静かに寝返りをうつ。
すると目の前に隼士の顔があって、朝陽は思わず緊張に身体を固めた。
寝られない。
寝られるはずがない。
隼士の家に泊まることが決まってから、こうなるであろうことは想像していたが、実際に状況を目の当たりにすると、その辛さは予想を遙かに超えていた。
当然だ、隼士は忘れているから平気かもしれないが、こちらは二人の過去をしっかりと覚えているのだから。
このベッドの上で二人は何度も一緒に寝た。何度も――――身体を重ねた。全ての記憶が、目を閉じただけで鮮明に蘇る。だからここには泊まりたくなかったのに。
寝る場所だってそうだ。泊まることになれば必ず『俺のベッドは広いから、二人で寝ても平気だ』と引っ張りこまれる。それが目に見えていたから直前までソファーで寝ると言ったのに、その抵抗も無にされた。
というか、愛する男に眉を垂らされながら「自分と一緒に寝るのが嫌なのか」と聞かれて、イエスと言える人間がどこにいる。
結局、朝陽の連敗が決まり、二人でベッドに入ること一時間。朝陽は予想どおり、隣にいる隼士を意識しすぎて眠れないという状況に追いこまれた。
隼士の息遣いや鼓動、そして何より隼士の匂いが当人やシーツから香ってきて、朝陽の官能を的確に刺激してくれる。それでなくても記憶をなくしてから二十日以上、セックスをしてないというのに、これは何の拷問だ。
これまで募る欲求を解放するために何度か自慰をしてみたが、すっかり隼士の愛撫に慣れてしまった身体は、ただ精を放つだけの行為に不満を脹らませるばかりだった。その上で、この状況だ。久しぶりに感じる隼士の体温に、下腹部を反応させてしまっても仕方ないと言許して欲しい。
だが、そうとはいってもやはりこのままではいけない。朝陽はゆっくりと身体を起こすと、音を立てないようにベッドから出て、寝室を後にした。
隣の部屋は既に空調が切れていて、空気が冷たい。だが火照り始めた身体には丁度よかった。
朝陽は暗闇の中で自分の鞄を漁り、中から避妊具と使いきりのローションを取り出すと、早々に開封しながらソファーへと足を進める。
「隼士、本当ごめん」
扉の向こうで寝ている隼士に小声で謝りながら、ソファーへと横たわる。そして徐に穿いていたスウェットのスボンを太腿の辺りまで降ろすと、ゴムを着けた指をそろそろと自らの後孔へと伸ばした。
「んっ……」
ゴムの表面を濡らしたローションの冷たさに、一瞬身体が強張る。だが入口を撫でているうちに慣れてしまい、すぐに何も感じなくなった。
続けて二本の指をゆるりゆるりと奥へ進めると、男を受け入れることに慣れきった朝陽の後孔は待っていたかのように指を丸々と飲みこんだ。
「ふ……く、ん……」
親友の部屋で自慰行為を始めるなんて、最低以外の何物でもない。でも隼士の香りがするこの部屋なら、少しは身体も満足してくれるかもしれない。そんな望みに縋ったのだ。
さっさと気持ちよくなって精を吐き出したら、すぐにベッドに戻って寝よう。そうしたらきっと、何もなかったかのような顔をして朝を迎えられるはず。
これはそのために必要な行為だと自分に言い聞かせながら、朝陽は秘奥の中で指を大きく動かす。しかし――――。
「っ……ち、が……」
グチュグチュと卑猥な音を立てながら中を掻き回すも、指先が気持ちよくなれる場所に当たらない。数日前に自らを慰めた時もそうだったが、後孔の奥に性感帯があることが分かっているのに、求める場所に届かないのだ。
確か隼士はここら辺を弄っていたはず、と記憶を辿りながら指を動かすも、伝わってくるのは違和感ばかりで気持ちよくなれない。
やはり、ダメなのか。この場所なら大丈夫だと思っていたのに。
朝陽は諦めを抱きながら、指を抜こうとする。その時だった。
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