢』を振り下ろすのを辞めて大太刀が進む先を予測し、防御に徹した。
その結果、全霊の大太刀を受けた『太刀 鑢』と俺は吹き飛ばされて少し離れた所に着地する。
「………まず
その結果、全霊の大太刀を受けた『太刀 鑢』と俺は吹き飛ばされて少し離れた所に着地する。
「―――ッどらァ!!」
着地を狙って急接近してきた偽物の頬に向かって右手を強く突き出し、慣性の法則と俺の力が合わさった渾身の殴りが完成した。
俺が反応出来た事に驚いたのか、少しその場で考え込む素振りを見せて、偽物はまた立ち上がる。
「…………『遡行』の地点が短くなってんな」
一度死んだ、それも死んだ事に気付かない程に早く、命を刈り取られた。
そして、ここで死ぬ度に、『遡行』の更新地点が少しづつ短くなっている気がする。それが本当かどうかは断言出来ないが、予感はする。
これで三度目の遡行。恐らく、次は無い。
立ち上がった偽物は大太刀を構え、俺に急接近した。俺もそろそろ慣れてきた様で、直ぐに『太刀 鑢』を振って対応する。
互いの刀が一度や二度ならず、何度も交わり火花を散らす。
「右、上、左、上、左、下!!」
何となくだが、攻撃のパターンが読めてきた。
目の前にいる『俺』は所詮、狂刀神が作り出した命の無い人形。生きている生物を相手にすれば、相手も学習して攻撃の手段を変更する。
だがこの偽物は、毎度同じ攻撃方法で先読みがし易い。一度見極める事が出来れば、多少は楽になる。
「無駄だって言ってんだろ!!」
右膝で偽物の腹部に蹴りを入れ、後退りした瞬間に偽物の顔面に殴りを決め込む。
しかし、偽物に直撃したはずの拳は動く事無く、その場で静止し続けていた。硬い、偽物の頭は岩のように硬い。逆にこっちの拳が割れそうだ。
顔面に拳を受けたまま、偽物は大太刀を振り回して反撃に移る。
「………っぶねえ!!」
偽物が大太刀を大きく振り、俺は勢い良く仰向けになってギリギリで回避する。その行動によって、重なっていた俺と偽物の動きがズレた。
「―――『零嵐』!!」
そのタイミングを見計らっていたかのように、仰向けの俺の真上を 尖った氷が螺旋を描いて飛翔し、偽物の胴体を貫いた。
俺はすぐに立ち上がって地面に膝を着いた偽物を眺める。
この氷に背後の忌々しい気配。古い魔導書を斬り、新しく生み出された魔導書を片手に佇む魔術師が一人。
「………魔術師に成ったか、氷使い」
「そんな顔で見ないでくれ、魔術師を忌み嫌うのは分かるが、今だけは目を瞑ってくれ」
未来の妖術師を真似た偽物との戦いの中、少しばかり衣装が派手になった氷系統魔術師『氷使い』―――否、氷系統魔術師『小鳥遊 渚』が今この瞬間に誕生した。
そして、信頼出来る仲間の中に倒すべき敵が現れた瞬間でもあった。
新たなる魔術師の誕生から数分が経過した。 未だ俺と偽物の攻防は終わることなく、斬り合いを繰り返し続けている。
最強を誇る妖術師相手に手も足も出ない状況で、このまま消耗戦にでも持ち込まれたら俺の負けは確定してしまう。
そうならない様に適切なタイミングで攻撃を仕掛けるが、偽物には届かない。
「………クソ、化け物が」
だが、俺の攻撃が届かなくても『魔術師』の攻撃は届く。
先程、氷使いが偽物の胴体に空けた穴は治癒の効果を受け付けず、失われた肉体は復活しなかった。
『妖術師と魔術師は対の存在』の特性を上手く利用し、偽物の行動範囲を俺が狭め、氷使いの 魔術で肉体を削って行く。
これが今一番、最善の作戦だ。
「些か脳筋が過ぎると思うけど……!!」
