CASE 四郎
俺は急いで非常階段の扉を開けた。
バンッ!!
ドタドダドタドタ!!
「動かないで下さいねー。」
「この場にいる全員、話を聞かせてもらいますからね。」
警察達がフロアにいる人間に向かって、叫んでいる。
「あっぶな!!何で、警察がここに来たんだよ。」
フロアから出た𣜿葉が言葉を放った。
「誰かが警察に通報したんだろ。それか、情報が警察に漏れていたとか。」
俺は階段を降りながら𣜿葉の問いに答えた。
タタタタタタタッ!!
賭博が行われたフロアは最上階、下に降りるにしても時間が掛かる。
エレベーターで降りるにしても警察と鉢合わせる可能性がある。
タンタンタンタンッ。
俺は足を止めて、辰巳さんと𣜿葉に視線を送った。
「誰かが登って来てる、ホテルの中に戻るぞ。」
扉を開け俺達はホテル内に戻った。
20階ー
「非常階段からも警察が登って来てるのか…。ホテルから出るのも難しくなって来たな。」
辰巳さんはそう言って、ネクタイを緩めた。
「どうする?非常階段も使えないし、エレベーターも駄目だろ。」
𣜿葉はそう言って、俺に尋ねる。
「非常階段は1つだけじゃない。もう一つの非常階段に向かうぞ。」
俺はスマホを操作しホテルの構造の写真を出した。
七海が送って来たホテルの構造を見ながら、非常階段へと繋がる扉探してながら廊下を歩いた。
上の廊下から客達が騒いでいる声が、下の階でも分かるくらい騒いでいた。
ブー、ブー。
一郎から着信が入った。
「ちょっと、止まって。一郎から着信が入った。」
足を止め一郎の通話に出た。
「もしもし、四郎?俺だけど今、大丈夫か?」
「大丈夫じゃねーけど、警察が乗り込んで来た。」
「やっぱり、そうか。悪いが四郎達を回収出来ない事を先に言っておく。」
まぁ、そうだろうな。
一郎達も警察に捕まったら、まずいからな。
「ボスの命令で四郎の事を助けに行けない。モモちゃんを迎えに来いってボスに命令された。俺達はボスの命令に従うつもりだ。ボスと光臣さんがホテルに向かう準備をしている。四郎達が警察に捕まった時、話をするそうだ。」
ボスがここに向かって来てるのか?
「モモちゃんを回収した後、ボス達がホテルに向かう手筈になってる。」
「ボスに伝えろ、ここには来なくて良いって。」
「…は?」
辰巳さんが俺と一郎の会話が聞こえたみたいで、ジェスチャーで電話を代われと言ってきた。
俺は辰巳さんにスマホを渡した。
「一郎か、話は聞こえた。雪哉さんと組長をここに来させるのはやめた方が良い。親父達がここに来たら疑いを掛けられる可能性がある。俺達は何とかしてホテルから出ると雪哉さんに連絡を入れろ。」
「…、分かりました。辰巳さんと四郎がそう判断したのなら。」
「お嬢の事も頼む。」
辰巳さんはそう言ってから、俺にスマホを渡した。
キィィィ…。
どこかの扉が開かれる音がした。
俺は素早く通話を切り、近くの部屋のドアを開けた。
「誰か来た。ひとまずこの部屋に隠れるぞ。」
俺達は部屋の中に入り、入って来た人物と鉢合わせないようにした。
カツカツカツ…。
廊下を誰かが歩いて来る音が響いた。
「部屋を隈なく探せ。フロアの客が逃げて来た可能性があるからな。」
「はい!!分かりました!!」
声の低さからして、50代の男か。
それと若い男の声。
警官と刑事が部屋を見回ってるのか?
ガチャッ。
どこかの部屋の扉が開かれる音と、数人の足音が聞こえた。
どうする?
警察が入って来たら殺るか。
「辰巳さん、入って来たら俺が…。」
「いや、ちょい待て。」
俺の言葉を遮った𣜿葉は、手のひらから丸い機械の玉が出て来た。
手のひらから出て来た?
