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今回一応、番外編?です
番外編:いふが“ほとけ”に語る夜
―見届けた愛、言葉にできなかった記憶―
夜風が、初夏の匂いを運んでいた。
川沿いのベンチにふたり。
コンビニで買った缶コーヒーを片手に、ただ並んで座る。
「なぁ、ほとけ。
お前、りうらとないこのこと……どう思ってた?」
静かにそう言ったのは、いふ。
普段は冗談ばっか言ってるくせに、
今夜のいふは、やけに“静か”だった。
「どうって……昔のこと?」
「うん。
あいつらが、“壊れてった”あの頃。
俺ら、止められなかったやん」
ほとけは、少し黙ったまま、コーヒーをひと口。
夜空の下に、川の水音が続いてる。
「俺さ、この前、見たんよ。実際に。
今、ふたりが暮らしてる施設。山の奥にあるんだけど」
「え……会いに行ったの?」
「いや、会ったってほどじゃない。
ただ、見ただけ。
中庭で並んで座ってて……なんやろな、信じられんぐらい、穏やかやった」
◆
「でも、それがさ――怖かったんよ。
あのふたりの空間、完全に“ふたりだけ”の世界になっとって。
誰も入られへんし、誰も必要としてへん」
「…………」
「俺、なんか……“本物の愛”って、こういうことなんかなって思った」
ほとけは少し、目を細めた。
そしてぽつりと。
「いふくん、まだ背負っとるんだね。あの頃のこと」
「……ほとけ」
「ねぇ、いふくん。
いふくんがあいつらに“何もできなかった”って思うのは自由。
けど、いふくんがそのあと、“見届けた”ことも、ちゃんと価値あるでしょ」
いふの目がわずかに揺れる。
「……なんで、そう言い切れるん」
「僕も、昔“壊れかけた側”だったから。
いふくんが横にいてくれたこと、今でもはっきり覚えてる」
その言葉に、いふが沈黙する。
やがて小さく笑った。
「……お前、ずるいわ。
お前にだけは、隠されへんのやから」
「うん。だから、今もこうして聞いてるんだよ」
「ふたりは、もう戻られへん。
でも俺、あいつらのこと“よかった”って、
初めて思えた気がするんよ」
「よかった?」
「愛されてた、ってこと。
俺は見たんや。
りうらがないこの指にキスして、
ないこが泣きながら微笑んでた。
世界なんか、あのふたりにとってはどうでもええんよ。
ただ、“ふたりで在る”ってことが、すべてなんやって」
◆
静かな夜風が、ふたりの間を通る。
ほとけは、そっといふの肩にもたれた。
「僕もさ、
いふくんと並んでるこの時間が、
“すべて”でもいいけどな」
いふは少し驚いて、
それから吹き出した。
「……バカ、急に何言うねん」
「ほんとのこと。
僕はいふくんに救われた。
今度は僕が、いふくんの後悔を少しでも軽くしたいの」
いふは黙って、ほとけの手を握った。
この愛は、“正しさ”なんかいらん。
ただ、
壊れずにここにいる。
ただ、
もうひとりで背負わせない。
あのふたりが見せてくれた、
壊れてでも“本物”だった愛。
それに比べれば、
俺たちはまだ、不器用で、臆病かもしれないけれど。
それでも、“今ここにある優しさ”は、
誰のものでもない、俺たちだけのもんやろ。
夜が深まっていく。
川の音に紛れて、誰も知らない“ふたりの語らい”が静かに続いていた
コメント
4件
おっほw(?? なんかすごいやばいって!!!((語彙力壊滅事件
わあああ!えなんかスッゴい好き!w 缶コーヒー......って......美味しいの......?w