偽物が持つ大太刀の尺度と攻撃時の移動速度を予測して、俺に向かってくる瞬間を狙って氷使いは何度も攻撃を繰り出す。
動きが鈍くなった偽物を横目に、俺は楕円を描くように偽物の周囲をグルグルと周り続ける。
「今だ!!」
俺の掛け声が聞こえると、氷使いはまた氷を生成して偽物にダメージを負わせた。
楕円を描くように走る理由は 偽物と俺が重なって巻き添えを喰らわない為であり、円の内側に偽物を留める事で氷使いが偽物へ攻撃し易くする為だ。
この作戦は上手く行った様で、徐々に目に見えて偽物は以前までの動きは見せなくなって来ていた。
「『列狂 深紅桜』」
自らの『運』と『妖力』を犠牲に、刀身が淡い紅色を帯びて夜桜のように美しい一閃を繰り出す術、発動。
妖術に気付いた偽物は大太刀を構え、防御の体勢に入った。その構えからは “術を完全に受け切る” という強い意志を感じた。
………そんな偽物には悪いが、この『列狂 深紅桜』はそんな簡単に護れる術ではない。
「その覚悟は見事。だが、同じ妖術師だからと俺を侮ったのがお前の敗因だ」
あの時に魔導書から溢れ出したのは、魔力だけではなかった。呪術と妖術、そのどちらもがとめどなく流れ続け、俺は膨大な妖力を間近で浴びた。
そして、この空間は『狂刀神』が作り出したモノ。ここに居続ける限り、俺は 常時『狂刀神ノ加護』を使っている状態となっている。
―――空気が歪み、妖力が集い、一点に収束する。
「『疑似創造』」
全身の妖力を『太刀 鑢』に込め、形状を徐々に変化させて古き黄金の剣を創り出す。
それを見ていた偽物が膝を着いたまま動かず、片手を前に出して何か詠唱を始めた。足元に巨大な魔法陣が展開され、偽物は勢い良く手を握りしめる。
「まさか、防御の術!?妖術師!!」
氷使いが俺を呼んだと同時に、偽物との間に巨大な壁が生成される。普通の攻撃では破壊より先に傷すらつかない程の頑丈さがある壁だ。
握り締めた剣を下に構え、ただ一点に全てを集中させる。偽物が居るであろう地点、その場所目掛けて。
「『選定の剣よ―――
何も無い真っ暗な空間で、異様な程に光を放つ剣。それは妖術師の偽物をこの世から抹消する聖なる光。
―――導き給え』!!」
盛大に振り上げられた剣。そこから放たれた眩い光は真っ黒な地面を抉り、目の前の壁に強く激突した。
直視すれば失明してしまう程の光が空間を包み込み、巨大な壁が少しずつ蒸発して行く。
「壊れろおおおおおお!!」
有り余っている妖力を全部注ぎ込み、『選定の剣よ、導き給え 』は更に勢いを増して威力が増加する。
例えこの先にいる偽物が未来の俺だとしても、『列狂 深紅桜』と『選定の剣よ、導き給え』が合わさったこの攻撃は防ぐ事が出来ない。
「……………ッ!!」
限界点を越えた巨大な壁に人間が一人通れる広さの穴が開き、そこから莫大なエネルギーを保有した光が溢れ出して偽物に直撃した。
ジリジリと何かが焼ける音と共に、偽物の足元にあった魔法陣がどんどん小さくなって行く。
「―――妖術師!!」
自身の魔術で生成した氷の剣を持ち、開いた穴に向かって氷使いは走り出した。
勿論、この光は魔術師を殺す聖なる光でもある為、氷使いが触れれば全身に激痛が巡り、下手すれば死に至る。
しかし氷使いはそれを全て承知した上で、光を浴びて崩壊した穴を潜り抜ける事に成功した。
氷使いの呻き声が聞こえるが、今ここで『選定の剣よ、導き給え』の攻撃を辞めれば偽物は確実にまた動き出す。
俺は氷使いを信じている。信じているからこそ、俺はこの光を途絶えさせない。
「頼んだ、氷使い!!」