は?
俺が目を丸くしていると𣜿葉はハハッと軽く笑った後、言葉を放った。
「俺だって、辰巳にみたいにJewelry Wordsの力を少し使えんの。それと四郎の考えてる事をやるのはリスクが高い。応援を呼ばれたらどうすんだよ。」
どうやら、𣜿葉に俺の考えを読まれていたらしい。
「だけど、それとその玉が何の関係があんの。」
「まぁ、見てろ。」
𣜿葉はそう言って、扉を少し開けて廊下に玉を転がした。
俺達は少し開いている隙間から、廊下の様子を見る事にした。
転がった玉から薄い白い煙が立ちあがった。
部屋から出て来た警察官達が煙を見て驚いていた。
「何だよ、この煙は!?ゔっ。」
バタッ。
警官の男が1人、廊下に倒れた。
「け、警部!?大丈夫で…。」
バタッ。
この煙は…、睡眠ガスか。
今のうちに部屋から出て、非常階段まで行けそうだな。
𣜿葉がジェスチャーで廊下に出ようと合図して来た。
俺達は部屋から出て非常階段へと向かった。
タタタタタタタッ。
「おい、睡眠ガスの玉を回収して来なくて良かったのか?警察が見つけたらどうすんだ?」
「大丈夫、5分したら消えるからな。」
「消える?どう言う事だ?」
「Jewelry Words の能力だって言ったろ?想像した物を出せる能力なのうちの弟は。」
想像した物を出せる能力って事か。
「見えたぞ!!」
𣜿葉の視線の先には非常階段入り口と書かれた扉だった。
キィィィ…。
扉がゆっくりと開かれた。
だが、𣜿葉が扉を開ける前に閉じられていた扉が開かれたのだ。
俺達は扉から少し離れ体勢を整えた。
誰かが入って来る。
カツカツカツ…。
扉から現れたのはスーツ姿の男だった。
俺はその男とバッチリ目が合った。
「八代警部補!!誰かいましたか?」
八代と呼ばれた男の後ろから警官が廊下を覗こうとしていた。
やっぱり警察だったか。
応援を呼ばれる。
そう思っていたが、八代と呼ばれた男は予想外の言葉を放った。
「この階はいなさそうだ。お前等は上の階を見て来てくれ。」
「分かりました!!」
カンカンカンッ。
警官達が上の階に登って行った。
だが、八代だけが俺達がいる階に残り中に入って来た。
「お前等、賭博会場から上手く逃げ出せたみたいだな。」
八代はそう言って、俺達に話し掛けて来た。
「だったら?俺達を捕まえる為に中に入って来たのか?」
辰巳さんは八代に問い掛けた。
「だったら、部下を上に行かせないだろ?安心しろ、俺はお前達を逃す為にここに来たんだからな。」
「は?どう言う事?」
「話は後だ、それよりも先に降りるぞ。」
俺の問いに答えた八代は扉を開け階段を降り始めた。
「本当について行って良いのかよ。相手は警察だぞ。」
𣜿葉が疑うのも無理はない。
普通、警察が俺達みたいなのを見逃したりはしない。
「今はあの男の言う通りにした方が良いだろ。どのみちここから出ないと俺達は捕まるんだからな。」
辰巳さんはそう言って、階段を降り始めた。
「アイツが妙な動きをしたから殺せば良いだろ。」
少しでもおかしな行動を取ったら殺せば良い。
「お前、真顔でサラッと物を言うな…。」
俺の後を続くように𣜿葉も階段を降り始めた。
タタタタタタタッ!!
