ロビーには、多種多様な女性たちが集まっていた。だが、彼の目にはどの女性もどこか不自然に映った。見た目は女性らしいが、その仕草や立ち振る舞いからは明らかに男性的な要素が垣間見えるのだ。
赤いドレスを身に着けた一人の女性がソファに座っている。その姿勢は足を広げ、片手を膝に置いたままで、どう見てもエレガントとは言い難い。彼女は何度も裾を直すが、落ち着かない様子で小さく溜息をついていた。
その隣に立っている女性は、肩をすくめて腕を組んでいる。背筋をまっすぐに伸ばし、足を肩幅に開いて立っている姿は、まるで職場の上司が部下を見下ろしているかのような雰囲気だ。彼女もまた、華やかなドレスを着ているが、その体勢と表情がどこかそぐわない。さらに、顔には化粧の痕跡すらなく、その無骨な風貌が、女性らしさと程遠い印象を与えている。
一方、もう一人の女性はスーツのような格好をして、短髪で化粧もしていない。その顔つきは鋭く、目つきも男性的だ。彼女は無言でスマートフォンを操作しながら、誰にも関心を払わずに立っている。どこか苛立っている様子で、時折、深く息を吐き出す。
「やっぱり、みんな同じなんだな…」
彼は心の中でそう思った。見た目はどれも女性らしいが、その行動や態度には男性的な一面が垣間見える。まるで、女性の体に入ったばかりの不慣れな男性が、その体を持て余しているかのようだった。
そのとき、船が出航する合図の汽笛が鳴り響いた。深い音がロビー全体に響き渡り、船が動き始めるのが感じられた。その瞬間、ロビーの入り口のドアが勢いよく開き、一人の女性が駆け込んできた。
彼女はTシャツに短パン、そして野球帽をかぶったカジュアルな格好をしている。だが、最も目を引いたのは、その大きな胸だった。彼女はブラジャーをしていないため、駆け足で走るたびに胸が上下に揺れている。息を切らしながら立ち止まり、ロビーを見渡すと、その表情が一瞬にして驚愕に変わった。
彼女もまた、他の女性たちと同じく、女性の体に変えられた元男性だったのだろう。状況を察した彼女は、信じられないという表情で口を開け、視線をロビー中に向けている。
「ここにいる全員が…まさか、みんな…?」
彼女の目が彼と合った。二人の間に奇妙な連帯感が生まれたのを彼は感じた。自分と同じように戸惑い、元の体に戻るためにここに来たのだと理解した瞬間だった。
彼は自分の置かれた状況に困惑しながらも、この船に乗ることが何を意味するのか、少しずつ理解し始めていた。目の前に広がる光景は、これからの彼の運命を象徴するかのように不確かで、しかし確実に動き始めた船のように、止められない流れを感じさせるものだった。
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