妖術師の光に触れた瞬間、身体のありとあらゆる箇所に痛みが走り、私は耐えきれず激痛でその場に倒れ込んだ。
皮膚は焼け、内側から何かが蝕む感覚が無くならない。立ち上がることすらままならない状態だった。
「…………い………痛い……!!」
けれど、私は進まなくちゃいけない。
『声』が言っていたこの試練は、妖術師と『京都の魔術師』を討伐するに相応しいかどうかを見定めるモノ。
「………わた、しは!!」
私が偽物に勝たなければ、この試練は終わらない。
立ち上がって真正面を向き、偽物と目が合う。偽物も同様に私の方を向いて手を差し出す。
攻撃、では無い。何かの術を使用する感じもしない。ただ、私に手を差し出している。
私は背中で『選定の剣よ、導き給え』の光を受けながら、偽物の手に歩み寄る。
「…………きみは」
手に触れようとした刹那、偽物の腕が徐々に崩壊して行き、指先さら肩の方まで粉々に消え去った。
自身の死を悟った偽物は、残った左腕で足元に何か文字を書いて顔を上げた。
偽物の顔は、相変わらず何も無く、表情一つすら見えない。まるでのっぺらぼうの様な感じだが―――私には分かる。
この程度の敵を倒せず、京都の魔術師を倒すのは不可能。と、偽物は告げている。
「………そうだね、私は魔術師だ。魔術師は魔術師の………役目を果たす…!!」
『選定の剣よ、導き給え』の光で破壊されないように、私は自身の胸元で小さな氷で出来た短剣を生成する。
私は光に当たらない角度で、勢い良く短剣を偽物の首元に突き刺した。
「……………。」
偽物は何も言わない。妖術師との戦いで見せた感情に近い動作をすることも無く、身体の端から少しずつ灰のように散って行く。
偽物は何も動かない。抵抗もせず、自身の死に絶望せず、ただ起きるありのままを偽物は受け入れている。
「………さようなら、妖術師」
私が片手を上げた数秒後に、『選定の剣よ、導き給え』の光が途切れて足音が近付いて来る。
別れの言葉を口にした私は、偽物の肩に手を置いてそのまま静かに見送る。
偽物は何も―――、
「………変わらねぇな、氷使いは」
確かに、私は見た。
偽物に無かった表情が、顔が、目が口が鼻が耳が、確かにあった。 偽物は最後に 笑顔で ソレだけを言い残して、身体の全てが崩壊して 消滅した。
突然の出来事に私は驚いて言葉が出ず、ただ本当に偽物を見送ることしか出来なかった。
「………これは」
散った偽物がそこに居た事を示すかのように、地面に一言だけ文字が書かれていた。
何も見えないはずの真っ黒な地面に、明るく全てを浄化する聖なる光を利用した字がそこにはあった。
「…………《つぎのようじゅつしをころせ》………次の妖術師を、殺せ?」
次、とは何か。
偽物が残したこの文字の意味が、私には理解出来ない。 この世界に残っているのは、私の方に駆け付けている妖術師のみのはずだ。
もし、仲間の妖術師を殺せという意味だとしたら、一人しかいない妖術師に対して『次の』の言葉は必要ない。
一瞬、自身を妖術師と偽って記憶を改変していた偽・魔術師を思い浮かべたが、あいつは偽・魔術師であって本当の妖術師では無い。
ならこれは誰の事を指している。まだ別に妖術師の生き残りがいるのか、それとも―――、
「氷使い」
恐らく偽物の討伐で試練を終えたはずの氷使いは、下を向いて何か考え事をしていた。
正直、この場合に声を掛けるかどうか迷ったが、晃弘と創造系統偽・魔術師の安否が分からない以上、急ぐ必要がある。
そう思って氷使いに声を掛けたが、やはり何か考え事をしているようで、反応が無い。
