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「す、すいちゃん…っ」
『久しぶりだね?みこち』
目を奪われるようなキラキラな笑顔。昔からそうでみこの大好きな表情。
その笑顔は輝きを増していて、イルミネーションなんか気にならないくらい眩しいと思える。
そうだ。さっきみた広告も、この笑顔だった。だから、足を止めてしまったのかもしれない。
「え、すいちゃん…その、これ」
『そうこの広告わたし。可愛いでしょ?一緒に写真撮ってあげようか?』
「なんで本人に本人の広告と写真撮ってもらわなきゃいけないんだよ」
『だって見惚れてたでしょみこち』
「はあ〜!?そんなことないが!」
『ww』
久しぶりに話すすいちゃんは、見た目こそ輝きを増していたが中身は変わらずでどこか昔を思い出す。
『ねえみこち、このあと暇してる?』
「うん」
『ならご飯行こうよ』
「いいよ」
そう言うと、すいちゃんは被っていた帽子を更に深く被り、スマホでタクシーを呼んでくれる
すいちゃんはタクシーの扉を開けると、先にみこに乗るように促す。
こういうさり気ない優しさも変わっていない。
「すいちゃん」
『んー?』
聞きたいことはいっぱいある。
すいちゃんは何のお仕事をしているのか。どれくらい有名なのか。どうやってみこを見つけたのか。どうして声をかけたのか。
けど今きく勇気はなくて、全てを飲み込んでしまう。
「…どこいくの?」
『焼肉✨️』
「また?」
「またって最後一緒に行ったのどんだけ前だと思ってるの笑 ほら着いたよ。」
そういって運転手さんにをカードでサッと払うと、先に降りて手を差し伸べてくれて、そのまま店内へ入る。
『すみません、予約していた さくら なんですけど』
「はッ!?」
急に出てきた自分の名前に驚き声をあげるも、すいちゃんに静かにという合図か、手をぎゅっと握られ、そのまま個室へ案内された。
『よいしょっ 何食べよっかなあ〜✨️』
「いや、その前になんでみこの名前で予約してんの」
『星街だとバレちゃうからね』
「だからってみこの名前じゃなくても『え!これ美味しそうみてみこちこれ頼もう』
「いや聞けって…ほんとだ美味しそう…って高っ!?!」
人が話しているのに、聞く気もなくメニューを眺め、目の星を輝かせているすいちゃん。
みこもメニューへ視線をやってみる。
え……これ、こんなに少ない量でこんな値段すんの?ほんとに肉?どうしようみこ こんな高いもの食えん……てか今お金もってたっけ…?
焦って財布を確認しようとすると、それを見ていたすいちゃんがふわりと笑ってそれを阻止する。
『気にしないでいいよ、みこちも好きなの頼みな』
「いやでも、みここんなお金もってないから…というかさっきのタクシー代も返さなきゃ」
『大丈夫だって。私に付き合ってもらってるんだし』
「…言ったからな、あとから言われても返さないぞ!?」
『うん。ほら早く頼みな〜』
みこの知っているすいちゃんじゃ絶対しない行為。昔はお金貸すのもあんなに渋ってたのに。嬉しいはずなのに、素直に喜べない気がした。
メニューを眺めるすいちゃん。広告では見たけど、再開してから本物をちゃんと見たのは初めてだと気づく。
整った顔。美味しそうなお肉を見つければ、その瞳の一番星が輝きを増して、野菜が一緒についてくるタイプだと気づけば、しゅんと眉が下がる。
ああ、懐かしい。
昔からお肉への瞳は変わっていないらしい。
みこが、よく知ってるすいちゃん。
広告の前でのすいちゃんも、タクシーの中のすいちゃんも、さっきの予約の時も。
みこと、同じすいちゃん。隣に立っていたすいちゃんだ。
しばらく観察していれば、パチリとその一番星の瞳と目が合って、星は輝くでもなく流れた。
___優しく微笑まれた。
その瞬間…心臓がキュッとなる。
一瞬にして重なっていた昔のすいちゃんは消えて、今のキラキラなすいちゃんがいる。
『なあに笑』
「…すいちゃんは、」
『ん……あ、ごめんみこち。仕事の電話きたから一瞬でてくるね』
「あ、うん」
仕事の電話。
そういって出ていったすいちゃんの表情。
先程までの笑顔じゃなくて、見た事ないくらい真剣で硬い表情。声もワントーン下がっていた。
仕事モードのすいちゃんだろうか。
「……昔と全然違うなんて、当たり前なはずなのに」
すいちゃんが出ていった扉。
ガチャリと閉まる音を最後に、この部屋には静けさが立ち込めた。
そういえば、個室の焼肉なんて初めて来た。
すいちゃんは慣れてるみたいだし他の人とも沢山来てるんだろうな。
なんの、お仕事の電話なんだろう。相手は誰なんだろう。芸能人、なんだしマネージャーさん、とか居るのかな。
…みこもお手洗い行こうかな。
扉に手をかけて外に出れば、ザワザワとみこの耳に残った静けさをかき消すように騒がしさがみこを包む。
少しだけ、頭をぐるぐると回っていた考えがごちゃごちゃになって消えるようで今のみこには心地よかった。
しかし、お手洗いの扉を開けば再びその場は静けさに飲み込まれる。
頭をブンブンと振って、できるだけ何も考えないようにする。何回振ってもあのキラキラなすいちゃんはみこの頭から離れてくれないけど。
───キュッ。
蛇口を捻って水を止める。
目の前の鏡へ視線を向ければ、そこに居るのは今のみこだ。
隈が酷くて、痩せこけて、メイクもまともにしていない、みこ。
昔とは違う、明らか暗くなった さくらみこだ。
さっきまで隣にいた、すいちゃんとはまるで違う。
すいちゃんは街中を歩いていたら、声をかけられるような、可愛くて、綺麗でかっこいい。
みこは…今のみこは、全くもってそんなことないだろう。声なんてかけられない。そもそも、視界にすら、入れない。
今の、キラキラなすいちゃんの隣になんて、いていいような存在じゃない。
……昔のすいちゃんの隣にも、立てっこない。
────だから、これ以上近づかない方がいいのかもしれない。
……それでも。
「…戻らないと」
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