せめてもの頼みの綱でもある家政婦さんの一人が出て来るには、まだ丸一日程があって、貴仁さんは夕食時も気がそぞろな様子だった。
「……坊ちゃま、やはり私の方から連絡を取り付けてみましょうか?」
見兼ねた源治さんが、そう声をかけるも、「いや……」と、彼は再び首を振って、早々に自室ヘ引っ込んでしまった。
「……きっと、とても気にされていて……」
彼の心情を思いやって口にすると、
「ええ……」と、源治さんが応じて、「元より責任感が強い方ですので、失くしたことをご自身でも許せないのでしょう」と、話した。
「そう……ですよね」と、頷く。
「私も、何かできたらいいのだけれど……。あまり差し出がましくしてもと思って……」
もうあらかた目ぼしいところは一緒に探したこともあって、これ以上の働きかけはよけいに彼のプレッシャーを煽ってしまうようにも感じられた。
「でしたら……、」と、やおら思いついたように、源治さんが口を開いた。
「明日は、お二人でお出かけになられてはいかがですか?」
「でも貴仁さんは、乗ってくれるでしょうか……」
彼の落胆ぶりを見るにつけ、浮かない顔で返す。
「こういう時は、少し気持ちを切り替えた方がいいですから。坊ちゃまが気乗りしないようでしたら、私も後押しをしますので、是非に」
そう源治さんから押し切られた。
「わかり……ました。明日、誘ってみますね……」
上手くいくだろうかと、心もとない思いで口にする私に、
「ええ、是非とも」と、源治さんが念を押して、元気づけてくれるようににっこりと微笑んだ。
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