「おい、氷使い。聞いてんのか?」
氷使いの顔に元に戻った『太刀 鑢』を近付けた瞬間、氷使いはハッとした表情をしてやっと我に返った。
「氷使い、よくやった。魔術師になった氷使いを殺すかどうかは後々考える事にして、さっさとここから出ないとな」
俺は何も無い空間を見上げて『狂刀神』に問いかける。
「これで試練は終わった。氷使いは京都の魔術師を殺すのに相応しい術師になったはずだ。そろそろ俺たちを元の場所に戻してくれ」
俺たちの戦いを眺め続けていた狂刀神に聞きたいことが沢山あるが、いまはどうでもいい。先を急ぐ用事を優先しなければならない。
『………ヤツに勝った以上、お前達を認めざるを得ん。手短に話してやる、後ろを向け』
狂刀神の声が背後から聞こえ、俺は指示通りに後ろを向いた。氷使いも同じように後ろを向いて、俺と同じように驚愕した。
「………父、さん?」
俺の父親『八重垣 肇』の姿をした人物が、即席の骸骨で作られた玉座の上に座っていたのだ。
父は死んだ。俺がまだ妖術師の全てを教わりきってない頃に病気で死んでしまった。
そんな父が、ましてや狂刀神が、俺の父親、いや分からない、何がどうなっている、父は生きていたのか、それとも父は元から―――、
『………お前、我が八重垣に見えるのか?………そうか、お前にはそう見えるのか』
狂刀神はそう言った後に、氷使いを指さして問う。
『氷使い、お前には我が何に見える?』
氷使いは驚いた表情から納得の表情へと変化し、ゆっくりと微笑みながら狂刀神の問い掛けに対して答える。
「………私の、お父さんに」
『ク……クハハハハハハハ!!そうか、そうなるのだな。 妖術師よ、お前には我が八重垣に見えているだろうが、それは間違いだ』
『人では神としての我を認識すら出来ない故、お前達の記憶から引っ張り出した人物を重ねて可視化出来るようになっている』
少々難しい話ではあるが、簡潔に説明すると。
肉眼では見ることが出来ない『赤外線』を『携帯のカメラ』を 使用して視認出来るようにする。
と、言う訳だ。
『そして確かに、試練を作り出したのは我だ。だが………氷使いを選んだのはお前だ。お前自身がこの空間を創造し、氷使いを引き込んだ』
「つまり、試練を受けさせる為の場を妖術師が用意して『声』が内容を作った。そうして一種の領域が完成し、妖術師は無意識で 試練の対象に私を選んだ。って事で間違いないかい?」
狂刀神の意図を汲み取った氷使いは言った。そうだ、と玉座に座っていた狂刀神は笑いながら立ち上がる。
一歩、こちらに近付く為に足を踏み出す。その行為を見た俺の背中から、大量の冷や汗が出て止まらない。
ただ狂刀神が積まれた骸骨の上を歩いているだけ、ただそれだけなのに。膝が震える。
………狂刀神は、妖術の加護によって複製された贋作の様な存在と言っても過言ではない。だが、やはり神としての力は健在なのか、どうしても狂刀神の前だと体が動かない。
『戯言と試練は終わりだ、さっさとこの空間から出て行け。妖術師が作り出したとはいえ、ここの統括は我が行っている』
『…………その前に氷使い。お前、大天狗との戦いの最中、視線を感じて身動きが取れなくなったと言うのは本当か?』
俺と同じように体が硬直していた氷使いは、何ともない顔でそのまま頷いた。
『………ほう、ならば我と同じ神に近い力を持つ者が居るのやもしれぬな。いつ以下なる時も油断は禁物だ、それが分かったならさっさと行け』
顎で出て行けと指示を出した狂刀神を横目に、動けるようになった俺と氷使いは周囲を見渡す。
