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「ここがカフス売り場です」
ケヴィンの声で我に返った瞬間、バランスを崩した。後ろにニナがいなかったら、大変なことになっていただろう。
ケヴィンが紹介してくれたお店は、失礼だが表通りにあるお店と比べると、あまり広い方ではなかった。
棚と棚の間にある通路は狭く、人間二人がすれ違うのに十分な幅しかない。
しかし、見方を変えると、狭いながらも店主の工夫が見て取れた。
中央にある品物は、すべてガラスケースに入っていて、通路が狭くても圧迫感を感じない。
逆に壁際は、手に取ってもいいよう、むき出しにされていた。
カフスが買えるからといっても、ここは男性向けのお店ではないようだった。壁にかけられたアクセサリーは、どちらかというと女性ものが多い。
ブローチやネックレス、イヤリングまで揃っている。そのどれもが、ハンドメイドのような一点ものに感じられた。
「すみません。大丈夫でしたか」
慌てて手を差し出すケヴィン。真後ろにいたニナに支えられながら、私は申し訳なく思った。
だって、考え事をしていた私が悪いんだから。
「うん。平気。私の方こそごめんなさい」
「いえ、怪我がなくて良かったです。俺がいるのに怪我させたなんてエリアスが知ったら、殴られそうだ」
「いくらなんでも、そんなことはしないわよ」
ふふふっ、と笑う私にケヴィンは大真面目な顔で反論してきた。
「しますよ。賭けてもいいです。お嬢さんの前だから見栄を張っているだけで、男っていうのは、だいたいそういうもんなんですよ」
「もしかして、ケヴィンにも私のことを話しているの?」
「聞いていますよ。二年前からは惚気が多くて困るくらい」
の、惚気って一体何を話しているのよ、エリアス!
「おいおい、そういう話は買ってからにしてくれないか」
お店の奥から浅黒い男性が現れた。ケヴィンも浅黒い方だが、店主と思われる男性はさらに濃かった。
「すみません。カフスを見せてもらえますか?」
「いいですよ。どんなのをお求めで?」
「高くないのを出してくれ。と言っても、安物はダメだ」
「あと、できれば目立たないような物がいいんだけど」
なぜ? という二人の目線が同時に向けられた。
「えっと、お父様には話したけど、周りは知らないから。その……」
堪えられなくなって、私は頭を下げた。
なぜか公開処刑のような光景に、心なしか後ろにいるニナとテス卿から温かい視線を感じる。
前にいるケヴィンと店主はどうだろう。
「そりゃお相手さん、気の毒だな。こんな可愛らしいお嬢さんの彼氏面できなくて」
うっ!
「大丈夫だって。俺は会う度に惚気を聞かされているんだぜ。それくらい、許容範囲だろう」
グサッ!
二人の言葉は、エリアスに対しての感想だということは分かる。
しかしなぜだろう。私が非難されているような気がして、心が痛かった。
お父様に制限をかけられて、私も余裕がなかったことや、エリアスに対して、随分悪いことをしていたんだと気づかされた。
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こはる
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bouton
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今日、プレゼントの話をしてくれたニナと、カフスを提案してくれたケヴィンには感謝しないと。
「そんなお相手さんに、これは如何ですか?」
店主の声に、私は顔を上げた。
ケースから取り出されたカフスを手に乗せる。丸い、シンプルなカフスだった。
「丸いので、上着のボタンと同化して目立ちません」
「俺だったら、目立たないけど、多少は自己アピールする、こっちをオススメしますね」
ケヴィンがケースの中にある、銀色の四角いカフスに手を向けた。
「そうね。私も使っているのが、少しでも分かる方が嬉しいわ」
よく見なければ分からない物より、チラッと袖を見ただけで、カフスを付けてくれているのが分かる方がいい。
いちいち確認する重い女とも思われたくないし。
「貰う側のエリアスも、付けていることをお嬢さんに知ってもらいたいって思うはずですから」
「……それじゃ、これにするわ」
「ありがとうございます」
入れ替わるように、ニナが店主に近づいて、私とケヴィンは後方にいるテス卿の方へと向かった。
「お嬢様。この後はどうされますか? そろそろ昼時ですから、予定通りデデク公園へ向かわれますか?」
「もう、そんな時間? そうね、デデク公園に行くわ」
確かに、市場で軽く見て回って、昼食をデデク公園で食べようとしていたから、遅めに出たのよね。
今日は寄り道をしたから、余計時間が早く感じたみたい。
そうだ、と思いついた私は、ケヴィンの方を向いて、ある提案をした。
「ねぇ、時間があるなら、ケヴィンもデデク公園に来ない? カフスのお礼をしたいの」
「それはつまり、お昼を共にしてもいいということですか?」
さすが商人。皆まで言わなくても分かってくれた。
「勿論よ。だってお礼なんだから」
「……じゃ、ご一緒させていただきます」
頭をかいて、少しだけ迷ったような表情をしたものの、ケヴィンは私の提案を受け入れてくれた。
奢ると言っているに断られたら、逆に私の方が困ってしまうと分かっていたからだ。