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『本当の地獄を見せてあげる♡』

9 - 番外編:いふが“ほとけ”に語る夜

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2025年06月24日

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今回一応、番外編?です









番外編:いふが“ほとけ”に語る夜


―見届けた愛、言葉にできなかった記憶―


 


夜風が、初夏の匂いを運んでいた。

川沿いのベンチにふたり。

コンビニで買った缶コーヒーを片手に、ただ並んで座る。


「なぁ、ほとけ。

お前、りうらとないこのこと……どう思ってた?」


静かにそう言ったのは、いふ。

普段は冗談ばっか言ってるくせに、

今夜のいふは、やけに“静か”だった。


「どうって……昔のこと?」


「うん。

あいつらが、“壊れてった”あの頃。

俺ら、止められなかったやん」


ほとけは、少し黙ったまま、コーヒーをひと口。

夜空の下に、川の水音が続いてる。


「俺さ、この前、見たんよ。実際に。

今、ふたりが暮らしてる施設。山の奥にあるんだけど」


「え……会いに行ったの?」


「いや、会ったってほどじゃない。

ただ、見ただけ。

中庭で並んで座ってて……なんやろな、信じられんぐらい、穏やかやった」


 



 


「でも、それがさ――怖かったんよ。

あのふたりの空間、完全に“ふたりだけ”の世界になっとって。

誰も入られへんし、誰も必要としてへん」


「…………」


「俺、なんか……“本物の愛”って、こういうことなんかなって思った」


 


ほとけは少し、目を細めた。

そしてぽつりと。


「いふくん、まだ背負っとるんだね。あの頃のこと」


「……ほとけ」


「ねぇ、いふくん。

いふくんがあいつらに“何もできなかった”って思うのは自由。

けど、いふくんがそのあと、“見届けた”ことも、ちゃんと価値あるでしょ」


 


いふの目がわずかに揺れる。


「……なんで、そう言い切れるん」


「僕も、昔“壊れかけた側”だったから。

いふくんが横にいてくれたこと、今でもはっきり覚えてる」


 


その言葉に、いふが沈黙する。

やがて小さく笑った。


「……お前、ずるいわ。

お前にだけは、隠されへんのやから」


「うん。だから、今もこうして聞いてるんだよ」


「ふたりは、もう戻られへん。

でも俺、あいつらのこと“よかった”って、

初めて思えた気がするんよ」


「よかった?」


「愛されてた、ってこと。

俺は見たんや。

りうらがないこの指にキスして、

ないこが泣きながら微笑んでた。

世界なんか、あのふたりにとってはどうでもええんよ。

ただ、“ふたりで在る”ってことが、すべてなんやって」


 



 


静かな夜風が、ふたりの間を通る。

ほとけは、そっといふの肩にもたれた。


「僕もさ、

いふくんと並んでるこの時間が、

“すべて”でもいいけどな」


いふは少し驚いて、

それから吹き出した。


「……バカ、急に何言うねん」


「ほんとのこと。

僕はいふくんに救われた。

今度は僕が、いふくんの後悔を少しでも軽くしたいの」


 


いふは黙って、ほとけの手を握った。


 


この愛は、“正しさ”なんかいらん。


ただ、

壊れずにここにいる。

ただ、

もうひとりで背負わせない。


あのふたりが見せてくれた、

壊れてでも“本物”だった愛。


それに比べれば、

俺たちはまだ、不器用で、臆病かもしれないけれど。


 


それでも、“今ここにある優しさ”は、

誰のものでもない、俺たちだけのもんやろ。


 


夜が深まっていく。

川の音に紛れて、誰も知らない“ふたりの語らい”が静かに続いていた

『本当の地獄を見せてあげる♡』

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