狂刀神の示した方向に、白く大きな扉が現れて自動的に開いた。 恐らくアレが出口、元の場所に戻るためのゲート。
「………お前の神器、また使わせて貰うぞ。ちゃんと加護の術は使ってんだ、そんときゃ文句言うなよ」
『………チッ、神器に南京錠でも付けておくべきだったな』
互いに互いを嫌ったまま、試練を終えた俺たちは出口を跨ぐ。
その間、狂刀神は鋭い目つきで俺を睨んでいたが、先程のような威圧感は感じられず、体が硬直することもなかった。
出口の外に広がる光の景色が眩しくて、俺は少し目を細める。それに対して隣にいた氷使いは何事も無い感じで前へと進む。
その氷使いの顔には、ただ純粋な笑みがあった。
目を覚ました時には、体のありとあらゆる場所に激痛が走り、俺は思わずその場に倒れ込んでしまった。
あの空間に飛ばされる前、陰陽師と戦っている最中に俺たちは戻ってきた。
と言っても、ここに陰陽師は居ない。戻されたのは場所だけであり、時間は変わらず進んでいた。
「こ……これは、やべぇ……」
死にかけている俺の真横で、横たわっていた氷使いが遅れて目を覚まし、俺の体を見て驚き飛び上がった。
「ど、どうなってるんだい!?さっきまで普通の状態だったのに――― まさか敵襲!?」
「い…や、狂刀神のとこ……に飛ばさ…れる前………に……ちょっとな………」
陰陽師の件は未だ不明なことが多く、確信が持てない部分が多い。
そしていまこの瞬間に、誰が何処で俺たちを見ているか分からない以上、ペラペラと喋る訳にもいかない。
陰陽師についてはまた今度、安全で全員が揃った時に話すとしよう。
「そ、そうだ……!!晃弘さんに創造系統偽・魔術師は……!!」
他の術の使用を全て遮断し『治癒の術』に専念していたおかげか、 少し体は楽になり、膝を着いて座れるまでには回復した。
俺は満身創痍の体で無理やり立ち上がり、二人を探そうとヨロヨロな足で歩き始める。
それを見ていた氷使いは俺の肩に手を伸ばし、倒れそうな俺をなんとか支えた。
「そんな体では無理……と言いたいが、私も捜索するのには同意だ。いち早く状況を理解しなければ」
そう言って俺と氷使いはゆっくりだが一歩一歩確実に歩き出し、この辺りにある少し開けた地点を目的地に移動を開始する。
今は日暮れが近付いてきた頃、太陽が完全に沈んだ後だと探すのは難しくなる。
なるべく早めに二人を見つけたい………と、思っていた矢先。
「………なにか、聞こえるぞ」
ここから少し離れた地点から、何者かが超高速でこちらに接近して来ている。
この速度で、この距離で感じる魔力の圧。偽・魔術師で間違いない。そして俺たちを狙う偽・魔術師となれば、京都の魔術師の手下の可能性がある。
「下がれ、氷使い。俺がどうにかする 」
氷使いの支えを振り切り、俺は影から『太刀 鑢』を取り出して正面に構える。
未だ接近する気配が止まる様子はない。このままの速度を維持したまま、俺に攻撃を仕掛けるつもりだろう。
「………『氷解銘きょ
「―――妖術師さん、惣一郎さんから伝言です!!」
木々の影から飛び出して来たのは敵ではなく、俺が探していた人物の一人。『創造系統偽・魔術師』であった。
創造系統偽・魔術師は慌てた表情で息を切らしながら、体に引っ付いていた葉っぱを急いで落とす。
いや待て、この創造系統偽・魔術師は今何と言った?誰の名前を出した?誰が何をしたと?
「その顔的に疑問を感じているかもしれませんが、それどころじゃないです!! ―――存在しないはずの、 もう一人の妖術師が現れました!!」
「…………………は?」
「…………………え?」