テラーノベル
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一応、完結…?
やっぱり続きも出す
―最期の別れまで、ふたりで―
目覚めたのは、春の匂いのする朝だった。
窓の外では桜が咲いていて、
何度も繰り返された季節が、また巡ってきたことを告げていた。
「なぁ、りうら」
ないこが静かに呼ぶ。
りうらは、ゆっくりと顔を向けた。
顔の輪郭は痩せて、肌も少し青白い。
それでもその目には、最後まで――ないこしか映っていなかった。
「俺さ、たぶんもう長くないんだって」
「うん。知ってるよ」
「……驚けよ」
「驚いたよ。
でもさ、俺、前からずっと覚悟してた」
「なに?」
「だって、ないこがいない未来とか、想像できなかったから。
一緒にいるのがずっとだったし、
一緒に死ぬのが、俺たちらしいかなって」
ないこは、笑った。
それは――悲しくて、うれしくて、苦しくて、
それでも“こんなにも愛された”という確かな実感だった。
「俺のこと、最後まで見ててくれる?」
「当たり前だろ。
見届けるって決めたから、一緒にいるんだよ。
俺以外の誰にも、ないこの最後なんて渡さない」
「……うん。ありがとう」
◆
数日後。
ないこの容態は、ゆっくりと、静かに、沈んでいった。
食事もほとんど喉を通らなくなって、
声も弱くなって、
それでも手だけは、りうらの手を離さなかった。
春の嵐が去った夜。
ふたりだけの病室。
窓は少し開いていて、風がカーテンを揺らしている。
ないこの呼吸は、浅く、かすかで、
それでも唇は動いた。
「りうら、」
「うん」
「なにがあっても、きみに出会えてよかったよ」
「俺もだよ。
俺の世界に、ないこがいてくれて、本当によかった」
りうらは、ないこの額に、そっと口づけた。
「愛してる」
「……俺も」
最後に交わした言葉は、それだった。
ないこの目が閉じる。
胸が、動かなくなる。
だけど――そこには、静かな幸福が残っていた。
誰にも見せなかった、
ふたりきりの終わり。
ふたりきりの永遠。
◆
数ヶ月後。
りうらも、同じ病室で息を引き取った。
自分から治療を拒んだわけではない。
ただ――“ないこがいない世界”では、生きていけなかっただけ。
「ふたりは、最後まで一緒だった」
そう記録されたカルテの文字は、
何よりも真実だった。
◆
遺されたのは、
ふたりの部屋に残っていた小さな日記帳。
表紙には、手書きの文字でこう記されていた。
「ふたりの世界は、誰にも理解されなくていい。
だってこれは、俺ときみだけの“正しい”だったんだから。」
その世界はもう閉じた。
でもきっと、あのふたりは今もどこかで、
静かに笑い合っている。
ふたりだけの星で。
誰にも壊されない、完璧な愛の中で。
コメント
2件
ずっと2人思考ええなぁ… まだあるって聞いてないんですけど!!?ありがたい…