「じゃあ… 元貴ってさ、 触られるのと、触るの、どっちが好き?」
唐突な問い。
答える間もなく、二宮の指がテーブルの端をなぞるように滑る。
まるで、触れてもいないのに肌を撫でられたような錯覚。
「……なんですか、それ」
「駆け引きの一種。質問で心を揺らすのって、わりと効くんだよ」
にやりと笑うその顔は、まさに“策士”。
けれど、元貴の中でも、何かが確実に変わり始めていた。
(……もう、逃げるつもりはない)
ずっとテレビ越しに見てきた人。
尊敬してた。でも今は――
ただの“男”として、目の前にいる。
「……触るほうです」
「へぇ」
「でも今日は、触られてみたくなってるかもしれない」
言い返すように笑った瞬間、
二宮の目が、ほんの一瞬だけ揺れた。
それが、火をつけた。
「じゃあ、確認しよっか」
静かに、手が伸びてきた。
グラスの代わりに、今度は元貴の指をとる。
絡められた指先。
少し汗ばんでいて、けれど温かい。
そのまま、テーブルの下。
他の客から見えない位置で、ゆっくりと指が撫でられる。
「……やっぱり震えてる」
「してません」
「嘘。さっきからずっと、指先が熱い」
「……」
その手が、布越しにゆっくりと膝に触れる。
そして、太ももをなぞるように上へ。
「これ以上は、お店でやることじゃないですよ」
「そうだね。でも、君が“されたい”って顔してるから」
「……なに、それ、ズルい」
「君の顔のせいだよ?」
返す言葉が見つからない。
言葉より、呼吸のほうが先に乱れそうになる。
「出ようか。ここ、もう飽きた」
そう囁いて、二宮は席を立つ。
一歩、二歩、歩いて振り返る。
「……来ないの?」
挑発的なその笑みが、喉の奥を乾かせた。
「……行きますよ」
気づけば立ち上がっていた。
身体の奥が、もう勝手に動いていた。
⸻
タクシーの中。
沈黙。
でも、視線だけは何度も交差する。
二宮の膝が、わずかに元貴に触れるたび、心臓が跳ねる。
それは偶然のふりをした、確信犯的な接触。
「……緊張してる?」
「……してません」
「じゃあ、今から試そうよ」
「何を」
「俺がちゃんと触れたらお前がどうなるかを」
その言葉の余韻が消える前に、
ホテルの明かりが、2人を迎えた。