「了解、フロアにいた客達は拘束しろ。子供達の遺体は丁重に扱え、そのまま鑑識に回すように手配しろ。」
八代はインカムで指示を出していた。
俺達の事は言わないみたいだな。
「おい、お前等は運動神経は良い方か。」
八代が足を止めて振り返って来た。
「は?いきなり何?」
「下から上がって来てるんだよ。このままだったら鉢合わせになる。飛び移りろ。」
俺の問いに答えた八代がそう言ってた。
今、俺達がいるのは15階だ。
「は、はぁ!?飛び降りるってかなり距離があんだぞ!?」
「嫌なら捕まるだけだぞ?男なら根性見せろ。」
八代は𣜿葉に向かって言葉を放った。
幸いな事なのか、大きな木が飛び降りた先にあった。
下を見て見るとパトカーはなかった。
八代はパトカーが止まっていない裏側に俺達を誘導したのか。
俺は階段の手すりに手を掛け木に飛び移った。
「𣜿葉、俺達も行くぞ。お前、体力はあるだろ。」
「嘘だろ?!あー!!もう!!」
辰巳さんと𣜿葉も階段から飛び降りた。
ザザザザザザッ!!
ガサガサガサカザカザカザ!!
ドサッ!!
無事に木に飛び移れたが、体は擦り傷だらけになった。
「いってぇ…っ。」
𣜿葉はスーツに付いた葉を落としながら呟いた。
「急ぐぞ、ホテルから離れた方が良い。」
「ちょっとは休憩させろよ…っ。」
辰巳さんの先陣を切るように走り出した。
𣜿葉はよろよろとした足で辰巳さんの後を追い掛け、俺達はボロボロのままホテルを後にした。
八代と言う男は一体、どう言うつもりで俺達を逃したのか謎のままだった。
ブー、ブー、ブー。
四郎達が無事にホテルから脱出したのを見ていた八代和樹のスマホが振動した。
ピッ。
「お前の言う通りにホテルから出したぞ。」
「あぁ、悪いな。助かったよ。」
「こっちとしても、お前が今日の事を俺に知らせてくれたしお互い様だろ。椿には逃げられちまったがなぁ…。」
「逃げられるのは想定内だよ、あの男は察しが良い。椿会の事を警察が放って置けない存在にさせるのが目的だったしな。」
タタタタタタタッ。
足音を聞いた八代和樹は「人が来たから切るぞ。」と言って通話を終了させた。
ホテルから離れた所にある大きな公園に四郎達は移動していた。
「親父、すいません。連絡するのが遅くなりました。」
辰巳零士は九条光臣に連絡を入れていた。
四郎のスマホにも兵頭雪哉から着信が入った。
「ボス、お疲れ様です。」
「無事にホテルから出て来れたんだな。一郎から連絡を受けた時は驚いたが、良かったよ。」
「すいません、俺達が出て来れたのも八代と言う刑事が協力をしてくれたんです。」
「刑事が?どう言う事だ?」
「俺もよく分からないのですが…。俺達を逃すように誘導してくれたんです。どう言った理由でそうしたのかは分かりませんが、今回に関しては助かりました。」
兵頭雪哉の言葉を待っていると、車のドアが開く音がした。
四郎は音のした方に視線を向けると、一郎達が車から降り来ていた。
タタタタタタタ!!
「モ、モモちゃん待って!!!」
モモが四郎に向かって走って来ていた。
その後を二郎が追い掛けているのが視界に入った。
どうやら、モモだけではなく九条美雨も走っていた。
「四郎っ!!」
「辰巳!!」
モモは四郎に抱き付き、九条美雨は辰巳零士に抱き付いた。
「四郎、怪我してる。」
「あー、これは仕方のない怪我だ。」
「仕方ないって?」
「おい、二郎。どうしてここに来たんだ。」
四郎はそう言って、二郎に尋ねた。
「ボスの命令でね、モモちゃんと一緒に四郎を迎えに来たんだよ。」
四郎と辰巳零士は状況を飲み込めていなかった。
「お、お嬢?!どうしてここに…?」
「辰巳が遅いから迎えに来たの!!すごい怪我してる、どうしたの?この怪我…。」
「すいません、心配掛けましたね。怪我は大した事ありませんから大丈夫ですよ。」
「辰巳さん!!お疲れ様です!!頭から言われてお嬢と一緒にお迎えに上がりました。そ、それと…。」
辰巳零士の部下である男の後ろから1人の少年が現れた。
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